第29話 助っ人

 赤井が最後の呼吸で射撃ポジションを確保する。銃口から冷たい光が弾道を描き、狙うは弓を構えるセンター分けの女性幹部。その背後で、あばにらは一歩前に踏み出した。


「援護は頼んだ!」

「うん、気をつけて!」


 言葉を交わし、あばにらは拳を握りしめる。恐怖はもう、燃える勇気へと変わっていた。そのまま幹部三人へ突進するあばにら。目の前に立ちはだかるのは前髪で目を隠した男と、アタッシュケースを持つ男。さらに周囲には武装兵が四方に広がる。


「かかって来いヤァ!!」


 低く叫び、あばにらは全身の力を使った突撃を開始する。蹴り、拳、肘、膝――動作の一つ一つが敵の防御を貫いていく。鈍器や刃物を振るう武装兵も、臆さず踏み込むあばにらの勢いに押され、吹き飛ばされる。


「絶対に、もう足は引っ張らない!!」

「あばにらさん……そのまま行っけェ!!」


 赤井はスナイパーライフルを使い、弓を引く女性幹部を狙撃。銃声が響き渡り、空気を裂き、女性幹部は身をひるがえして回避しつつ矢を放つも、赤井の巧みな射撃で矢は撃ち落とされていく。


 その隙に、あばにらは残る二人の幹部に接近戦を仕掛ける。目を隠した男の空気圧縮弾を拳で受け流し、アタッシュケースのマシンガンに対しても高速で回避しつつ、連撃を叩き込む。


「ボクから逃げられると思うな!!」

「やるじゃねぇか、天災で最弱な分際でよぉ……」


 男の声を尻目に、あばにらは蹴り上げた武装兵を手刀で止め、すぐさま膝蹴りで吹き飛ばす。周囲の瓦礫やシャッターの反射も利用し、身を隠しながらの旋回蹴りで複数の敵を同時に制圧。


 赤井は視線を外さずに援護射撃。弓の女性幹部が動くたびに冷静に狙いを定め、矢や銃火器の弾を次々と撃ち落とす。


「赤井……見ててくれ、ボクの全力を!!」

「はい、目に焼き付けます!!」


 互いの声が戦場に響き、二人は一種のリズムで呼吸を合わせていた。あばにらは跳躍し、壁を蹴り、走りながらの回し蹴りで武装兵を吹き飛ばす。幹部の二人も押され、ついには目を隠した男が足元をすくわれ、アタッシュケースの男が撃つ前に肩口を蹴られる。


「これで終わりだ!」


 最後の一撃、あばにらの全身の力が炸裂する。蹴りの反動で回転しながら、幹部二人と周囲の武装兵を同時に吹き飛ばす。アスファルトに大きな亀裂が走り、残響が通りに響いた。それはまるで、嵐のように。


「二人とも!!」

「貴方もこれで終わりです」

「……ッ!?」


 赤井はスナイパーライフルを構え、瞬時に放たれた矢の中心を的確に狙って射撃すると、矢は銃弾によって真っ二つになり、そのまま女性幹部の肩を貫き、完全に制圧が完了した。二人の連携により、ついに敵は全滅した。


「あばにらさん……すごいですよ、無双してました!!」

「赤井、君の援護があったからだ! 二人で勝ったんだ!」


 勝利の余韻も束の間、赤井とあばにらは次の目的地へ向かおうとしていた。しかし、突如の衝撃が赤井の背中を襲い、彼女は苦痛の声を上げることもできず、そのまま地面に崩れ落ちる。あばにらは慌てて駆け寄り、必死に彼女を抱き起こそうとする。


「赤井っ! しっかりして!!」


 しかし、視線を上げた瞬間、あばにらの心臓は凍った。通りの向こうから、金属の棍棒を握った金髪ショートの男が、まるで怒涛のように突進してきていたのだ。威圧感だけで周囲の空気を押し潰すようなその姿は、まさに殺意の塊。


 あばにらは赤井を抱え、背を向けて逃げ出す。だが男の動きは異常に速く、棍棒を持った男が即座に持ちていた瓦礫のかけらをボールのように棍棒で打つと、あばにらの身体に瓦礫の塊が直撃し、強烈な衝撃で彼は宙を舞い、地面に叩きつけられる。赤井を守りきれない自分への焦燥と絶望が、胸を締め付ける。


「くっ……こんな……っ!」


 その時、背後の高層ビルの屋上で何かが動いた。金髪ショートの男が一歩前に出た瞬間、ビルの端から重力に身を任せて、人影が落下してきた。そして、男と激突し煙と砂塵が舞い、視界が一瞬遮られる。


 次の瞬間、煙が晴れたとき、赤井の脇に立っていたのは――姫百合だった。長い髪が風になびき、眼光は鋭く、手にはヴェルクスマッシャーが握られている。まるで天から舞い降りた戦神のようだった。


「赤井、離れろ!」


 姫百合の咆哮が通りに響き渡る。金髪ショートの男が面倒そうに飛び掛かろうとした瞬間、姫百合は高速で接近し、棍棒を持つ相手の腕を蹴り上げ、バランスを崩させる。男は咄嗟に棍棒を振るおうとするが、姫百合の身体は空中で回転し、眼光が閃く。そして、金属の棍棒が跳ね返され、男はビルの壁に叩きつけられた。


「まだまだァ!!」


 姫百合の声と共に、最後の蹴りが炸裂。男は地面を滑るように転がされ、痛烈な衝撃で動きを封じられる。砂埃が舞い上がる中、あばにらは赤井を抱え直し、戦場を後にしようとする。


「姫百合……ゴメン」

「良いんだよ、赤井さん頼んだ」


男から目を離さぬよう姫百合は視線を変えずに背中にいる赤井をあばにらに託した。そして、あばにらは姫百合に感謝し、彼はそのまま彼女を抱き上げて走り去ったのだった。


「さ、やるか……」

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