第41話 感覚の記憶

感覚の解放を胸に、彼女は旅を続けていた。草原を越えた先に広がるのは、静かな森の中に点在する小さな泉たちだった。それぞれの泉は独自の形を持ち、そこに宿る水が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。その光景は、彼女の中にある感覚の記憶を呼び覚ますきっかけとなった。


「この泉たちは、私の感覚の記録なのかもしれない…」


そう感じた彼女は、一つの泉のそばに腰を下ろした。泉の水面は静かで、まるで鏡のように空を映していた。彼女がそっと手を水に触れると、小さな波紋が広がり、それが彼女の内側にも同じように響いた。その波紋が彼女に過去の感覚を蘇らせた。


最初に感じた静流、次に訪れた律動、そして共鳴と光芒。それらすべてがこの泉の波紋となり、彼女の心の中で生き続けていることに気づいた。泉は単なる水たまりではなく、彼女が歩んできた感覚の旅そのものを映し出す存在だった。


「私の感覚は、いつでもここにある…」


彼女は泉に映る自分の姿を見つめた。それはただの鏡像ではなく、彼女の感覚が形となって現れたように感じられた。その姿を見つめるうちに、彼女は自分がこれまでの旅で得た感覚をすべて受け入れ、それを新たな形で広げる準備ができていることを実感した。


泉のそばでしばらく静かに過ごした後、彼女は他の泉を訪れることにした。それぞれの泉が、彼女に異なる記憶と感覚を呼び覚ました。一つの泉では風が吹き抜ける感覚を思い出し、別の泉では螺旋のリズムが蘇った。それは、彼女の内側に眠る感覚が無限の形を持つことを教えてくれる体験だった。


「感覚は記憶となり、記憶が感覚を導いていく…」


日が傾き、森が夕暮れの静けさに包まれるころ、彼女は最後の泉を訪れた。その泉は他のものよりも大きく、深く澄んでいた。彼女はその泉にそっと手を浸し、目を閉じた。その瞬間、すべての記憶が一つに繋がり、彼女の心を満たす感覚となった。


「私は、この記憶を胸に進んでいける。」


泉の水面に映る星が輝き始める中、彼女は立ち上がった。感覚の記憶を胸に抱き、新たな冒険へと向かう足取りは軽やかだった。彼女の中で生き続ける感覚の記憶が、次なる旅を照らし、さらなる未知の世界への道を開いていくのを彼女は感じていた。

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