【短編】義妹との甘くてキケンな遊び

田中子樹@あ・まん■長編4作品同時更新中

第1話 義妹


待ちに待った日曜日。

リンちゃん、今、会いに行くからねー!


そう、俺、清宮 啓楽きよみや けいらは絶賛〝恋〟をしている。

意中の人は大型ショッピングモールの一角で俺を待っている。


──はずだった。


んなぁ!?

リンちゃん……。

俺よりそんなヤツがいいの?


リンちゃんは、俺とは違う別の人の膝の上に乗って、気持ちよさそうに寝ている。


あのフワフワに顔をうずめたい。

肉球のニオイを嗅ぎたい。

キャットタワーの上から冷たい視線で見下ろしてほしい。

仕事しているフリしてるそばで、かまってちゃんをやってほしい。


でも、リンちゃんは俺だけを見ていてはくれない。

だって彼女は猫カフェのトップアイドルだから。


俺は遠巻きにリンちゃんを見つめる。

他の子がたまに俺を誘惑してくるが、一途な俺はリンちゃんから視線を外さない。


「「はぁ~~~~っ」」


んっ!?


カウンターテーブルに座ってリンちゃんを見つめながら、思わずため息が漏らしたが、他の人とため息が被った!? 思わずふたつ隣に座っている女の子と目が合った。


俺と歳が近いかも。


ふんわりとした栗色の髪が背後の窓から差し込む陽の光でやわらかく輝く。

瞳の奥が澄んでいて吸い込まれそうな錯覚に陥った。


「もしかして、リンちゃん待ちですか?」

「そういう君もそうなの?」

「はい、リンちゃんのために電車で1時間かけてきました」


すごっ。

この街からかなり離れたところに住んでいるのにわざわざリンちゃんに会いに来るなんて……。


「でも、もう時間が……」

「そういえば俺も」


ふたりとも時間切れ。

今日はリンちゃんに近づくことさえできなかった。


「あっあの、もしよければ、これからご飯でも食べない?」

「いいですね、リンちゃん推し仲間ウェルカムです」


もちろん、ニャンコトークに花を咲かせたいのもあるけど、この子のことがなぜか気になる。


名前は小唄こうたって名前だけど、苗字は教えてもらえなかった。


そのままモールの中で一緒に食事をして、ショッピングをして、映画まで観た。

最近流行りの女の子が時代を逆行して、戦時中の青年と恋に落ちる物語。

どちらから握ったのか気づかないほど自然にいつの間にか手を握り合っていた。


映画を見終わって、モールの景色が見えるバルコニーでファーストキスをした。

なんでこんなにこの子と急速に距離が縮まっていくんだろ?


先週、親友がなんか言っていた。

たしか赤い糸に結ばれた相手は、互いに何の抵抗もなく自然と関係が進んでいくって。


途中でいろいろと問題が発生する相手は、本当の結ばれた相手じゃないっていう動画を見て熱弁していたけど、まさしくこの子がそうだと感じる。


小唄と連絡先を交換した俺は、翌日月曜日に朝からずっと学校でニヤケていたらしい。昼休み時間、回想に耽っていると親友に背後からスリーパーホールドをかけられた。


「さてはお前、春が来やがったなこの野郎! さっさと白状しろ」

「ちょっ、ギブ……わかった話すから」


親友とは中学1年からの同級生で、高2になった今でも仲良くやっている。

その親友に昨日の出来事をざっくりと説明した。


「おっ、俺は嬉しいよチクショー!!」


親友として、知り合ったその日に手をつないでキスまでした俺のことが涙を流すほど嬉しかったらしく、スリーパーホールドをしている腕に力が入り、あやうく落ちかけた……。


「それより1年にスゲー可愛い子が転校してきたってよ」

「へぇ……」

「次の休み時間に見に行かね?」

「先生に頼まれてるのあるからパス」

「ほー可愛い女子を見るのを断るとは……放課後やりゃいいものを」


興味ないな。

放課後はとっとと家に帰りたいから休み時間に用事は済ませたい

なんだったら、親友が邪魔してくれなければ、この休み時間で用事が終わってたのだがな?


俺は早く家に帰って、ゲームしたい。

それとまあ、そのなんだ。小唄からSNSで連絡くるかもしれないし……。


次の休み時間に担任教諭に頼まれていた雑事をこなし、放課後はまっすぐ帰ろうと教室を出ようとした俺を一緒にクラス委員をしている女子が呼び止めた。


「週末に配布するクラス新聞、今日で原稿書きあげようよ」

「あっ、うん」


くじ引きで負けてクラス副委員長になった俺とは違い、大葉すずなは立候補した今どき珍しい委員長タイプ女子。当然、彼女の言うことは絶対で反論する余地など1ミリもない。


結局、1時間以上も教室で居残りし、原稿をなんとか書き上げた。


それにしても俺の意見なんて、わざわざ聞く必要なんてあるのかな?

彼女はクラスの中でも、男女ともに人気がある。もし、クラスで劇をやるならモブ役の村人Cがお似合いの俺とは別次元の存在だ。


家に帰ると、見知らぬ靴が玄関に並んでいた。

女性もの? 

女っ気のない清宮家で女性ものの靴なんて見るのは何年ぶりだろうか……。


「おっ、啓楽けいら。紹介するから早くおいで」


リビングから親父が廊下に顔を出して手招きする。

よく状況が飲み込めないまま、リビングを覗くと女の子と目が合った。


──小唄?


なんで俺ん家に?


「紹介しよう、今日から一緒に暮らす那美さんと小唄ちゃんだ」

「え……えっ?」


それから互いに自己紹介した。

俺を生んだ女は、俺が小学校に上がる前に家を出て行った。


だから親父が再婚してくれるのを待ち望んでいたからそれは喜ぶとしよう。


問題は義妹いもうととなる小唄が俺の1コ下で、同じ高校に今日から通っていること。そういや親友が話してた1年の転校生って小唄のことだったのか……。


初めまして・・・・・、小唄です」

「え……あっ、初めまして」


昨日のことはなかったことにするつもりか?


──いや、その方がいいかも。

まさか、兄妹になるなんて、俺も小唄も想像もしていなかったはずだし。


初めて会う形に取り繕った後、2階で呆然とベッドに座っていた俺の部屋の扉がノックされた。


「はい」

「今、いいかな?」


隣の部屋で荷ほどきをしていた小唄が、俺の部屋に入ってきた。親父は1階で那美さんの荷ほどきを手伝っているはず。


「ビックリした?」

「うん、まあ……まさか小唄が俺の妹になるなんて、な」

「でも血はつながってないよ?」


おいおいおい!

距離が近いって。

ベッドに座っていた俺のすぐ隣に座った小唄は、俺を見上げてそっと目を閉じた。


こんなのダメだ!

親父と那美さんがせっかく結婚したのに家庭をめちゃくちゃにしてしまう。


だけど……。


目をつむっているさっき妹になったばかりの女の子の方を抱き寄せ、少し濡れた唇に顔を近づける。


『カシャ!』


はい?







「おにいちゃん」


え……なにその顔。

そのスマホはいったい!?


小唄はこれまで見たことのないような魔性の笑みを浮かべ、両手を俺の首に回し、耳元で囁いた。




「今日から私の奴隷だね?」





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2024年12月14日 19:47

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