みんなで夢叶えようぜ

第22話 罵声

 翌日。

 軽い足取りとまでは言えないが、かなり普段通に近いような歩調で学校へ来た。

 今回のことは、過去の思い出として皆と笑い話に出来ればいい。

 そうなんだ。もう、終わったことなのだ。

 だから、どうでも……良いんだ……。

 普通に毎日を過ごせば良い。

 部活も、入らなくていいや。

 でも、諦めきれない気持ちは否めない。

 だってこんな事、二度と無いだろうから。楽しかった皆んなとの会話。

 もうすることは無いだろう。

 もちろん、これを機に皆んなとの交流がなくなることは無いだろう。

 でも、昨日までの事は昔話になって、未来の希望では無くなる。


 僕は、それが嫌だ。

 でも、それが現実。


 決まってしまったことだ。

 落ち込んでも仕方がないんだ。

 僕には決まったことを覆すほどの力はない。

 そんな事は分かってるけど、諦めきれない。

 諦めたくない。

 動物の心は、どうしてここまで鬱陶しいのだろう。

 逃がした獲物にずっと執着してしまう。

 昨日、兎々虹に背中を押してもらったじゃないか。

 僕は自分に言い聞かせる。


 そして、本当ならここである程度けじめを付けることが出来たはずなのに。

 昼休み、事件は起きた。

 お手洗いから戻って来た時、廊下に響き渡っていたのは……。


「あんなに威張っといて、追い返されたってマ!?」

「ダッサァ」

「そうなると思ってた」

「考えたら分かるだろ」

「逆に何で行けると思ったん?」

「普通にアホ」


 罵声とも言えそうな言葉。

 この状況に対峙たいじしたまま、僕は動けない。

 しかもその話題は僕たちの事。

 だって……。


「天ヶ瀬と狭霧だっけ。あの陰キャ達」

「その周りの連中も馬鹿なんだろうねw」

「馬鹿の集い」

「一度お目にかかりたいもんだね」

「厨二病重症患者」

「主人公気取り草」


 どうして……こうなったんだ!?

 受ける言葉が僕の心をえぐる。

 耳を塞ごうにも塞げない。

 近くに注意してくれそうな先生も居ない。

 僕は、どうしたら……。


「なぁ、俺達はどうすればいいんだ……?」


 僕の横に椿が現れたのはその時だった。


「椿!」


 気まずくて敢えて交流を控えていたのかと勝手に思い込んでいた僕は、椿が現れてくれたことに感動する。

 見慣れた椿がそばに居てくれると、とても安心できる。


「ウチら、ヘイト買ってる……」

「ねぇ怖いよ……」

「何なの、あの人達……」

「助けて……」


 遅れて合流していた女子直談判メンバー。

 とても怯え、怖がっている。

 出来るだけ平然とした顔を保とうとするが、僕だって怖い。


「知らないフリをして、それぞれ教室に戻ろう」


 椿がそう提案したので、僕らは黙ってうなずいてアイコンタクトで了解を伝える。

 そして少し屈むような体勢で十人に満たないくらいの人たちの前を通り抜けようとした。

 が……。


「お、噂をすれば本人様達じゃないですか〜」


 気づかれてしまった。


「ねぇねぇ、気まずい空間はどうですか〜?」

「どうして校長に直談判なんかしたくらいで部活を新設できると思ったの?」

「アハハハハ!」

「泣くぞこいつらハハハハ」


 笑いを交えながら煽ってくる連中。

 それでも無言を通す僕ら。

 無視して通り抜けるべきだと本能が察知した。

 気にせず歩き続けるも……。


「ちょっと待ってもらおうか?」


 八木が腕を掴まれてしまった。

 マズい。かなりマズい。

 気が強い方の八木も、この状況で反撃など出来ない。


「やめて……」


 しかも相手は男子。

 八木が怖がるのも当然だ。

 助けに出たいが、周りを囲まれてしまっている。


「やめろよ……」


 こんなときに限って言葉を振り絞らせられない。

 大きな声が出ない。

 彼奴等あいつらに声は届いていない。

 なんで僕はこんなにも弱いんだ……!

 僕が……怯えてしまっている。

 罵声と、追い詰められたこの状況に怯えてしまっているんだ。

 誰か……助けてくれ……。

 誰か……。


「おいやめろ! 彩芽の手を放せ!」


 そこに現れた一筋の光。

 それは僕がよく知る……。


 桃李だったのだ。

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