2章 首無しライダー 客観

 とうきよう都 しま区 いけぶくろ駅 とうとうじよう線・中央口改札前


「帰りたい……」

 少年はつぶやいた。

 彼の心にうず巻く複雑な想いに比べ、それはあまりにもシンプルな言葉だった。だが、現在の彼の心情をこれほどストレートに表現する言葉もほかに無かった。

 少年の目の前に広がるのは、人。人、人、人。そして人。つまりは人。どうしようもない程に、人だけが彼の視界にあふれ返っていた。時刻は午後の6時を過ぎ、会社や学校から帰宅する人々の勢いが増してきた頃だ。まだピークにこそ達していないものの、人を『群集』と感じさせるには充分な人口密度であった。

 人の色に塗りつぶされる広大な地下空間──池袋駅の中央で、少年は人の空気にされて自らの目的を忘れかけてしまっていた。

 サラリーマン風の男の肩が自分にぶつかる。思わず謝ろうとしたが、相手はこちらの存在をにもかけずに歩み去る。少年は頭を下げて『す、すみません!』と口もり、改札から少し離れた柱まで行って寄りかかった。

 少年──りゆうみね帝人みかどは、腹の奥に奇妙なやくどうのような物を感じながら、それを不安から来るものだと判断した。ぎようぎようしい名前とはうらはらに、その表情には弱々しく困惑するさまが見て取れる。

 古い友人に誘われて、初めてやって来たいけぶくろ。より正確に言うならば、池袋どころかとうきように来る事自体が彼の16年間の人生で初めての経験だった。

 自分の住む街から出た事はなく、小中学校の時の修学旅行は共に欠席した。自分でもこれではいけないと思っていた矢先──しま区にある私立高校への入学が決まった。数年前にできたばかりの新設校であり、偏差値は中の上といったところだが、都内でも有数の学内設備を誇っていた。地元の高校に通うという選択もあったのだが、昔から都会に憧れていたという事と、小学校の時に転校した親友からの誘いという事もあった。

 転校したと言っても、帝人が小学生の頃には既にネット設備が整っており、中学に入ってからも毎日のようにチャットをしていた仲だ。顔を合わせなくなったものの、それ程のえんは感じていない。

 ネットにうとい帝人の両親にはそれがピンと来ないようで、『小学校の時に別れた友達に誘われた』というのは、息子むすこを上京させるには少々納得のいかない理由だったようだ。口にこそ出していないものの、学費の安い地元の公立校に通わせたいという事もあったのだろう。とりあえずは反対されたが、学費以外の生活費は自分でアルバイトをしてかせぐという事で説得し、こうして春から新天地に居を構える事となったのだが────

「失敗したかなぁ……」

 自分の存在などにもかけないであろう人々の群れに、自分は逆に圧倒されてしまっている。自らの勝手な思い込みから生まれるさつかくだとはわかっているものの、果たしてこれに馴れる事ができるのかという不安にみ込まれそうになっていた。

 五度目ぐらいのためいきをついたところで、聞き覚えの無い声がかけられる。

「よッ、ミカド!」

「!?」

 あわてて顔を上げると、そこには髪を茶色に染めた青年が立っている。顔にはどこか幼さが残っており、髪やピアスとのアンバランスさが目立っている。

 早速カツアゲ、それとも悪徳商法かと身を震わせた帝人だったが、相手が自分の名前を呼んでいた事に気付き、相手の顔をまじまじと見る。そして帝人は、その顔の中におさなじみの面影を感じ取る。

「え、あれ……君?」

「疑問系かよ。ならばこたえてやろう。三択で選べよ、紀田まさおみ ②紀田正臣 ③紀田正臣」

 その言葉に、帝人みかどいけぶくろに来て初めての笑顔を見せた。

「わあ、君! 紀田君なの?」

おれの3年かけて編み出したこんしんのネタはスルーか……久しぶりだなオイー!」

「昨日チャットで話したじゃない……それにしても、全然変わってるからびっくりしたよー。髪の毛染めたりしてるとは思わなかった! あとそのネタ寒い」

 毎日のようにチャットで話してはいたものの、相手の顔の変化まではわからなかった。声も少し低くなっており、最初に声をかけられた時に解らなかったのも当然のことだった。

 紀田まさおみはどこか照れくさそうに笑うと、帝人みかどの言葉に対して反論する。

「そりゃ4年もてばなあ。それに、帝人が変わらなさすぎだっての。お前小学校ん時から全然変わってないじゃんよ……っていうかさりげなく寒いとか言うな」

 正臣はそう言いながら、自分よりも数段階上の童顔である帝人の頭をペチペチとたたく。

「わわ、めろよ。大体チャットでもいつも寒いネタばっかやるくせに……」

 帝人はあわててその手を振り払うが、心底いやがっている様子でも無いようだ。小学校の時も、あるいはチャット上でも、常に正臣の方が帝人を引っ張るような関係であり、帝人もそれについて特に疑問をいだいてはいなかった。

 そんな正臣が、挨拶もそこそこに群集の中を歩き始める。

「じゃ、行こうぜ。とりあえず外に出よう。気分はまさしくGOウエスト。西口と見せかけて西武口方面に向かうトリッキーな案内人、俺」

「そうなんだ。で、西口と西武口ってどう違うの?」

「……すべった」

 正臣と共に歩く帝人の中で、群集への恐怖は大幅にやわらいでいた。この街を知っている人間と歩くという事、そしてその人間が旧知の仲であるというだけで、帝人の目に映る街の景色がまるで違うものに見えてくる。

「まあ、池袋にはとうデパートが西口に、西せいデパートが東口にあるの。……ああくそ一度滑ったネタの解説をする俺はなんなんだよ一体」

「多分、鹿なんだよ」

「……お前って結構どくぜつだよな」

 正臣は苦虫をつぶしたような顔を見せるが、あきらめたようにためいきをついてつぶやいた。

「まあいいや、俺の顔に免じて見逃してやろう。じゃ、どっか行きたいとこあるか?」

「ええと、チャットでも前言ったけど、サンシャインとか……」

「今から? ……まあ俺はいいけどよ、行くんなら彼女の一人でも連れてった方がいいぞ」

 サンシャイン60は、かつては日本で最も高いビルとして有名な場所だった。都庁舎やランドマークタワーなどに記録を抜かれた現在でも、水族館やナンジャタウンなどのアミューズメントパークが揃い、休日には学生や家族連れ等でにぎわうレジャースポットの一つだ。

 ミーハーだとは思いつつも、帝人みかどにはほかに思いつく場所も無い。テレビドラマ等で有名な場所で、もう一箇所思いつく場所があったのだが──

「ねえ、いけぶくろウェストゲートパークなんだけどさ」

「おお、おれも見てたよあのドラマ。小説も漫画も全部持ってるぞ」

「あ、いや、ドラマじゃなくて、ウエストゲートパーク自体のことなんだけど」

 それを聞いて、まさおみは一瞬キョトンとした後に、納得したような顔で笑いだした。

「いや、普通に西口公園って言えよ」

「え、でも……池袋人はみんなそう呼んでるんじゃ」

「池袋人ってなんだ。あ、何? 行きたい?」

 足を止める正臣に対して、帝人は首をブンブンと振りながら否定した。

「や、やめようよ! もう夜だよ!? カラーギャングってのに殺されちゃうよ!」

「あー、いや、マジな顔でそんな事言われても困る。つーか、今はまだ6時だぞ? ったく、おくびようなのも相変わらずだな」

 正臣はやれやれといった感じの笑顔を見せ、そのまま帝人を連れて人ごみの中を歩いていく。

 改札口前に比べると人の密度は減ったものの、歩きなれない帝人にとってはぶつからないように歩くのがひと苦労だった。

「最近はカラーギャングも減ったよ。去年あたりは目立つのが多かったんだけど、さいたまと抗争やって何十人もパクられてさ。それからは同じ色の服着た連中が少しでも集まろうもんなら、速攻でけいさつが飛んでくるようになっちまったのよ。それに、夜っつってもサラリーマンの集団帰宅が収まるまではそこまで派手な事もねえし……いや、暴走族とかのでかい集会とかなら別だけどさ。池袋じゃねえけど、町なんかで警官隊とやりあってるのが、たまに雑誌とかニュースにでるな」

「暴走族!」

「いや、だからこんな時間から駅前とかにはいないっての」

 それを聞いて、帝人はどこか安心したように息をいた。

「じゃあ、今の池袋って安全なの?」

「いや、俺も半分知ったかだから正確な事はわからねえんだけどさ。数自体は結構いるし、別にカラーギャングや暴走族以外にも危ない事は山ほどあるしな。それに、一般人の中にも……っつっても、お前は自分からけんを売ったりガン飛ばすようなやつじゃないからな。まあ後はポン引きと怪しい商売に気を付けて、ギャングや暴走族っぽい奴に近づかなけりゃ大丈夫っしょ」

「そうなんだ」

『絶対に手を出してはいけない人間』というのが気にはなったが、帝人は特に突っ込んで尋ねるような事はしなかった。

 二人は地下道が狭くなっている場所に入り、地上に向かうエスカレーターへと向かう。

 帝人みかどが周囲を見回すと、巨大なポスターが壁一面に連続して張られている。その種類も宝石店や映画の広告、何か漫画のような女の子の絵が描かれているものまで多種多様だった。

 そして、エスカレーターを昇って地上に出ると、人の密集する空気を引き連れたままで、ただ周囲の景色だけがガラリと変わった。

 相変わらずの人の波の中で、ウインドブレーカーをった人間が店の広告が入ったティッシュを配っている。女性だけに配っている人間もいれば、男女構わず配っている者もいる。男だけに配っている中には明らかに相手を選んでティッシュを渡している者もいた(実際帝人は無視された)。

 街を歩く人間もに及び、サラリーマンからフリーター風の若者、女子高生や外国人まで様々な種類の人間が混在している。かといって完全なこんとんというわけでもなく、それぞれ自分と似たような雰囲気の人間同士で集まっており、何か縄張りのような空気を感じさせる。時折その縄張りの中から一人飛び出し、別の種類の人間に声をかけたりしている。そんな光景すらも押し流すように、人の波はとめどなく動き続けていた。

 まさおみにとっては見慣れた光景だったが、帝人にとっては何もかもが新鮮に見えた。地元一番の商店街だとて、これほどの人であふれた事は無い。今までインターネットや漫画の中でしか見る事の無かった世界が目の前に広がっている。

 その感動をストレートに伝えると、まさおみが笑いながら次のように告げた。

「あー、じゃあ今度しん宿じゆくしぶに連れてってやるよ。はら宿じゆくでもいいかな、カルチャーショック受けるぞ。アキバとかでもいいし……人ごみが珍しいなら、競馬場に連れてってやろうか?」

「遠慮しとくよ」

 正臣の申し出をていちように断っていると、の間にか大通りに差し掛かっていた。複数車線の道路をせわしなく自動車が往来しており、その道におおいかぶさるように、巨大な道が空をさえぎっている。

「この上の道路が首都高速な。あ、そうそう、今通って来たのが60階通りってやつだから。それとは別にサンシャイン通りってのもあるけど、シネマサンシャインは60階通りだから間違えないように気を付けろな。ああ、せつかく前を通り過ぎたんだから案内しときゃよかったな」

「ああ、別に今度でいいよ」

 そういう帝人みかども、行きかう人間ばかりに気をとられ、肝心の街並みを見る事を怠ってしまっていた。恐らく今のままでは、一人で駅からサンシャインに辿たどり着く事は不可能だろう。

 長い信号待ちの間、正臣が今まで歩いてきた通りを振り返りながらつぶやいた。

「今日はサイモンもしずもいなかったな。さきさんやかりさわさんは多分ゲーセンだろうけど」

「だあれ?」

 それは明らかに独り言と思えたが、突然出てきた人名のれつに帝人は思わず尋ねてしまう。

「あー、いや、遊馬崎さんと狩沢さんはおれの知り合い。サイモンと静雄ってのは──さっき話したろ、敵に回しちゃいけない奴の内の二人だから。まあ、へいじま静雄は普通に生きてりゃ話しかける事もないだろうし、見かけたら逃げるのが一番だ」

 その言葉から、帝人は正臣が『静雄』という人間を快く思っていないという事を判断した。それ以上は語ろうとしなかったので、特に突っ込みを入れなかったが──ほかに気になった事があったので、思い切って尋ねる事にした。

「敵にしちゃいけない人って──漫画みたいだけど、他にどんな人がいるの?」

 少年のような顔をした青年の無邪気な問いかけに、正臣は何か考え込むように空をあおぎながら、意を決したように答えをき出した。

「まずはこの俺だ!」

「……ルート3点」

「√!? √って何だよ!? せめてマイナス20点とかわかやすい突っ込みにしてくれよ! 鹿な……俺のセンスは平方根を知らねえ小学生には理解できないって事か!? くそ、言ったそばから早速俺を敵に回しやがったな! いつからお前はそんな理解力に乏しい奴になった! ゆとりか? ゆとり教育って奴がお前を変えちまったのか!?」

「意外な弊害だね」

 帝人は表情一つ変える事無く、正臣のくだらない話にあいづちを打つ。いい加減に自分でも寒くなったのか、それ以降はまさおみは真面目に言葉をつむぎ始めた。

「んー……何人もいるけど。ヤーさんやギャングみたいなのは言うまでもねえとして……帝人みかどが関わりそうなやつだとあれだ、今言った二人と、もう一人おりはらいざって人がいるんだけどよ、こいつはヤバイから絶対関わるなよ。まあ、しん宿じゆく主体の人だからまず会わねえだろうけど」

「オリハライザヤ……変わった名前だね」

「お前が言うな」

 笑いながらかれたそのセリフに、帝人は反論できなかった。りゆうみねなどというみように帝人などという大げさな名前。確かに祖先は相当な名家だったらしいが、帝人の両親はただのサラリーマンだ。遺産についてはよくわからないが──もしあるのならば、帝人の私立進学にあそこまで難色を示さなかっただろう。

 帝人という名前も将来偉くなるようにという意味でつけられたのだが、小学校の頃はよくからかわれた思い出がある。それでも今では皆馴れてしまったのか、いじめにまで発展する事も無くここまで育ってきた。

 だが──中学校まで一学年一クラスしかなかった故郷と違い、この全く新しい土地では会う人間のほとんどが初対面だ。そんな中で、自分は名前に恥じぬような男と見られるのだろうか──。

 ──まあ、まず無理だよね。

 そんな心中を察したのか、正臣がフォローを入れようと言葉をつむぐ。

「あー、気にすんなよ。ぎようぎようしいってだけで別に悪い名前じゃないんだからよ。帝人が名前に見合うように堂々と振る舞ってりゃ、誰も文句を言う奴なんていねえって」

「……うん。ありがと」

 帝人が礼を言い終えたところで、信号が青に変わった。

「そうそう、敵に回しちゃいけないっていやー……『ダラーズ』って連中には関わらない方がいいらしいぜ」

「……ダラーズ」

「おお。ワンダラーズのダラーズ」

「また妙な例えを……それって、どんなチームなの?」

 先刻までは会話に消極的だった帝人が、珍しく乗り気になって話の続きをうながした。

「あー、おれも詳しい事はわからねーんだけどよ、とにかく人数が多くて線が一本ぶちきれた連中らしい。カラーギャングらしいんだけど、どんな色なのかもわからねえ。まあ、さっきも言ったけど今はカラーギャングもかつに集会はできねえから、そいつらもいつのまにか解散しちまってたりしてな」

「そうなんだ……」

 その言葉を最後に、か二人の間にぎこちない空気が流れる。

 彼らはしばし無言のままで、信号の向かいにあるシャープなデザインのビルに沿って歩く。ビルの中にはスタイリッシュな車が展示されており、ビルの形状とれいな調和を見せている。

 帝人みかどしばしそのビルと車に見とれていると──不意に、奇妙な音が聞こえて来た。

 最初に聞いた瞬間は、何かもうじゆういななきかと感じられた。だが、注意して聞いてみると、その音は大通り、車線上のはる彼方かなたから聞こえて来るようだ。そして二度目にその音が響いた時、帝人はその音がエンジン音であると判断する。やはり動物のうなり声のようにも聞こえたが、道路上から響いているというからには車かバイクの排気音と見るのが普通だろう。

 思わず立ち止まって様子をうかがう帝人に対し、まさおみは冷静な表情のままで淡々と告げる。

「帝人は運がいいなあ」

「え?」

「初めて東京に来たその日の内に、都市伝説を目の前で見られるなんてなあ」

 正臣の顔は無表情のままだったが、その目にはどこか期待にあふれるように輝いていた。

 ──そう言えば──

 帝人は、正臣が前にも何度かこんな目をした事を思い出した。授業中に、学校の上空を飛ぶ飛行船を見つけた時や、校庭に迷い込んだたぬきを見つけた時。そんなちょっとした非日常をかい見た時と同じ目をしていた。

 何か声をかけるべきだろうかと迷っている内に────


 彼らの前に、そのが現れた。


 ヘッドライトの無いしつこくのバイクにまたがった、人の形をした『影』。

 それが車の間をって──帝人達の前を走り去った。

「!?」

 数秒の間を置いて、再びエンジン音が唸りをあげる。だが、次の瞬間には再び無音となり、タイヤとアスファルトがれるわずかな音が聞こえるのみだ。エンジンが完全に停止しているとしか考えられない無音の中で、バイクは全く速度を落とさずに走り続け──更には加速までしているように見える。

 それは明らかに異常な存在であり、まるでその音が響く範囲だけ現実から切り取られてしまったような違和感を感じさせる。道を行く人間達の半分程が立ち止まり、げんな顔をして『影』の姿を見送った。

 そして──帝人は自分の全身が小刻みに震えている事に気が付いた。

 恐怖ではなく、ある種の感動のようなものに全身が支配されているのだ。

 ──すごいものを見た。

 擦れ違う瞬間、帝人はヘルメットの奥に目を向けた。そのヘルメットの内部はうかがい知れなかったが、微動だにしないその頭部からは、およそ目線というものが感じられない。

 まるで──ヘルメットの中には何も存在していないかのように。


♂♀


チャットルーム(深夜)


──なかろうさんが入室しました──

【こんばんわー】

[ばんわー]

【あー、セットンさん。今日、見ましたよ!】

【例の黒バイク!】

[? 田中太郎さん、いけぶくろに来たの?]

【ええ、実は私、今日から池袋に住む事になりまして。今は友達の家からつないでますけど、明日から駅の近くのアパートに住む事になってます。あらかじめプロバイダの契約は済ませてありますんで、すぐにネットに繫げられると思います】

[へえ、おめでとうー。一人暮らし?]

【はい】

[そうなんだー。……あ、黒バイクを見たって、夜の7時前ごろ?]

【あ、知ってるんですか? 私はサンシャインのそばで見たんですけど】

[うん、まあ。私もそこに居たから]

【!?】

【本当ですか? うわ、じゃあ知らない内にれ違ったりしてたのかもしれませんね!】

[そうかも]

【うわー! なんだ! こんな事なら前から言っておけば良かった!】

[ともあれ、いけぶくろにようこそー。なんか聞きたい事とかあれば遠慮なく聞いていいっすよー]

【ありがとうございます!】

【あ、そうだ、じゃあ早速】

[はいはい]

【オリハライザヤって人、知ってます?】

【なんだか友達に聞いて、近づかない方がいいとか言われたんですけど】

【怖い人なんですか? って、知ってるわけ無いですよね。すんません】

[……]

なかろうさんの友達って、その筋の人?]

【あ、いえ、普通のやつですよ】

[あ、そうですか。すみません。おりはらいざには関わらない方がいいよー。マジでヤバイっす]

《あー! なかさんこんばんわー!》

【!? かんさん、いたんですか?】

《ちょっと電話してたからー。あ、今ログ読みましたけど、とうきように来たんですか? おめでとうございますー! 今度オフ会でもやりますか?》

【あ、いえいえ、お構いなく。あー、でもオフ会はやりたいですねえ】

《そうですよねえ》

《あ、そうそう、オフ会と言えば、自殺オフってあるじゃないですか》

[あー]

[去年りましたねえ。ネットで知り合って心中]

いやな話ですよね】

【でも、最近はあまりニュースになってませんよね】

[未遂で終わってるのか、あるいはもう珍しくもなくなってニュースにならないのかもね]

《いえ、あるいはたくさんあるんだけど誰も気付いて無いだけかもしれませんよ!》

【え?】

《もしかしたら、まだ死体が見つかってないとか》

【うわぁ】

きんしんですよ]

《そういや、最近しつそう事件も多いし》

【? そんなニュースが?】

《えーと、大抵不法滞在してる外国人とか、地方から家出して来た子とか。いけぶくろからしぶの間あたりで多いみたいだよー。もしかしたら、『ダラーズ』の連中が取って食ってるんじゃないかってうわさもあるぐらいですよフフウ?》

【あ、やっぱりダラーズって有名なんですね】

《ダラーズはすごいんっですよ! こないだチャイニーズマフィアと話をつけたらしいし、こないだヤクザが刺された事件も、そのダラーズのしたわざなんだって!》

[甘楽さんってどこからそういう情報を仕入れてくるの?]

《知り合いに詳しい人がいるから、それでですよう》

【うう、詳しく聞きたいけど、明日は朝早いから今日はこの辺でー】

《あ、お疲れさまでっす!》

なかろうさん、おやすー]

[あ、私もちょっと用事があるんで、今晩はこれでー]

【すみません……あー、ドタチンって人の事も今度教えて下さいね】

【ではではー】

《あー、じゃあ今日はこれで解散ですねー。ほかに誰も来ないですしー》

《おやすみなさーい☆》


────なかろうさんが退室されました────

────セットンさんが退室されました────

────かんさんが退室されました────

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