第16話 侵入

 時は流れ、ついにカクヨムコンテストの開催日を迎えた。


 場所は東京の一角。街のあらゆる高層ビルや看板には、コンテスト出展作品の小説表紙がポスターとなって大々的に掲示されている。


 多くの作家たちが、自らの作品を携えて会場へと集結していた。


 ファンや観客も各地から集まり、いつどこから襲撃者が現れてもおかしくない状況。そのため、参加者たちはそれぞれ変装し、散り散りに分かれて警戒しながら待機していた。


 会場のメインホールにはレモネード、狂歌、双葉、玄花の四人が陣取り、裏口付近には狛が張り込んでいる。また、緋炎組の三人に加え、赤井とあばにらは会場周辺の街中を巡回し警戒を強めていた。


 そんな折、全員の耳に付けた小型無線機から狛の声が響き渡る。


『みんな、よく聞いて。今、会場周辺の高層ビルで、怪しい人物の三、四人グループが十か所で確認されている。くれぐれも気を付けて……』


 狛は愛用のハッキング用パソコンで街中の監視カメラ映像を順にチェックしていった。だが、ひとつだけ映像が砂嵐のように乱れて映っていない場所があった。


 それは会場前の地下通路に設置されたカメラ。

 焦りを押し殺しながら、狛は全員に伝えようと声を震わせる。


『みんな、会場前の地下通路の監視カメラが壊されている!警戒を――!!』


 しかし、狛の言葉が終わる前に、会場前の道路で大爆発が起こった。黒煙が一気に空を覆い、周囲は騒然となる。


 付近にいたファンたちはパニックに陥り、会場内も混乱の渦に巻き込まれていく。その音を聞きつけ、全員が即座に現場へと急行する中、レモネードは狂歌を連れて会場外へ出ようとしていた。


 人混みをかき分けて進む途中、ふとある人物の横を通り過ぎようとした瞬間だった。


 レモネードは背筋に冷たいものが走るのを感じ、咄嗟に横を見る。すると、彼の瞳の中はひし形の紋様が描かれており、じっとこちらを見据える同年代の少年が立っていた。


 異様な視線に、レモネードは直感的に危険を察知し、思わず大きく後退する。その動きで周囲のファンたちはレモネードを避け、自然と彼の周りに空間ができる。


 同時に、はぐれたレモネードを探しに来た狂歌が、その場の異変を敏感に察知していた。


「流石にバレちゃったか。こりゃ甘く見てたな」


 冷ややかな声が会場のざわめきをかき消し、鋭く響き渡った。


「誰だよ、テメェ!!」

「そうだね、レモネード君。君に名を言ってなかったね」


 レモネードは咄嗟に叫び返す。緊張の一瞬が会場を包み込み、空気は一層張り詰めた。それに白いシャツを身に纏った少年は優しい声で静かに呟く。その名は、レモネードだけでなく、無線機を通じて全員に衝撃をもたらした。


「ボクの名前は歪頼弌ひずみ よりひとだよ。よろしく」

コイツ……!!作家狩りの主犯者、歪頼弌!!


 驚愕のあまり、レモネードは一歩も動けずにいる。すると、歪の背後から多数の武装した者たちが一斉に押し寄せてきた。


「それじゃあ、楽しいパレードの始まりだよ」


 冷酷な言葉と共に、歪は瞬時にレモネードの懐へと潜り込む。瞬時に反応して歯を食いしばり、拳を振り上げるレモネードだが、その攻撃は軽々と止められて、恐怖に凍りつく。


 その時、横からメイスを携えた狂歌が勢いよく飛び出し、瞬く間に歪を八つの刃で弾き飛ばす。轟音と共に、歪は会場の壁を突き破って吹き飛ばされていった。


 狂歌はすぐさまレモネードへ駆け寄り声をかける。


「大丈夫か、レモネード!」


 さらに、部屋の奥から武器の仕込み傘を手にした狛も合流し、緊迫した状況を全員に伝える。


『みんな、歪頼弌が会場に現れた!奴に続いて増援も来ている、すぐに集合して!』


 しかし、無線から返ってくるのは、どの場所でも同じ悲報ばかりだった。


東京駅付近――

「えーこちら、緋炎組のゆうとその他二人。敵襲を確認」


東京環八通り――

「赤井とあばにらです。今、私たちの前にも敵が!」


商店街にて――

「玄花と双葉が敵を発見した……」


 なんと、各所で敵と遭遇しており、まるで全員が会場へたどり着けないよう、四方八方を包囲されているかのようだった。


 レモネードたちが緊迫した空気に凍りつく中、穴の空いた壁の向こうから歪がゆっくりと姿を現した。そして、顎に手を当てて静かに考え込むように顔をしかめ、視線をじっと狂歌へと向ける。


「君、確か狂歌君だよね?以前、鳳君からレモネード君を殺しに行ったと報告を受けていたけど、帰って来なかった理由がわかったよ。君は寝返ったんだね」


 その鋭い視線に場の空気が凍りついた。しかし、狛は恐怖を押し殺し、勇気を振り絞ってレモネードと狂歌に指示を飛ばす。


「二人とも!今は全員が揃っていない。だから、ボクたちが何としても止めなきゃダメなんだ!レモっちと狂歌っちは歪を抑えて!僕は後方の連中を一掃する!」

「わかった!」

「あぁ!」


 二人は頷き、動こうとしたその時、歪の背後から二人の人物が現れた。思わず足が止まる。それは、彼らはさらなる絶望をもたらす者だった。


「あれ?二人とも、こっちに来たのね?」


 歪が振り返り、柔らかな笑みを浮かべる。

 背が高く、扇子を手に優雅なドレスを纏った女性は怪訝な表情を浮かべながら答えた。


「歪、私はあくまでこっちの方が楽しそうだから来ただけ。貴方の手伝いはしないわ。ねぇ、しゃしゃけちゃん」


 女性の視線の先には、機械仕掛けのグローブを装着し、目に光を宿さないしゃしゃけの姿があった。


「しゃ……!?」

「戸惑うな!」


 狂歌は力強くレモネードに告げる。


 歯を食いしばり、二人は共に歪たちへと突撃した。その姿を見た女性は高笑いしながら扇子を掲げ、歪の前に立ちはだかる。


「ちょっと、それはボクの相手なんだけど!」

「ふふ、私たちも踊る相手を狙ってたの。ここは私たちがいただくわね」

「自己中!」


 口喧嘩を交わす間に、レモネードと狂歌は一気に距離を詰め、同時に攻撃を放った。だが、女性の扇子から冷気の気配を察した狂歌。時すでに遅く、彼女の一振りで冷気が二人を襲ったのだった。その姿を見ていた狛は叫ぶ。


「二人とも!!」」

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