第7話「のんびりとした休日」

 外は晴れているようで、太陽の陽射しが部屋の中に届いていた。

 柚葉は外を見た後、レースのカーテンをシャッと閉めた。


 今日は土曜日で学校も休み。お出かけでもしようかなと思ったが、いまいちそのような気分にもならない。誰でもあると思われる、のんびりしたい日。


 柚葉は読みかけの漫画を手に取る。つらつらと読んでいくものの、どこか集中できない。今日はどうしたんだろうかと自分に問いかけるが、よく分からない。


(うーん、なんか集中できないなぁ。まぁそんな日もあるか)


 柚葉は前向きに物事を考えることができるところが長所だ。楽天的というとちょっとマイナスなイメージかもしれないが、あれこれくよくよと悩むことが少ない感じ。本人にも自覚はあり、自分の長所だと思っていた。


 そのとき、柚葉のスマホが鳴った。画面を見ると『柚真』とある。あれ? どうしたのだろうかと思いながら、柚葉は電話に出る。


「もしもし」

「もしもし、あ、ごめん、寝てたか?」

「いや、起きてたよ。どうかした?」

「そうか。いや、暇なら今からそっちに行ってもいいかなと思って」


 柚真がちょっと小さめの声で話す。そっちに行ってもいいかな……って、うちに来るということか。柚真の家は十分くらい歩いたところにある。そういえば最近はうちに来ることもなかったな……と思った柚葉は、


「あ、うん、いいよ。家にいるから」


 と、返事をした。


「ありがとう。じゃあ今から行く」


 そう言って電話は切れた。柚真はどうかしたのだろうか。この前告白されたとは言っていたが、その後は特に変わった様子は見られなかった。まぁ深く考えるのはやめにしようと、ここでも柚葉は前向きだった。


 十五分くらい経って、インターホンが鳴った。柚葉が出ると柚真が一人で玄関先にいた。


「ごめん、急に来てしまって」

「ううん、大丈夫。ここじゃあれだし上がって」


 柚真は「おじゃまします」と言って靴をそろえて上がった。柚葉はそのまま自分の部屋に案内する。


「なんか、柚葉の部屋に入るのも久しぶりだ」

「ああ、そうだね、最近はなかったような。それにしても、何かあった?」

「あ、いや、特に何かあったわけでもないんだけど、急に柚葉に会いたくなって。変だよな、学校でいつも会っているのに」


 柚真が顔をぽりぽりとかきながら、柚葉とは目線を合わせずに言った。ちょっと恥ずかしいのかなと、柚葉は思った。


「そっか、まぁそんなときもあるよ。私はなーんか何事も集中できなくて。そういう日なのかなって思ってたけど、柚真が来てくれてちょうどよかったかも」

「ちょうどよかったって?」

「話し相手がいるっていうことさー。柚真だって寂しかったんでしょ?」

「……い、いや、そういうわけでは……」

「んんー? 素直になった方がいいと思うけどなぁ」

「……柚葉のそういうところ、嫌いかもしれない」

「あーっ、また生意気なこと言ったなぁ。まぁいいや、ちょっとジュースとってくるね」


 柚葉は立ち上がって、部屋を出てキッチンの方へ行きオレンジジュースを用意した。柚真は炭酸系よりはオレンジジュースやりんごジュースが好きだから。そのことは柚葉も長年の付き合いで知っていた。


 ジュースを用意して部屋に戻ると、柚真が漫画を読んでいた。先ほど柚葉が読んでいた漫画だ。


「はいどうぞ。柚真もその漫画読んでたっけ?」

「ありがとう。いや、タイトルは知ってるけど読んだことはなくて」

「そっか、貸してあげてもいいよ。一巻から揃ってるから」

「ちらっと読んでみたけど、面白そうだな。借りてみようかな」


 そんな他愛のない会話で盛り上がる二人だった。男女の恋仲ではない、ごく普通の友達としてのお付き合い。柚葉は柚真との距離感が好きだった。


「そういえば、柚真は落ち込んだりしてない?」


 急にそんなことを訊く柚葉だった。


「ん? どうして?」

「あ、いや、この前告白されたって言ってたじゃん? 心の色も灰色だって。柚真は相手の女の子のこと心配してるんじゃないかなって」

「……まぁ、全然気にしないというと嘘になるかな。でも、仕方ないと思うようにした。あのとき柚葉が話し相手になってくれたから。ありがとう」


 ストレートに『ありがとう』と言われて、ちょっとドキッとした柚葉だった。


「……あ、そ、そっか、それならいいんだ。私もお役に立てたようで」

「……心の色が、少しだけ明るい色になるのは、柚葉のおかげだよ」


 その言葉を聞いて、またドキッとしたのは柚葉だった。あ、あれ? 私どうしたのかな……と、自分でもよく分からない柚葉の心。

 心の色がちょっとだけ変化しているのは、柚葉自身も気づいていなかった。

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