第11話 憧れた背中
「元気してたか?レモネード」
ふらりと確実に歩みを進める男――
その名は、狂歌。
かつてはカクヨム界の特殊部隊の一員として名を馳せた存在。
創作の力を武器に世界の秩序を守ってきた英雄の一人。
だが今は、その栄光は影に堕ちていた。
「狂歌……どうして……」
憧れだった。
力だけじゃない、背中で多くを語ってくれた存在。
レモネードの心が凍りつく。否、止まってしまったかのように……。
「君が僕に言いたいことは、山ほどあるだろうけど……」
狂歌は途中で言葉を切ると足元に落ちていた小石を拾い、指で弾いた。その小石はまるでライフルの弾丸のように飛び、彼の片耳に付いていた通信機を正確無比に破壊した。
「ッ……!?」
「今は、二人だけで話がしたいんだ。悪いが――皆を呼ぶのはお預けってことで」
◇◇◇
カクヨム特務本部基地にて。
「まさか……ボクがバレてしまうなんて……」
「やっぱり、まーやが行く!このままだとレモネードが死んじゃう!!」
「落ち着けって! 確かに状況はピンチだけど……俺たちじゃ、“天災”に届かない。
今飛び込んでも足手まといになるだけだ!」
その言葉に舞夜は唇を震わせながらも、拳を握るしかなかった。
一方で、狛はモニター越しに情報を睨みつけたまま、ゲーミングチェアに深く腰を沈めて重い息を吐いた。
……あばにらっちと芽乃っちには今は休戦を優先させるべき。緋炎組に……いや、彼らも遠方任務中で動けない!星七や野々宮さんの行方も不明、僕も武器の修理と改良中……!!どうする……どうすれば……
思考を必死に巡らせるが打開策は見えない。
今、誰もがレモネードを助けに行けない状況なのだ。
結局、しゃしゃけと狂歌に加え……レモネードももしかしたら……
――心の奥底で、狛は初めて“最悪の結末”を想像した。
その瞳には、もう一切の光がない。
◇◇◇
「……俺と話したいことって、なんだよ」
睨みつけるレモネードの視線は鋭く、拳は自然と構える。だが狂歌は、無表情に近い微笑みを浮かべたまま、背負っていた黒のスーツケースに手をかける。
カチッ、カチッとロックの外れる音が広場に響き、ゆっくりと開かれたケースの中から現れたのは――
八方向に刃が伸びる、禍々しいメイスのような武器。
レモネードも見たことのないその武器は、狂歌が今まで見せたことのない本気の証だった。
狂歌はそれを軽々と振るい、柄を伸ばして槍サイズへと変化させる。そして肩に担ぎ、静かに前髪をかき上げて告げる。
「今から君を殺す。その
アレが……狂歌の武器……!?今まで見たことなかった……つまり、アイツは……“本気”なんだ!でも……
レモネードは息を深く吸い込んで吐き出す。
「見せてやるよ。そして絶対、オマエを連れ戻す!!」
「やってみるといいさ」
彼らの言葉が終わるより先に一枚の木の葉が地面へと落ちた。
そして、落葉が地に触れた、その刹那――二人は激突した。
音がなかったのは最初だけ。
直後、轟音と衝撃波が爆発するように広がり、周囲のガラスが振動し、地面が裂ける。
狂歌の八方向メイスが唸りを上げて振り下ろされ、レモネードは右の拳でそれを受け止めた――が。
「がッ……!!」
拳の骨がミシミシと嫌な音を立てる。明らかに骨が軋んでいる。
「チィ……ッ!!」
だが、それでも怯まない。
瞬時に体を捻り、狂歌のメイスを受け流すように軌道を逸らすとその流れを利用して、全体重を乗せた回し蹴りを狂歌の側頭部へと叩き込む。
よし、まず一撃……
レモネードが打つ渾身の回し蹴りであったが、 その足は空中でピタリと止まった。
「ッ……!?!?」
時が止まるような一瞬の後、狂歌は無言でレモネードの足を握り潰すように掴み――そのまま、振り回すように高層ビルへ投げ飛ばした。
ガラスが砕け散り、無数の机が宙を舞い、スプリンクラーと悲鳴の中にレモネードの体が叩きつけられる。
「いッ……みんな早く逃げろォ!!!」
レモネードは倒れたまま、必死に周囲へ呼びかける。
――が、その言葉が終わる前に。
「!!?」
ビルの外に、狂歌の姿があった。
無音で跳び上がり、空中でメイスを構えるその姿はまるで死神。
そして――、
流星のような重い打撃と共に、レモネードの体はビルを四、五棟連続で貫通して道路まで放り出される。
止まっていたトラックの車体をも凹ませ、レモネードは後頭部を強打し血が滲む。
「……ッテェ……」
視界が揺らぎ、耳鳴りが鳴り響く中でも、彼はよろめきながら立ち上がる。
クソッ……!このままじゃ一般人が巻き添えに……でもどこで戦えば――!?
焦りと痛みに脳が痺れる中、突如横からカチャとトラックのドアが開く音。
……!!
中から骨の砕けた運転手が、ドサリと転げ落ちる。その上に足をかけ、タバコの煙を纏いながら出てきたのは狂歌であった。
「はぁ……タバコ臭くて肺に悪いな、トラックん中は」
その瞬間、レモネードは全身で再認識させられる。
――これはもう、「人間」じゃない。
目の前の存在は、創作という概念を根底から揺さぶりながら、それでもなお“書く”という行為に意味を与え続けた――
【天災】の一柱、名を〖狂歌〗。
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