【#2】初配信〜伝説のはじまり〜

【渋谷ダンジョン・地下一階】


《配信開始》


「えっとぉ〜、ちゃんと映ってますかぁ〜?」


 :お、新規配信者?


「そ、そうです!!」


(うおっ!? もう視聴者来てるーー!?)


 と、とりあえず挨拶しとこう。挨拶は大事。古来からそう決まっている。


「先ほどチャンネル始めさせていただきました〜〜!! 新人ダンジョン配信者の天霧あまぎりアヤカですっ!! よろしくお願いします!!!!」


 :やば、可愛い!!

 :たまたま見つけたけど、すっごい美人だな!?

 :てか、顔真っ赤で草

 :もしかして、酔ってます?


「うん♪ 酔ってまぁ〜す♪」


 :やばw おもろいwww

 :見てくれのいい酒クズ和装女……なんて素晴らしい!!

 :これが日本のサムライの姿?

 :ちょっとSNSで拡散してくる!!


 お、おぉ……!? 思った以上に同接増えて来てる!? やはり美少女効果なのか!? 


 やばっ、こうなるとちょっと怖くなってきたぞ。とりあえず、これだけは言っておかないと……!!


「あ、あのっ!! こんなに集まって頂けるのは嬉しいんですが、実は最初に言っておきたい事がありまして!!」


 :ん??

 :なに~?


「実は俺……こう見えて”男”なんです!!」


 :は……?

 :ちょ待てよ!?

 :マジで!?

 :おいおいおいおいおい

 :いきなり冗談きついぜ


「本当です!? 俺、元々は男だったんですけど、この妖刀を入手した瞬間……女の身体へと変わってしまったんですよ!!」


 :……なんじゃそりゃ

 :じゃあ、ようするにTSした……ってコト!?

 :マジであったの? そういう設定じゃなくて?

 :しかし、ダンジョンだからな……。何が起こっても不思議じゃない


 :ところで、アマギリちゃん? 普段のお仕事は何してるの?


「うぐっ!?」


 お、俺に一番してはいけない質問を……!! まぁ、いい。もう失うモノなんてないんだから。


「む、"無職"ですけど、なにかぁ~?」


 :え? 無職??

 :あー……

 :なんかすいません


「こらこらーー!! そう言われると、なんか悲しくなるでしょうがーーー!! 無職だって頑張ってるんだよーーーーーー!? もういいわーーー!! もう一杯飲んじゃえーーーーーーー!!」


 そして、思いっきりグイっと一杯!! 喉にゴクゴクと流し込んでいく!!


「んっ……んっ……!! ぷはーーーーーーーー!!! 気持ちいいぃぃーーーーーーーーーー!!」


 :おー!! いい飲みっぷりぃ!!

 :めちゃくちゃ画になるな……やはり美少女は最高!

 :酒クズ!! 酒クズ!!

 :そうだ。これから”酒クズちゃん”って呼ぶのはどうだろう?

 :↑いいね!! わかりやすい!!

 :酒クズそのまんまで草


「ちょっとぉ~!? ”酒クズちゃん”ってあだ名酷くないですかぁ~!? もう半分決まりみたいになってますけどぉ!?」


 :とりあえず無職ってのは分かった。となると、今はどこで寝泊まりしてるの? ネカフェ??


「んー、ちょっと前まで実家で暮らしてました〜。でも、ついに両親の堪忍袋の緒が切れたのか追い出されちゃって〜。それで現在、絶賛ホームレス中で〜〜す♪」


 :は? マジで??

 :こんな可愛い子が!?

 :うおっ、人生終わっておる……


「そだよ〜♪ "人生終わりちゃん"で〜す⭐︎」


 そんな感じで吹っ切れたせいか、一周回って楽しくなってきた頃。


 ◇◆◇◆◇


 ゴゴゴゴゴッ!!


「んん〜〜? なにぃ〜〜?」


 突如、近くの空間に黒い渦のような時空のゆがみが発生する。そして、その中から出てきたのは……!!


「グルルルルル!!」


「うはっ!? モンスターぁ〜〜!?」


 巨大なライオンのようなモンスター。その頭は三つ首となっており、それぞれの顔が俺の方へ威嚇いかくしてきていた。


(確かあれは……”キマイラ”だっけ? 前にどっかのダンジョン配信で見た記憶だな〜〜?)


 :えっ!? こんな浅い層にキマイラ!?

 :Aランク相当のモンスターじゃん!?

 :おかしい……普通は下層に行くにしたがって強いモンスターが出るはずだが

 :酒クズちゃん!! のんびりしてるヒマないぞ!?


「グルォォオオオオオオオオオオ!!!」


「おっと!?」


 いきなり飛び掛かってくるキマイラ!! ギリギリのとこで回避して、俺はすれ違いざまに距離を取った!! 


(なるほど。"かなり強いモンスター"ってゆーのは分かる。だったら──!!)


 そして、俺が取った行動は──。


 プシュッ!!


「んっ!! んっ!!」


 最後に残ったビールを飲む事だった!! 


 :ばかっ!? こんな時に酒を!?

 :飲んどる場合かーーーーーーーーーー!?


「ふふっ♪ だって、死ぬ前に酒飲めなかったらもったいないじゃん~~♪」


「ガゥゥウウウウ!!」


 そして、そんな間にもキマイラは切り返して再び距離を詰めていた!! もう俺の目の前だ!!


 :おいおいおい!? やばいって!?

 :酒クズちゃん、危ない!?

 :うわあああああああああああ!!!!!


 そう、普通ならヤバイ状況。でも、そんな状況にも関わらず俺の心は穏やかだった。そして──。


「バウっ!?」


 近くに響き渡るキマイラの悲鳴。


 やがて魔獣は力を失ったようにその場に崩れ落ち、そのまま黒い魔力の泡となって消えていく。


 そして、キマイラの魔力は俺の体内へと吸収されて、そのまま”経験値”として身体へ刻み込まれていった。


 :え……?

 :いやいやいや、うそでしょ?

 :あれ!? これ夢じゃねぇのか……!?


「ふぁ……?」


 その時、なぜか急に酔いが覚めてしまった。今までの暴走がウソのように冷静になっていく。


 そして……今しがた自分がやった事の大きさをようやく理解した。俺は手元の妖刀を見下ろしながらつぶやく。


「か、勝っちゃった……? あのキマイラに……???」

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