第45話 感覚の追憶
川を後にした彼女は、感覚の呼応を胸に抱きながら歩き続けていた。川のせせらぎや、風の音が生み出した響きが彼女の内側に残り、それが新たな感覚の扉を開こうとしていた。
その日、彼女がたどり着いたのは、草原の中にぽつりと立つ古い木だった。その木は何百年もそこに立ち続けたような風格を持ち、幹には深い皺が刻まれていた。その姿を見た瞬間、彼女の中に懐かしい感覚が呼び起こされた。
「この木は、私の感覚の記憶と繋がっている…」
彼女は木に近づき、幹にそっと手を触れた。粗い樹皮の感触が彼女の指先に伝わり、それがまるで木が語りかけてくるように感じられた。その瞬間、彼女の中に過去の旅で得た感覚が次々と蘇った。
静流の優しさ、律動の強さ、共鳴の広がり、光芒の輝き——それらすべてが、この木を通じて彼女の中で再び響き合い、新たな形で彼女を包み込んだ。
「感覚は消えることなく、私の中で生き続けている…」
彼女は木の根元に座り、目を閉じた。風が葉を揺らす音が耳に届き、それが彼女の心に静かな安らぎをもたらした。その音は、過去の感覚をすべて繋ぎ合わせ、彼女の中で新たな調和を生み出していた。
しばらくその感覚に浸った後、彼女は目を開け、木の上を見上げた。太陽の光が葉を透かし、その光が幹を伝って彼女に降り注いでいるように感じられた。その光景が、彼女に感覚の旅がまだ終わっていないことを教えてくれた。
「私は、この追憶を胸に新たな感覚を見つける…」
彼女は静かに立ち上がり、木に別れを告げた。過去の感覚が彼女の中で調和し、新たな形で生まれ変わる瞬間を感じたその場所を後にしながら、彼女は次なる感覚の発見を胸に抱いた。
夜が近づき、空に星が輝き始める中で、彼女は再び歩き始めた。感覚の追憶が彼女を力強く支え、新たな冒険への期待を膨らませていた。その先には、まだ見ぬ感覚の世界が広がっていることを彼女は確信していた。
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