第24話 追い詰められたイブニング、ドーン帝国の罰!

 目の前でとっておきのリコルドが浄化されて行く。

 ドクターエクリプスの研究室に訪れた際、偶然見つけた妖精の入ったカプセル。

 ペガサスという見たこともない妖精だったが、ちょうどリコルドの数が欲しかったから、黙って持ってきた。


 にも関わらず、突然現れた黄色いアンジェストロに一方的に倒されてしまっている。あの面倒だったソルすら突進一発でノックアウトできていたのに、黄色のアンジェストロ…メール・アンジェといっていたか、アイツには突進は効かないし、パンチ一発で殴り飛ばされてしまった。


 しかも浄化する前に、フェアリニウムを水に変換した帯のようなもので拘束していて、明らからに浄化後にすぐにアンジェストロ側に保護されると予想できる。つまり、リコルドの中のペガサスの妖精を回収できないだろう。

 ソルのように浄化光線を撃ってくるだけなら、なにか出来たかもしれないが、シエルのように即座に距離を詰めてくる身体能力、メールのように拘束してから浄化技を放つタイプ……イブニング自身が手を出せばなんとかなるはずなのだが、彼は動けなかった。


 それは何故か。右ポケットに入っている黒い機械が彼の動きを止めていたからである。

 そしてイブニングの耳に、どうやってか、ドクターエクリプスの声が聞こえてくる。


 《やァ!聞こえているかイ?あの機械に簡易的な通信機能を付けていたんだがネ、ちゃんと動作しているかナ?》


 (ど、ドクター!?…何、声が…声が出ない…!?)


 驚愕したイブニングだったが、声が出なかった。

 どう声を上げようとしても、喉を空気が通過する乾いた音しか出てこない。


 《あー聞こえたようだネ。声が出ないのは君に渡した機械の機能サ、気にしないでくれたまエ!考えるだけで私には伝わるのサ》


 (なるほど…そ、それで一体なにを…この機械を作動させたつもりはないのですが…)


 《あァー!それは私が遠隔で起動させたからネ!本来はその機械はアンジェストロを闇エネルギーの結界に閉じ込めて封印する機械だったんだガ……ちょっと予定が変わったんだヨ、皇帝陛下の命でネ》


 (陛下の…?どういう…)


 《君、陛下にアンジェストロの事報告しなかっただロ?》


 (な、何故それを…!?)


 《私が前に君に渡した装置で戦闘記録などを取っているって言っただろウ?私は研究が役目なのだかラ、それを報告しないわけ無いだろウ。その時に陛下に聞かれたのサ、アンジェストロとは何か?とネ》


 (あ、あぁ……そうか……そうだった……)


 《君は目的だけ見て自分の事も周囲の事も見えていないネ。だから、私の研究所に保管されていた大切な妖精のカプセルを勝手に持ち出すような信じられないマネもしだすんだろうネ》


 (そ、それは…後で返そうと…)


 《後で返すとかそういう事じゃないんだヨ。勝手に人の所持品、それも研究者のラボから持ち出すって事がどれだけ罪深いカ…。陛下から命令を受けて様々な研究をしているんダ。あれがどういうものか想像つかなかったかイ?》


 (……ま、まさか……)


 《ようやくわかったかナ、あのペガサス妖精は皇帝陛下の大切な物だったのサ、あれから特殊能力だけを抽出する研究を任されていたんだガ…まぁ、もう私も陛下もご立腹サ》


 (す、すいませんでした!まさか陛下の持ち物だとは…)


 《謝って済むなラ、陛下はお怒りにならないサ!というわけで、君への罰は私に一任されタ!てなわけデ、君には君自身に闇エネルギーを注いで、イブニングリコルドになってもらう事となっタ!!闇の結界の中で命を懸けてアンジェストロを抹殺してくれたまエ》


 (あぁ……ああ……)


 《威圧感を出すためニ、喋れるようにしておくカ…。うむ、では頑張ってくレ!》


 そうして音声は途切れた。

 イブニングはの目の前にはいつの間にか黒い機械が浮遊していた。

 本当は自分でポケットから取り出していたのだが、もう彼には無意識の行動だった。それがドクターからの遠隔操作なのかもわからない。

 なんでかわからなかったが、目の前に黒い機械はあった。


 「あぁ…これか…これしかないのか……」


 段々と機械から、闇エネルギーが溢れ出していく。


 「許さねぇ……許さねぇぞ……アンジェストロどもぉ……!!」


 恨み節を吐いていく、イブニングの口や毛穴に、闇エネルギーが入っていく。


 「あぁあ……あぁあぁぁああ!!!!!」


 黒い衝動と、黒い結界がイブニングを中心に辺りを飲み込もうと広がっていく。


 「な、何ぃ…?」


 「早く逃げるわよ!!」


 動けないシエルは、メールに指示を出す。

 意識を失ったソルも抱えて、メールは一気に飛び立つが、結界が広がる速度が彼女の飛ぶ速度を僅かに超えており、どんどんと目の前の景色が黒一色に染められていってしまう。


 「ちくしょう…!!」

 《諦めるしかないミラ…?》


 「あ、あともう少し早く飛べればぁ〜出れるのにぃ〜!」

 《あれぇ、何かシエルのポケットが光ってるエポぉ〜》

 「えぇ、シエルのぉ…あぁ、本当だぁ〜!」


 「あたし?あたしがどうかした?」

 《あ、ポケットポケットミラ!ポケットに入っていた”星の輝き”が光っているミラ!》


 そう言われて、自身のポケットを弄って中から石を取り出したシエル。


 虹色に輝く”星の輝き”は、周囲の闇エネルギーが濃くなっていくにつれて、更に強く輝き出した。


 「これは一体なに…?」


 シエルが疑問に思いながら石を眺めると、急にそれは彼女の手を離れて、わずかに外界に通じている隙間へ向けて飛んでいるメールの目の前に移動してきた。


 「ひょぇぇ〜!?」


 独特な驚き方をしているメールの目の前にきた”星の輝き”は、更に強く虹色に光りだす。

 そうして、輪のような形に光が変形すると、その輪の中から豪奢なドレスに身を包んだ、純白の女性が姿を表した。

 その女性の純白は、髪や肌、服の話だけではない。それは背中に生えた蝶のような翅、背後からの輝き、その生物としての存在感、全てが純白だったのだ。

 訳が分からないだろう。きっと、見ているメールたちも訳が分からないと思う。


 だが、そんな女性を見て、アンジェストロの中にいる妖精たちは口々に言った。


 《《女王様ミラ!》エポぉ~》


 「「女王様!?」ぁ~!」


 そう、純白の彼女こそ妖精界を統治し、イブニングに襲撃を受けた時ラパンたちを人間界に送った人物である。

 彼女はイブニングによって氷漬けにされ、封印された様な状態になっていたはずなのだが…何故か”星の輝き”から姿を現した。


 「この手を取るのです!」


 そして大きな声で、叫んだ。

 妖精女王は思い切り手を伸ばし、メールに手を掴むように促す。

 シエルはメールがその手を取れるように、自分で彼女にしがみつく。


 「やぁあ~!」


 メールも、妖精女王へ思い切り手を伸ばす。輝きの光から僅かに出た女王の指先を掴む。

 すると、景色がぐるりと反転し、いつの間にか黒の結界の中から出ており、目線の下に、黒いドームができているのが見えた。


 一体何が起こったのか…、アンジェストロたちはわからなかった。

 だが確かなのは、黒い結界の中から脱出に成功し、九死に一生を得たという事である。


 「や、やった…!やったわ!何でかわからないけど、助かったわ!!」


 「これが女王様の力なのぉ~?」


 メールの言葉に、女王は静かに頷き「その一端です」と答えた。

 つまり女王の力はこんなもんではないという事である。

 その言葉に、シエルは一体イブニングはどうやって勝ったんだと、震えた。


 メールたちは、地上に降り立ち河川敷の傾斜に草が生えている所へソルを寝かした。その瞬間、何かが途切れたのか三人の変身は解け、人間3人、妖精3人に戻ってしまった。

 そして女王は”星の輝き”のゲートを通して人間界を見ていた。

 まるでおとぎ話の魔法の鏡を見ているようだと、黄海は思った。


 「え、えっとぉ~、何を話せばいいのかなぁ~…?」


 「そ、そうよね…えっと、ご復活おめでとうございます……??」


 女王の瞳は白く見る角度を変えれば、透明にも見えそうなくらい透き通っているが、視線は一定しておらず、まるで虚空を眺めているようにも見える。


 「どうやら一時的にイブニングの力が弱まった様で…その隙をついて私の氷を溶かしまして、どうにか蘇る事ができました…」


 女王の話を聞き、明瀬はあのイブニングの異常な状態が関係しているのだろうと予想した。

 つまり、女王と同じように復活した妖精が居れば、妖精界全体の氷も解け始めているのではないか…とも考えたが、今はそれどころではないと、切り替える。


 「申し訳ありません…我々妖精界の事情に人間界の人を…それも子供を巻き込んでしまって……」


 「い、いや、大丈夫です!あたしたち、やりたくてやっているんで!ね!柚希!」


 「はい~、ゆずは今日からなんですけどぉ~、友達も家族も守れるからぁ、頑張れますぅ~」


 女王は次に、ドーン帝国と妖精界の戦いに巻き込んでしまった後悔を吐露し、3人に謝罪をした。

 頭を深々と下げ、とても誠意を感じさせる謝罪の姿だった。


 「ふふ……優しく、心強い…よい人と出会えましたね。ラパン、ミラン、エポン」


 「”星の輝き”のおかげですミラ!」


 「ユズキの世界を守るためエポぉ~」


 「……そうですか…よかった……ラパン?どうしたのです…?」


 2人の妖精はすぐに返事をしたのにもかかわらず、ラパンだけが返事せず、さらには女王の方を見ずに、ずっと気絶している薫に寄り添っていた。

 ラパンは彼女が気を失っている間もずっと、声をかけ続け心配していたからだ。

 故に、女王の復活という心から喜ぶべき事態に、どうしても関心が向かなかった。

 いつの間にか、ラパンの中で薫は女王よりも大きな存在になっていたのだ。


 「ラパン、その子を起こしたいですか?」


 女王は心配した表情で、薫を治癒するかどうか聞いてきた。

 明瀬がどういう事かと気になった表情をした時、ミランが教えてくれた。

 妖精界には医者がどうにもならなくなった場合は、女王がその御力で傷病者を癒すのだという。


 「…ホントは…このまま眠っていてもらいたいんですラパ…でも、それじゃダメラパ…。きっとカオルも一緒にイブニングに立ち向かわなかった事を後悔してしまうラパ。だから、お願いしますラパ…」


 ラパンの言葉に少し驚いた表情をした女王だったが、すぐに笑顔になり左手を薫へ向けた。

 少し女王が手に力を籠めると、緑色の光が薫に降り注ぎ、彼女の身体の傷が癒えていき、パッと目を覚ました。


 「あ、あれ…?私……ペガサス!ペガサスのリコルドは!?」


 「それはメール・アンジェになったユズキが浄化してくれたラパ…!よかった…元気になってよかったラパ…!」


 目を覚まし体を起こした薫に飛び付くラパン。

 ラパンの頭を撫でながらも状況が掴めない薫だったが、明瀬が全てを説明した。

 メール・アンジェがペガサスリコルドを倒した後、急にイブニングが発狂。黒い結界を作り出してきた。閉じ込められそうになった時、”星の輝き”を通じて妖精界の女王が助けてくれて、今だと。


 「…なるほ…ど…。えっと、女王様……じゃあ、なぜ今結界は私たちを飲み込まないで、目の前で広がるのが止まっているんですか…?」


 説明を全て聞いた薫が、疑問に思った事を問う。

 実際、アンジェストロたちが脱出した時から、黒い結界は完全に外界から隔絶し拡大を止めていた。


 「それは女王である私が、止めたからです。一時的に封印をしていますが…恐らく長くは持たないでしょう。私もまだ目覚めたばかりで力がそう多くは無いのです…」


 「そうだったんですね。ありがとうございます、女王様!」


 「でもそれじゃ、解決してないのよね。あの中にいるイブニングをどうにかしないと、結界は消えないだろうし……」


 「だよねぇ~。でも今のゆずたちに勝てる相手なのかなぁ…」


 現状は全く危機が去っていない事に、苦言を呈する明瀬は、黄海とどうやったら脱出の際に一瞬見た、あの巨大なイブニングに勝てるのかと頭を悩ませていた。

 薫も見てはいない物の、イブニングがそもそも手強い相手であった事は知っているので、どうやったら撃退できるのか、確かに難しい問題だと一緒に悩んだ。

 すると、女王が3人に「一つ、よろしいですか…?」と話しかける。


 「あなた方に力を分けたいと思うのです」


 「力…ですか…?」


 「そう、あのイブニング…ドーン帝国の悪の手先を完全にこの世から消し去るための力を」


 力強く女王は言った。

 この世から完全に消し去る。それはつまり、イブニングを殺せという事だ。

 明瀬と黄海は、深くは考えていないのか、女王が手を貸してくれるならと顔を見合わせて喜んでいるようだった。

 2人の相棒の妖精たちも同様である。

 だが、薫とラパンは違った。

 どこか納得がいっていない様な表情だ。

 特に薫はわかりやすかった。

 ラパンはきっと、薫の心情を慮ってだろう。

 薫は悩んだ。自分の気持ちを言うべきか言わざるべきか。だが、手元のラパンはすぐにでも女王に言ってしまいそうなくらい震えている。

 ならば自分から言おうと決めた。このモヤモヤは自分の事情からくるものなのだから。


 喜ぶ4人には、心の中でごめんと謝ってから、重々しく妖精女王に進言をした。


 「すいません…その…この世から完全に消し去る以外に、手段は無いのでしょうか…?」


 4月22日、11時52分。妖精界の女王は、あまりの驚きに”星の輝き”のゲートから一歩前に出てしまった。

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不思議な石に選ばれた私は妖精と一緒に浄化の力で皆を助けます!ー救世のアンジェストロー 三郎丸由々 @Mendako98

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