第26話 VSイブニング!手繰り寄せろ、奇跡の一手!!

 ―――――――黒の結界内部。


 外界から隔絶された空間では、3人の少女…伝説の使徒アンジェストロが、力を暴走させた闇の世界の国、ドーン帝国妖精界侵攻部隊隊長イブニングが激しい戦いを繰り広げていた。

 シエルとメールが前に出てイブニングと格闘し、ソルは後方で、2人をサポートしていた。


 「てやあぁああ!!!!」


 シエルの棍棒、シエル・グルダンは巨大化したイブニングの腕とぶつかり合う。

 フェアリニウムを棒の側面に纏わせた、”シエル・アルティ”で、イブニングの長く太い腕を止めようとしたのだ。


 だが闇エネルギーを大量に体内に取り込んだ、イブニングは身長だけでも5メートルを超しており、身体能力も通常時より高くなっていた。

 唯一下がったのは知能くらいだが、本能のままに攻撃をしてくるため、たとえ考え無しの攻撃だったとして、とても厄介だ。


 実際今のシエルの攻撃ではイブニングの腕を振るだけの攻撃も止める事ができず、そのまま腕を振るわれ弾き返されるように吹き飛ばされてしまった。


 「シエルっ!」


 飛ばされたシエルを受け止めるため、ソルがシエルの落下地点に、ソル・スクードを張って怪我を防いだ。


 「ありがとう!ソル!」


 トランポリンの様に跳ねつつ、着地する。

 そしてもう一度グルダンを構えて、イブニングに突撃する。


 「ぐあぁああぁああ!!!!!」


 シエルが突撃するまでの間、メールがイブニングの相手をしていた。

 両手を思い切り振り回して、左右から大きな拳をメールに向ける。

 闇エネルギーによって強化された、膂力は左右から同時に隙なく攻撃を実現させる。


 「メール・コンキーリャ~!」


 メールは腕を左右に広げイブニングの拳を受け止める恰好を取ってから、自身を硬質化させる技を使用する。


 コンキーリャは自分の身体の内外にフェアリニウムを充満させ、硬質化する技だ。

 だが内側もフェアリニウムを纏わせる影響で、この技を使っていると指先一つも動かせないという欠点がある。

それでもアンジェストロの中でも特に防御力が高い技であるため、本能のまま暴れまくる、イブニングにはこれが一番だと、メールは判断した。


 「ぐぅうぅ!!」


 力のままに振るわれたイブニングの拳は、そんなメールの防御技などいともたやすく破り、左側からの打撃で殴り飛ばされてしまった。


 「メールっ!」


 再びソルが、ソル・スクードで飛ばされたメールを受け止める。

 メールへのダメージは重く、呻き声を上げて楕円形の盾から滑り落ち地面に座り込んでしまった。


 《ユズキぃ…大丈夫エポぉ~?》

 「だ、だいじょばないかもぉ…」


 目を回してしまっているメールに、ソルが駆け寄ってくる。


 「だ、大丈夫!?私が守ってるから、落ち着くまで!」


 「あ、ありがとぉ~…」


 ソルは今度は、ソル・スクードをメールの前に出して、イブニングの攻撃からメールを守る態勢を取った。


 前方ではシエルが再び翼を使って、上手に飛び込んで、グルダンの先端にフェアリニウムを纏わせ鋭く、鳥のくちばしの様に形成して技を放つ。


 「はぁぁあ…!!シエル・ベッコ!!」

 《いっけー!ミラぁあ!!》


 青く輝く槍の様にグルダンを、イブニングに突き立てる。

 するとイブニングとシエルの間に、半透明の黒い壁が出現し、シエルの攻撃がぶつかる。

 激しく光が瞬き、フェアリニウムの粒子が飛び散り、まるで火花が散っているかのな光景が広がった。


 「なにこれぇ…!!ぐぬぬ…!!」

 《硬いミラぁ…!》


 「ごあぁアあァああ!!」


 黒い壁を破るべく、シエルはグルダンを押し込み続ける。

 しかし、その壁の向こう側のイブニングは、犬の様に長くなった口を開き、そこに闇エネルギーを集め始めた。

 闇エネルギーは結界の外殻からだけではなく、周囲の空気からも集めているようだ。


 「ちぃ…!」

 《アオイ!これはまずいミラ、大玉みたいのがきそうミラ!!》

 「やっぱそう思う?そうよねっ!」


 シエルはイブニングの次の動きを察知し、シエル・ベッコを中断し壁から距離を取って、滞空しながらシエル・スクードを作り、実体盾シエル・プロテクシオンを構えてイブニングの動きに対応する。


 「シエル!私のスクードをシエルの背後に張っておくから!」


 「サンキュー!」


 シエルがソルに答えた瞬間、イブニングの口から黒い光線が放たれた。

 イブニングの前にあった黒い壁など関係なく、内側から真っ二つに割われた壁の残骸が飛び散らせながら威力は減衰する事無く、シエルの盾たちへ吸い込まれるように黒い光を浴びせる。


 「ぐああぁぁあ!!!きっつい…!!!」

 《耐えるミラぁ……!》


 シエルは光線に押されて、ドンドン後ろへ下がっていく。そしてソル・スクードに寄り掛かる形になった。

 楕円型の盾に埋もれていくシエル。


 「ソル!ごめん、もう少し頑張って張っておいて欲しい!このまま!」


 「わかった!」


 シエルはソルの盾の弾性を利用しようと考えた。

 そしてメールも怪我の痛みが治まったため、イブニングの足元へ低空で飛んで行った。

 メールはシエルへの攻撃に集中しているイブニングの足元に隙があり、体勢を崩してしまおうと考えたのだ。

 そうすれば、シエルの次の攻撃にも繋がるはずだと、メールは思ったのだ。


 「エポン~行くよぉ~…!」

 《エポン何もできないエポぉ~?》

 「応援しててって事だよぉ~。メール・スクーレぇ!」


 メールの右足に黄色く光るフェアリニウムが纏う。フェアリニウムはメールの足の付け根からつま先まで隙間なく纏い、足への衝撃を緩和させながらも、斧の様に重く鋭い蹴りによる斬撃を与える技。それがメール・スクーレである。


 シエルが耐えながらも、視界の端に飛び込んできたメールを確認し、その意図を察した。

 考えていた作戦を実行するべく、今シエルが思い切り押し込まれているソル・スクードの弾性を解放するため少しだけ背中を浮かせる。


 シエルの思惑通り、ソル・スクードはその時までに押さえつけていた力を返すように、シエルの背中を叩いた。

 シエルは弾かれると同時に、グルダンの先をイブニングへ突き立て、シエル・ベッコを発動。

 イブニングの黒い光線を引き裂きながらイブニングに突進をしていく。


 「やぁあぁ!」


 メールの攻撃はイブニングの左足に直撃し、前のめりに転倒させた。


 「ナイスよメール!でやあぁあ!!!」


 顔から勢いよく倒れたイブニングへダメ押しとばかりに、上から凄まじい勢いで叩きつけた。

 すると、濃いフェアリニウムと濃い闇エネルギーがぶつかり合ったためか、激しい爆発が起こった。


 「シエル!メール!…イブニング…!」

 《だ、大丈夫ラパ!?》


 あまりにも大きな爆発だったため、心配して声を上げるソルだったが、煙の中からシエルたちが飛び出してきて、傍に着地した。


 「びっくりしたわ……こんな爆発するなんて…」

 《咄嗟にプロテクシオンを前に出せたの凄いミラ…》


 「フェアリニウムって凄いんだねぇ~」

 《綺麗にバックステップを踏んでたエポぉ~。流石ユズキエポぉ~》


 「2人とも無事でよかった……イブニングは…!」


 シエルたちの無事に安堵したソルは、爆発による煙の方を見る。

 中にいるはずのイブニングはどうなっているのか。

 周囲の結界は何の変化もない。ヒビすら入っていないようだった。


 「あっ…!イブニング…が…!」


 「嘘でしょ…!?」


 ソルが煙の合間から見えたイブニングの身体は、ボロボロで生身の身体に火傷の様な傷が多々見られた。

 だが、そんな傷は凄まじい速度で治っていく。

 よく見ると、変化が無いと思っていた結界の天井から闇エネルギーがイブニングの身体に入って行き、傷を治しているようだった。


 「そ、そんなぁ…あれじゃぁ、どれだけ攻撃しても治っちゃうって事ぉ…?」


 「これじゃ、ソルの思う討つ以外の方法なんて考えている余裕が……」


 メールの言葉に戦慄するシエル。

 だがソルはまだ諦めていない様子で、すぐさま自分の胸元に手を当てた。

 そしてフェアリニウムが集束し始める。


 「ソル…!浄化するつもりなの…!?」


 「メールよく知らないけれどぉ、あの大きさを浄化するにはぁ、力が足りないんじゃぁ…」


 「で、でもやってみなきゃ…今はとにかくできる隙ができたんだからやってみないいと!」


 ソルの必死な訴えに、2人は顔を見合わせて頷き合った。

 シエルは自身の翼にフェアリニウムを集束させ、メールは腕を胸の前に十字で組み腕の交差点にフェアリニウムを集める。

 アンジェストロ3人の浄化技を同時にぶつけようというのだ。


 「そうだったわね…あたしたちも浄化できるんだったわ…!」


 「なら同時にやるしかないよねぇ~。ソルちゃんの思いのためにもさぁ~」

 《ユズキ優しいエポぉ~》


 そして3人フェアリニウムが最大限溜まり、ひと際強く瞬いた時。

 シエルは強く翼を羽搏かせ、ソルは手を三角に組み前に突き出し、メールは腕を左右に開き、浄化技の名前を唱える。


 「ソル・プリエール・クラーレ!!」


 「シエル・プリエール・ストロフィナンド!」


 「メール・プリエール・イノンダツィオーネぇ!」


 3人のアンジェストロの浄化の光が、回復中のイブニングに浴びせられる。

 シエルが1人で攻撃した時に発生した黒い壁は作られる事なく、そのままイブニングに到達した。


 「やあぁああ!!」

 《いけーラパ!》


 イブニングの外側にある闇エネルギーは今までリコルドにやって来たように、光の奔流に押し流され段々と本来のイブニングが見えてきた。


 しかし、天井からイブニングに注がれる闇エネルギーは際限なく供給され、すぐにイブニングは全長5メートルの怪物の姿に戻ってしまう。

 大量のフェアリニウムを注ぎ込まれてもなお、まだイブニングを浄化するに至れなかった。


 結局浄化しきる事なく、技を終えてしまった。


 「ぐぅおおおアあアぁ!!」


 「そんな……」


 「この結界がある以上、イブニングを浄化するのは…不可能ってわけかしら…」


 「どうするのぉ…?」


 「とにかくもう一度浄化できるタイミングを狙うしかないわ…。……そうよ、その時に女王様から貰った力を使えばいいんじゃない!」


 「それしかないのかぁ~……やっぱそうかなぁ~…」


 シエルの気づきに同調するメール。ソルも口にはしなかったが、やはりそうするしかないのか…と悩んだ。


 その時、完全に回復したイブニングが3人の所へ、凄まじい速度で一気に目と鼻の先の距離を詰めた。


 「しまっ…!!?」


 シエルが次の言葉を話す前に、既にイブニングの手が眼前に迫っていた。

 だが、ソルはわずかに反応ができ、自身の両側にいたシエルとメールを、ソル・スクードで弾き飛ばし、イブニングから距離を取らせる事ができた。

 自分は逃げられない方法だったが。


 「ソル!?なにを!」

 《ラパン!何をしてるミラ!》


 「わぁ!?…ソルちゃん…!?」

 《カオルたちが危ないエポぉ~》


 弾かれた2人には見向きもしないで、その場に残ったソルだけをイブニングは見ていた。

 そして、「ゾルアアアウアアアア!!!」よ雄叫びを上げながら、両手でソルを掴もうとする。


 (握り潰そうとしている…!?)

 《カオル!メランツァーナを使うラパ!》

 「でもあれはいなす技じゃ…」

 《あれは、いなす事もできる技ラパ!一番重要なのは、滑る特性を持ったフェアリニウムの盾を作り出す事ができるという事ラパ!》

 「滑らせるって……、あぁ!そういう事か!分かった!」


 ラパンの意図を理解したソルは、イブニングの手の平に包まれる直前、「ソル・メランツァーナ!」と唱え、身体の外側全体にフェアリニウムを纏わせた。


 「お願い…!ラパンの思った通りなら…!!」


 イブニングはさっきまで自分の周りに飛び回っていたアンジェストロを叩き落とそうとする、握りつぶそうとするなどをしようとしていた。

 まるで人が鬱陶しい蚊にするかのように。


 ソルの身体は儚くも潰れてしまうかに見えた。しかし、ラパンの作戦が功を奏した。イブニングの恐ろしい程の握力で握られたソルはメランツァーナによって摺動性を得ていた。

 そのため、ウナギを掴むがごとく、イブニングの手からつるりと抜け出す事が成功した。

 ラパンの思った通り、滑る特性を持つメランツァーナのフェアリニウムで掴めなくすることができたのだ。


 唯一予想外だったのは、イブニングの握力が高すぎて、つるりと出た時、ビュンとイブニングの拳から飛び出し、結界の天井まで飛んで行ってしまった。


 「わぁ!?」

 《ぶつかる前に、羽で急ブレーキラパ!!》


 ソルはラパンのその言葉に頷き、翼を必死にはためかせスピードを殺し、自身の背後にソル・スクードを展開して受け止めた。


 「ぐぅ…!あ、危なかった…!」

 《よかったラパ…》


 ホッと息をつく、ソルだったがラパンが天井のとある点に気づく。


 《あれ、カオル。左手の方にある黒いの何ラパ…?》

 「黒いの?あ、本当だ。何か丸い……機械?」

 《機械……あれから…闇エネルギーが出てきているみたいラパ…》


 ソルはラパンの呟きから、もしかしてアレが結界を作っている機械かもしれないと考えた。

 すると、更に一つソルには気づきがあった。

 それは闇エネルギーをイブニングに対して延々と注いでいる供給元だ。


 「まさか…そういう事なの……そっか、私気を失ってたから、見てなかったけど…シエルたちに聞いてみよう…!」


 ソルは背中に張っていたソル・スクードを使って地面に向かって自分を弾き飛ばした。


 地上ではシエルとメールが、イブニングと凄まじい土煙をあげながら、戦っていた。

 ソルは落ちる際に、再びソル・メランツァーナを使う事にした。


 「ソル・メランツァーナ!!シエル、メール!聞きたい事があるの!」


 メランツァーナによって、拳の軌道を逸らされたイブニングはバランスを崩し、轟音と共に拳が地面に突き刺さった。


 「ソル!無事でよかったわ…!」


 「話しってぇ~?」


 「えっと、黒くて丸い機械ってこの結界が作られる時に見た?」


 ソルがジェスチャーを交えながら、2人に聞く。

 すると、2人ともそれを見たと頷く。


 「確かそれが結界を作ってたように見えたよぉ」


 「イブニングにエネルギーを注いでいる様にも見えたわね…」


 その話を聞き、ソルは自分の推察が確信に変わった。


 「黒くて丸い機械が、この結界の天井、ここの真上にあったんだ!」


 「ほんと!?」


 「それってぇ~つまりぃ…」


 「この結界も、イブニングの異常な回復に使う闇エネルギーも、その機械を壊せれば…!」


 「……やるしかないわね…!」


 「流石にぃ、イブニングを無視はできないからぁ…」


 「うん、さっきみたいに2人でイブイニングを相手しながら、1人づつ機械に攻撃をしてみよう!」


 「そ、そうね…イブニングを1人はあたしでもきついだろうし…それしかないわね…」


 遠くでイブニングの拳が抜けた音がした。

 ガラガラと地面の欠片が落ちる。

 ゆっくりと、アンジェストロの方を向くイブニング。


 「グアアァァアアああぁあ!!」


 「じゃあ、作戦開始…!!」


 ソルとメールがイブニングを止め、シエルは咆哮を合図に天井へ向かって飛び去った。

 ようやく見えたイブニングと話せるようになるかもしれない、討つ以外にできる事が見つけられたかもしれない瞬間だ。

 対イブニング暴走体。第2ラウンドのゴングが鳴った。

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