第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. 3
インデックスと名乗る少女は、むーっと文句を言いたそうな顔でビスケットをガジガジと
「───で、追われてるって。お前一体ナニに追われてる訳?」
いくら何でも、出会って三〇分も経たない女の子に地獄の底までついていく、とまでは思えない。かと言って、このまま何もなかった事にするのは、おそらく無理だ。
結局は
「うん……、」ちょっと
「連中?」
上条は神妙に聞く。という事は、相手は集団で、組織だ。
うん、と当の追われるインデックスの方がかえって冷静な風に、
「魔術結社だよ」
…………………………………………………………………………………………………………。
「はぁ。まじゅつって……、はぁ なんじゃそりゃあ!! ありえねえっ!!」
「は、え、アレ? あ、あの、日本語がおかしかった、の?
「……、」英語で言われるとさらに分からなかった。「なに、なーに? それって得体の知れない新興宗教が『教祖サマを信じない人には天罰が下るのでせう』とか言って
「……、そこはかとなく
「あー」
「……、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」
「────。ゴメン、無理だ。魔術は無理だよ。
「……?」
インデックスは小さく首を
おそらく科学万能主義の常識人なら『世の中に不思議な事なんて何もないっ!』と否定されると思っていたんだろう。
だけど、
「
「……よくわかんない」
「当然なの! 当然なんだよ当然なんです三段活用!」
「……。じゃあ、魔術は? 魔術だって当然だよ?」
むすっと。お前ん
「えーっと。例えばジャンケンってあるだろ? ってか、ジャンケンって世界共通?」
「……、日本文化だと思うけど、知ってる」
「じゃあジャンケンを一〇回やって一〇回連続負けた。そこになんか理由があると思うか?」
「…………、む」
「ないよな? けど、そこになんかあるって考えちまうのが人間なのさ」上条はつまらなそうに、「自分がこんな連続で負けるはずがない。そこにはきっと見えない
「………………、
「そ。ウチらの間じゃ、
インデックスはしばらく不機嫌なネコみたいにむすーっとしていたが、
「……頭ごなしに否定するって訳でもないんだね」
「ああ。だからこそ、真剣に考えてるからこそ、カビ臭い昔話はダメなんだ。絵本に出てくる魔術師なんて信じられない。MP消費で死人が復活するってんなら誰も
超能力なんて代物が『不思議』に見えてしまうのは、人間が単にバカだからで。
本当は、やっぱり超能力さえ『科学』で説明できてしまうというのが、ここでの常識なのだ。
「……、けど。魔術はあるもん」
むーっと口を
「まぁ良いけど。で、何でソイツらがお前を
「魔術はあるもん」
「……、」
「魔術はあるもん!」
どうやら意地でも認めて欲しいみたいだった。
「じゃ、じゃあ魔術って何なんだよ。手から炎が出るのか、
「魔力がないから、私には使えないの」
「……、」
カメラがあると気が散るのでスプーンを曲げられません、というダメ能力者を見た気がした。
とはいえ、なんか複雑な気分であるのも事実だ。
オカルトなんてない、魔術なんてありえないとか言っておきながら、実は
科学的な時間割りで後付けされたのではなく、生まれた時から右手に宿るこの力。
この世に『
……まぁ、だからと言って『世の中には不思議な事があるんだから、魔術だってあってもおかしくないよね♪』というハチャメチャ理論はやっぱり納得できないが。
「……魔術はあるもん」
ハァ、と上条はため息をついた。
「じゃあ、仮に魔術なんてモノがあるとして、」
「仮に?」
「あるとして、」上条は無視して続けた。「お前がそんな連中に
上条の言ってるのは、インデックスの着ている純白のシルク地に
「……私は、
「は?」
「私の持ってる、一〇万三〇〇〇冊の魔道書。きっと、それが連中の狙いだと思う」
…………………………………………………………………………………………………………。
「……まーたまた、良く分からない話になってきたんですが」
「だから、何で説明していくたびにやる気が死んでくの? もしかして飽きっぽい人?」
「えっと、整理するけど。その『魔道書』ってのが何なのか良く分からないけど、とにかくそれって『本』なんだよな? 国語辞典みたいな」
「うん。エイボンの書、
「いや、本の中身はどうでも良いんだ」
どうせラクガキだし、という言葉はぐっと飲み込んで、
「で、一〇万冊って──────どこに?」
これだけは譲れない。一〇万冊なんて言ったら図書館一つ丸々レベルだ。
「なに、どっかの倉庫のカギでも持ってるって意味なのか?」
「ううん」インデックスはふるふると首を横に振って、「ちゃんと一〇万三〇〇〇冊、一冊残らず持ってきてるよ?」
は? と
「……バカには見えない本とか言うんじゃねーだろーな?」
「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られると意味がないもの」
インデックスの言葉は
「……、うわぁ」
今まで我慢して聞いてきたが、これ以上は無理だと上条は絶句する。
ひょっとしたら『
「……超能力は信じるのに、魔術は信じないなんて変な話」むすっと、インデックスは口を
……。
「ま、そりゃそーだわな」上条は小さく息をつき、「そりゃそうだ。お前の言う通りだよ。こんな一発芸を持ってる程度で、誰かの上に立てるだなんて考え方は間違ってる」
上条は自分の右手に視線を落とした。
そこからは炎も
だが、それでも上条の右手はあらゆる『異能の力』を無力化させる。力の善悪は問わず、神話に出てくる神様の
「ま、この街に住んでる人間ってな
「そうだよバカ、ふん。頭の中いじくり回さなくったってスプーンぐらい手で曲げられるもん」
「……、」
「ふんふん。天然素材を捨てた合成着色男のどこが偉いってーのさー、ふん」
「……、ナメたプライドごと口を封じて構わねーか?」
「て、
「……、えっと。何がって言うか」
自分の
「えっとな、この右手。あ、ちなみに
「うん」
「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが戦略級の
「えー?」
「……つかテメェ何だその幸運を呼ぶミラクルストーンの通販見てるみてーな反応は?」
「だってー、神様の名前も知らない人にー、神様の奇跡だって打ち消せますとか言われてもー」
驚くべき事にインデックスは小指で耳の穴をほじって鼻で笑いやがった。
「……くっ。む、ムカつく。こんな、魔法はあるけどアナタには見せられませんなんて言うインチキ魔法少女に
と、上条
「い、インチキじゃないもん! ちゃんと魔術はあるんだもん!」
「じゃあなんか見せてみろやハロウィン野郎! ソイツを右手でぶち抜きゃ俺の
「いいもん、見せる!」むきーっ! という感じでインデックスは両手を振り上げ、「これっ! この服! これは『歩く教会』っていう極上の防御結界なんだからっ!」
インデックスが両手を広げて強調しているのは、例のティーカップみたいな修道服だ。
「何だよ『歩く教会』って、もう意味分かんねーよ! さっきっから聞いてりゃ
「なっ……ちっとも理解しようと思わない人が言う
「じゃあ刺してみる! ……って何だよそれ、きっかけは
「あ、信じてないね」インデックスはハァハァと肩を上下させ、「これは『教会』として必要最低限な要素だけ詰め込んだ『服のカタチをした教会』なんだから。布地の織り方、糸の
「つかないんだよって……あのな。じゃあハイぐっさり刺してみますなんて言う
「とことん馬鹿にして……。これはトリノ
うるせーばか。
一気にインデックスに対する好感度ゲージが下がった
「……、ふぅん。てか、つまりアレだ。それが本っっっ当に『異能の力』だってんなら、
「君のチカラが本っっっ当な・ら・ね? うっふっふーん」
上等だゴルァ!! と上条はインデックスの肩をがっちり
と、確かに雲を摑むような──柔らかいスポンジに衝撃を吸収されるような変な感覚がした。
「て、…………あれ?」
頭が冷えてきた上条は、ちょっと考えてみる。
もし仮に。インデックスの言う事が(全くありえないとは思うが)全部本当で、その『歩く教会』とやらが『異能の力』で織り上げられているとしたら?
その『異能の力』を打ち消してしまうという事は、つまり服がバラバラに?
「あれぇぇぇえええええええええええええええええええええ──────────!?」
あまりに唐突な大人の階段の予感に上条は反射的に絶叫する、が……。
……。
……、
……?
「──────────えええええええええ、え……って。あれ?」
起きない。何にも起きない。
何だよちくしょう心配させやがって、と思いつつ何かやりきれないモノを感じる上条だった。
「ほらほら何が
ふっふーん、という感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張るインデックスだったが、
次の瞬間、プレゼントのリボンをほどくようにインデックスの衣服がストンと落ちた。
修道服の布地を
一枚布の、帽子のようなフードだけは服から独立していたせいか無事で、頭の部分にそれだけ載っかっていると逆に切ない気持ちになる。
ふっふーん、という感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張ったまま凍りつく少女。
詰まる所、完全無欠に素っ裸だった。
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