第11話『私の人生に彩を与えてくれた数々の歌たちへ』 5・アン真理子『悲しみは駆け足でやってくる』


 ここまでの私の人生には、数えきれないほどの歌が寄り添い、それぞれの時代に色鮮やかな記憶を刻んでくれました。


その中でも、なぜかひときわ深く心に残り、今もなお温かい光を灯してくれる一曲があります。それは、アン真理子さんの名曲「悲しみは駆け足でやってくる」という曲です。


1969年という、日本が大きく変貌を遂げようとしていた時代に生まれたこの歌は、単なる流行歌としてではなく、まだまだ子供でしかなかった私の心に希望の種を蒔き、その後の人生を静かに照らし続けてくれた。そんな気持ちを今更ながらに感じてしまうかけがえのない存在です。


激動の時代に響いた普遍のメロディー

1969年、日本はいわゆる「高度経済成長」の真っただ中にありました。街には新しいビルが次々と姿を現し、家庭にはカラーテレビが普及し始め、翌年に控えた大阪万博への期待感で社会全体が活気に満ち溢れていました。


私の家に初めてカラーテレビがやって来たのもこの年でした。画面の鮮やかな色どりを見るたびに、それまで見ていたテレビの世界が「白黒」だったということに、なぜかあらためて気づいた日々でした。見ている世界が色彩豊かなモノであふれていたのだということに、なぜか新鮮な驚きを感じてしまった瞬間でした。


未来は明るく、誰もが希望に胸を膨らませていた時代です。しかし、その光の裏側には、激しい社会の変化に伴う漠然とした不安や、世界情勢の不安定さが影を落としていました。


アメリカのアポロ11号が人類初の月面着陸という偉業を達成する一方で、ベトナム戦争は泥沼化し、若者たちはウッドストックフェスティバルに象徴されるようなカウンターカルチャー運動を通して、既存の価値観に異議を唱え始めていました。


1960年代から70年代は、まさに社会全体が大きな変動の渦中にあり、人々が新しい価値観や未来との向き合い方を模索していた、そんな時代だったのです。


そんな激動の時代に誕生した「悲しみは駆け足でやってくる」というこの曲は、その切なさと優しさが絶妙に溶け合うメロディーで、多くの人々の心を捉えました。この歌が持つ普遍的な魅力は、当時の時代背景と見事に共鳴し、人々の心の奥底に潜む感情をそっとすくい上げてくれたことではないでしょうか。


「明日」という言葉に込められた希望の光

この歌の歌詞の中で、特に私の心を深く揺さぶったのは、冒頭の「明日という字は明るい日と書くのね」というフレーズでした。


まだ小学生だった私にとって、この言葉はまさに目から鱗が落ちるような衝撃でした。「明日」という漢字が「明るい」と「日」から成り立っていること。それは、言われてみれば当たり前のことなのに、なぜかその時まで意識したことがありませんでした。このシンプルな言葉に込められた「深い意味」を初めて実感した瞬間、なんだか目の前がぱっと明るく開けるような、温かい希望に包まれたような気持になったものです。


当時の私は小学校の高学年の年代とは言え、子供ながらに漠然とした未来への不安や、日々の小さな悲しみを抱えていました。


そんな中で、この歌は「大丈夫、明日はきっと明るい日がやって来るよ」と、優しく、しかし力強く語りかけてくれるような気がしたのです。

「悲しみは駆け足でやってくる」という題名から、最初は「悲しみの歌」というイメージを感じ取っていたものです。


でも実は、この曲の物悲しくも温かい旋律は、心の奥底に響き「どんな悲しみもいつか静かに過ぎ去っていくのだ」と教えてくれたのです。この歌詞は、単なる言葉の羅列ではなく、未来への確かな希望と、困難を乗り越えるための静かな勇気を私に与えてくれました。


そして、「明日」はいつまでも終わることなく必ずやってくるのだということに気づいたのもこの歌がきっかけでした。「明日」は常に「今日」になっていき、新たな「明日」を迎えられるからです。


「明日=希望」そして「今日=現実」なのです。「明日」=「明るい日」は、必ずやって来て、私たちはそれを終わることなくいつまでも楽しみにして迎えられるのです。


歌が伝える普遍的なメッセージと記憶

「悲しみは駆け足でやってくる」が持つメッセージは、時代を超えて今を生きる私にも、変わることなく大切な示唆を与え続けています。


悲しみは突然訪れ、私たちは皆それに心を締め付けるけれど、それは決して永遠ではない。やがて静かに過ぎ去り、明日はきっと、その名前の通りに明るい一日になる――。


この歌が教えてくれた希望と温もりは、時を経てもなお、私の心の奥深くで息づいています。


ホントに信じられないくらいに、あっという間に60代になり、70代が近づいて来た。そんな今でも、この曲を聴くたびに、小学生や中学生だった当時の教室の窓から差し込む午後の陽射しを目に浮かべることができます。少しずつ移り変わる季節の気配も……、そしてあの頃の純粋な感情が鮮やかに蘇ります。


それは、単なるノスタルジーではなく、あの歌が私に与えてくれた「明日への希望」という普遍的なメッセージが、今もなお私の人生を支え続けている証なのだと感じています。


この曲に込められた想いと、それが刻んだ時代の記憶は、私にとってかけがえのない宝物です。アン真理子さんの歌声が放った希望と優しさは、言葉以上の意味と、困難に立ち向かう勇気を私に与えてくれたような気がしているのです。


自分の人生にかかわってくれたさまざまな歌が、私に力を与え、些細な生活に彩を与えてきてくれたことを今更ながらに実感しているのです。これからもこの大切な記憶と歌のメッセージを、「誰か?」へと語り継いでいきたいと思うのです。

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