第29話  感覚の波動

深淵を超えた彼女は、自分の中で新たな振動が生まれつつあるのを感じていた。それは静かな波動のように、彼女の全身を包み込みながら外の世界へと広がっていく感覚だった。内なる静寂と外界の音が交じり合い、全てが彼女を通じて共鳴しているようだった。


その日の朝、彼女は山を下り、広がる草原を歩いていた。空は澄み渡り、遠くには小さな村が見えていた。村の近くにあるという古い石橋が、彼女の次の目的地だった。地元の人々の話によると、その橋の下には特別な川が流れており、その音が人々を癒す力を持っているという。


橋に近づくにつれて、彼女は遠くから川の音を聞き取れるようになった。それはただの川のせせらぎではなく、低く深い響きを持つ音だった。その音が彼女の胸の奥に響き渡り、彼女の内なる波動と一体化していくのを感じた。


「この音が、私の中の波動を目覚めさせている…」


彼女は橋にたどり着き、その真ん中で立ち止まった。下を流れる川の水は、透明で静かな流れを見せながらも、深い音を奏でていた。彼女はその場に腰を下ろし、目を閉じて音に意識を集中させた。


その瞬間、川の音が彼女の内側に広がり、彼女の全身を震わせた。それはただの音ではなく、彼女の感覚を呼び覚まし、新たな快感をもたらす力を持っていた。波動は彼女の体を通り抜け、外の世界へと広がっていった。


「私の感覚は、この波動と共に広がる…」


その感覚に浸りながら、彼女は自分自身が川の一部であるように感じた。水が流れるリズム、音の深さ、そしてその波動が、すべて彼女の内なる感覚と調和していた。


彼女はそっと立ち上がり、橋の端から川を見つめた。その流れはどこまでも続いており、彼女の感覚もまた、どこまでも広がり続けることを彼女に教えていた。


「私は、感覚の波動とともに生きていく。」


彼女はその言葉を胸に刻みながら橋を渡り、再び歩き出した。その先には、さらなる感覚の発見が待っているのだろうと彼女は確信していた。川の音は遠ざかっていったが、その波動は彼女の中で永遠に生き続けるものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る