冷たいアイツの食べ方

またり鈴春

第一話 メイドさんになるために


「お金が、ない!」



広げたのは、がま口サイフ。大きなサイフのお口は、諭吉でもなんでも入りそうなものなのに……入れるお金が、全くない。財布からグルル……とお腹の鳴る音が聞こえてきそうだ。


グルル――


あ、今のは私。



「サイフだって私だって、お腹空くよね。この夏の暑い日に、飲み物さえ無いのは、命の危機を感じる……」



現在、8月31日。

数日の登校日を終え、いよいよ明日は新学期。



「あ〜!どうしようかなぁ」



一人分の布団に横になり、うなりながら目を閉じる。制服の準備OK、筆記用具の準備OK。もう明日を待つだけだ。と思っていたけれど。


翌日の始業式。私が来ていたのは――



「メイドの応募を見てやって来ました。夏野(なつの)冷愛(れあ)です」



現在、大っきい家。そこで行われているバイトの面接に、私は馳せ参じている。


登校中に、電柱に貼ってある「猛者(もさ)求む!!」が嫌に目立つ紙を見つけた。そこにはアルバイト募集中とあり、メイドをしていれば、それなりのお金がチャリンチャリン、がま口サイフに入るらしい。



『始業式が始まる前に、こっちにGO!』



学校を背中に見ながら「後で行くからね、必ずね!」と、勝手に約束をして、大きなお家を目指した。そして現在、バイトの面接中というわけだ。


だけど、引っかかることが二点ある。なぜ、メイド募集なのに、屈強な女の人達しかいないのだろう。それに、応募紙に書いてあった「猛者」って……。え、メイドのお仕事に「戦い」でもあるのかな?



「いや、そんなまさか……」



だけど、ぐるりと当たりを見回す。次々と目に飛び込む、屈強なメイド志願者たち。



「まさかでは、ないかも……!?」



私がパニックよろしくになっていても、面接は滞りなく終わった。先ほど、自らを「メイド長」と名乗った尖ったメガネをかけた女性が、メガネをカチャカチャしながら履歴書に目を通していた。


あ、履歴書は、いつ何時いるか分からないから、常にカバンに入れてるよ!ビンボーに抜かりなし!チャンスは確実に、ものにするタイプなのだ!



「じゃあ、そこのガッツポーズしてるあなた。夏野さん、だったかしら。早速今日からよろしく頼むわね」

「へ?」



どこかの国に出稼ぎに行っているお母さんお父さん、どうやら私……チャリンチャリンの波に、乗れたようです!

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