10.隙

「禁書を渡せ!さもなくば、こいつがどうなってもいいのか……!」


 食人を好むモンスターグールは、犬のような顔をし長い舌を出しながら息を荒く捲し立てる。硬い弾力の皮膚は刃物を通すのは難しいだろう。

 人を食べているせいか悪臭がひどく、汚物のような臭いがする。

 探索をする際、リオさんは足を踏み外してしまい、その隙に捕まってしまった。

 目を離してしまったことに後悔する。今度からは全員に自動防御魔法をかけておこう。


 しかし、この場の誰もリオさんのことは心配していない。

 なぜなら、召喚媒体の本が開いているからだ。


 冷たい光を反射して、無数の刃が音を立てて歯車と共に現れる。

 グールは叫び声を上げようとした口に触手が突っ込まれた。歯車の刃が回転する音と同時に背中に穴が開き、泥と血が吹き出す。

 グロテスクな光景にこれを自分がされかけたと思うと吐き気を催す。

 他のメンバーの遺体が綺麗だったのは奇跡だろう。それは皆も同じ気持ちだったようで、顔面蒼白になっている。

 グールは後ろに倒れ、リオさんは嬉しそうにドラドの頭を撫でる。


 ドラドは、くるりと私の方を向くと音を立てて近寄り跪く。


「アザラ様にも褒めてもらいたいようです?」


 正直臭いし怖いし嫌なんだけども、リオさんを助けてくれたのは事実なので、そうは言っていられない。

 恐る恐る撫でると、また笑った。

 顔とされるパーツは一つもないが、存外に感情表現は豊かなのかもしれない。

 ひとしきり撫でると、満足したのか帰って行った。さっぱり分からないが、手には異臭がこびり付いた。

 最近お風呂にも入れてないのもあり、アスタロトと協力して風呂を制作した。

 クロウさんが以前採取してきくれたのを使い、薬草風呂にする。


 有り難くも先に入らせてもらった。久しぶりに使った湯船は体の芯から温まり、生き返らせてくれた。

 足の先がジンジンと染み、深く息を吐く。頭も即席ジャンプーで洗い、自分が清潔になれたことに深く感謝した。

 お礼を言い、他のメンバーと交代してその後は交互に入った。


「俺は最後に入る。」


「クロウさんはそれでいいの?」


「あぁ、入浴中に首が外れたら血の池風呂になってしまう。」


「それは大変ね…….。」


 恐怖映像だが、下手したら溺れ死ぬ可能性もある為、リュカが見張り役をかってくれた。

 ご飯も大分慣れてきた。薬草に詳しい者と、食べれそうなモンスターを探して調理する者とで別れて、少しばかり豪勢な食事をとる。

 

 お風呂に入れて食事をとれて、沢山の仲間が出来て話し、空をずっと見ていないことに気付く。撮られていないことは分かっているが、撮影蝙蝠に向かって中指を立ててから眠りにつく。


 恐ろしい悪夢の始まりだった。

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