第11話 洗礼式①
洗礼式当日、愛理は一の鐘で目が覚めた。
リビングに降りると、マリアンヌがいつも通りお茶を飲んでいる。
愛理は声を掛けた。
「おはよう。今日も女神ララーシャのご加護がありますように」
愛理はルイスフィールドの挨拶にも慣れて、自然とできるようになっていた。
朝食を終えると、マリアンヌとイアンは支度をはじめた。
今日の洗礼式に付き添ってくれるのだ。
愛理はマダムケリーの店で着付けをしてもらうことになっている。
先に支度を終えたのはイアンだった。ジャケットを着て正装をしていた。
それからしばらくして、茶髪はアップにまとめ、濃い緑のドレスを着たマリアンヌが一階に降りてきた。
マリアンヌの支度を手伝っていたメアリーもマリアンヌのあとについて降りてくる。
マリアンヌは愛理に笑顔を向けた。
「さぁ、マダムケリーのお店に行きましょうか」
愛理、イアン、マリアンヌを見送りにメアリーとジェームズも玄関先に出てきてくれた。
メアリーは微笑みながら言う。
「晴れた良い日ですね。アイリーンお嬢様、おめでとうございます。いってらっしゃいませ」
「ありがとう」
愛理は笑顔で言った。
マダムケリーの店に着くと、愛理は奥の部屋に通された。
そこには愛理のドレスが飾られており、ドレッサーが置かれていた。
「アイリーンお嬢様、本日はおめでとうございます。お支度をさせていただきますね」
マダムケリーは愛理の着付けをはじめていく。
ドレスは綺麗な若草色で、スカートの合間には白の布があしらわれており、白の布の裾にはフリルが縫い付けられている。ピンクがかった赤のリボンは幅が広く、リボンの中心には緑のラインが入っており、エメラルドが飾られている。靴も若草色に揃えられている。
最初のデザインから少し可愛らしくなっていたが、愛理はとても満足だった。
マダムケリーは愛理をドレッサーの前に座らせた。
「アイリーンお嬢様の髪は綺麗な黒色ですね。白が似合うと思いまして、レースのリボンをご用意しております。髪はアップでよろしいでしょうか?」
「お願いします」
マダムケリーは愛理の髪を編んでいく。
レースのリボンも一緒にサイドに編み込みしてまとめた。
「できましたよ。さぁ、エヴァンス侯爵とマリアンヌお嬢様に晴れ姿を見せて差し上げましょう」
愛理はマダムケリーにエスコートされて店先へ戻った。
イアンとマリアンヌは商談席でお茶を飲んで待っていた。
マリアンヌは戻ってきたアイリーンを見て、手を合わせて言う。
「とっても綺麗よ。アイリーン」
「うん、似合っている」
イアンもそう褒めてくれた。
愛理は調子に乗ってくるんと回って見せると、マリアンヌは拍手してくれた。
マダムケリーに見送られて店を出ると、通りかかった女性が声を掛けてくれた。
「あら。洗礼式ですか? おめでとうございます」
「ありがとうございます」
愛理は少し照れたような笑みを浮かべてそう答えた。
そのあとも、すれ違う人たちが祝福をしてくれた。
愛理たちが教会に着くと、入口にひとりのシスターが立っていた。
「この度はおめでとうございます。ご案内いたします」
シスターは先導するように歩き出し、愛理はそのあとに続いた。
教会にはすでにたくさんの人がいて圧倒される。
シスターは教会の中ほどで空席の長椅子を手で指し示す。
「ご家族の方はこちらにお座りください。お嬢様はこちらへ」
マリアンヌは愛理を励ます。
「頑張ってね。アイリーン」
愛理は少し緊張した面持ちで頷いて答えた。
シスターは愛理を連れて教会の最前列へと向かう。
そこにはすでに女の子と男の子が座っていた。
「お嬢様はこちらの席でお待ちください」
シスターは愛理を座らせると、その場から去っていった。
隣に座る男の子が愛理に声を掛けてきた。
「初めて見る子だな。俺はショーン・ブラウン」
その横から女の子も身を乗り出して言う。
「わたしはサリー・キャンベルよ。ショーンと一緒に貴族学校から来たの。あなたは?」
「私はアイリーン・エヴァンス。よろしくね」
ショーンが首を横に傾げて言う。
「エヴァンスだって? 俺たちと同い年の子供、いたっけ?」
「後継人になっていただいたの」
愛理がそう答えると、サリーはショーンの膝に手を乗せて更に身を乗り出す。
「エヴァンス家が後継人? 羨ましいわ」
ショーンはサリーを払いのける。
「サリー、重いよ。手をどけてよ」
「ごめん、ごめん。ショーン」
二人のやり取りを見て、愛理は笑った。
すると、端で待機していたシスターが指を口元に充てて、静かにするようにとジェスチャーをした。そして、視線を後ろにやるので、愛理は振り返る。
後方から二人のシスターが歩いてくる。
先頭を歩くのは、まとめ上げた金髪にシルバーのティアラをした女性だった。年齢は四十前後くらいで、凛とした雰囲気の人だ。手には大きな杖を持っている。
その一歩後ろから歩いてくるのはグレーの髪を後ろでお団子にした女性だった。こちらは穏やかそうな笑みを浮かべ、手には宝石が散りばめられた聖杯を持っている。年齢は三十代中ごろくらいだろうか。
二人が登場して、教会内はしんと静まり返る。
金髪の女性が登壇すると、グレーの髪の女性は少し下がったところで待機した。
金髪の女性は教会内を見回してから言う。
「この度は、成人となられましたことお祝い申し上げます」
金髪の女性とグレーの髪の女性は会場に向けて一礼する。
そして、金髪の女性は膝をついて、女神ララーシャの石像に祈りを捧げはじめた。
「女神ララーシャよ。この子らへの今までのご加護に感謝いたします。そして、今日、成人を迎え、これからの人生に祝福と、更なるご加護をお与えくださいませ。よき人生を送れるように、どうぞお導きくださいますようお願い申し上げます」
金髪の女性は立ち上がり、今度は愛理たちの方へ目を向けた。
「次は魔力測定を行います。名を呼ばれたら登壇してください」
その傍らでは魔力測定の準備が行われる。
金髪の女性の前に白いクロスが掛けられた小さな机が運ばれてきた。その机上にグレーの髪の女性が聖杯を置く。机の横には桶が置かれた。
「サリー・キャンベル」
「はい」
サリーが緊張した面持ちで登壇すると、聖杯の前に立たされた。
準備が整ったのを見て、グレーの髪の女性が説明をはじめる。
「聖杯に杖を向け、水で満たしてください。聖杯の中の水が赤だったらEランク、赤紫だったらDランク、紫だったらCランク、青紫だったらBランク。青だったらAランクですよ」
サリーは頷いてから杖を取り出して、聖杯に水を注ぐ。
グレーの髪の女性が手で制する。
「よいでしょう」
そして、聖杯の中の水の色が変わるのを見て、金髪の女性が言う。
「サリー・キャンベル。紫。Cランク」
金髪の女性は聖杯の水を観客によく見えるように桶に注いでいく。
水の色が紫色へと変わっていた。
教会に拍手が鳴り響いた。
「わぁ! やったぁ」
サリーは嬉しそうに手を胸の前で握った。
そして、席に戻っていく。
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