漫才『ロボット』二人用


AB:ど~も! よろしくおねがいします!


A:いやあ、こんなに足元がクソ熱い中、みなさんお集まりいただいて、ほんとうに有り難いですね。


B:暑いのは足元だけじゃないんですけどね、まあ、こんな感じでやらせてもらってますけども。


(二秒間の無言。A、Bをじっと見つめる)


A:なあて、なあて。


B:どしたん。


A:(大声で)なあて!!


B:いや、聞こえてるよ。大声だすなて。……で、なに?


A:最近さ、ネットの掲示板に書き込みをしようとしたらさ、『私はロボットではありません』ってチェックを押せって、……何回も言われて、うんざりしてるんだよね。


B:まあ、スパムメッセージって言って、関係のないコメントを自動的に書き込むやつの対策だよね。それで、何を書き込もうとしたの?


A:政治家の悪口。


B:やめたほうがいいよ、それ。


A:そんなことはどうでもいいのよ。それより、その事を、ある人に相談にのってもらってたんだけどさ。


B:ああ、相談にのってくれる人がいたのね。まあ、相談してもあんまり意味はなさそうだけど。


A:そのときに俺、気づいたんだよ。お前が実は人間じゃないかもしれないって。


B:どこの誰に吹き込まれたんだよ。


A:ChatGPTさんが言ってた。


B:なに簡単にAIに丸め込まれてるんだよ。


A:でもさ、実際、俺は自分で「自分がロボットじゃない」ってわかるのは当然としてさ、俺目線、お前がロボットじゃないって保証はどこにも無いわけじゃん?


B:まあ、たしかにね。でもさ……ネットで見たよ。そういう問題が海外の大学の入試で出たって。お前も相談相手のAIも、ネットに毒され過ぎなんだよ。俺は誰がなんと言おうと人間。間違いなく、正真正銘の人間だから。


A:そうは言っても、簡単に信じることなんて到底できないじゃん? ……というわけで、お前がロボットじゃないかどうか、確認するために、いくつかテストを作ってきたから、やってみてくれない?


B:とんでもない馬鹿と哲学者の、ぎりぎりのラインを行き来してるね。正直、すっげえ面倒くさそうだから、やりたくはない。


A:じゃあ、お前ってやっぱり……。


B:面倒くさがるロボットなんか居ねえだろ。まあ、わかった、やるからさっさと問題を出して。


A:はい、それじゃあ第一問。


B:はい。


A:これから出す、いくつかの質問に答えていってください。


B:はい。


A:あなたが卒業した小学校は?


B:これ、あれだ。パスワードを忘れたときの秘密の質問みたいなやつだ。……市立つばさ小学校ね。


A:あなたの母親の旧姓は?


B:田中。


A:あなたはYoutuberユーチューバーですか?


B:いいえ?


A:実在していますか?


B:はい。質問の意味がわかんないけど。


A:あなたは結婚していますか?


B:……なんかアキネイターやってない? あの、「はい」と「いいえ」で人物を当てるやつ。


A:ちょっとよくわかんないけど、たぶんそう、部分的にそう。


B:ばっちり分かってんじゃねえか。まあいいや、結婚していないです。


A:それじゃあ最後の質問ね。あなたの口座番号と暗証番号を教えて下さい。


B:こんなところで言えるわけねえだろ! いや、こんなところじゃなくても言えねえわ。


A:(三秒間だまって、Bを見つめる)


B:ロボットじゃねえから! 流石に、質問内容がプライバシーに関わり過ぎるし、他人に答えて良い内容じゃないって。


A:じゃあ分かった。しかたなく次の問題にうつるけど、今んところお前、自分がほぼロボットだってこと忘れないでね。


B:なんか腹立つなあ。


(小道具:画像パネルを出す。無くても良い)

A:それじゃあ二問目。今から出す画像を見てください。


B:なにこれ、マグロの画像? いっぱいいるけど。


A:そう。マグロ。……この中から、キハダマグロを選んでください。


B:いや無理! 俺、切ったあとのヤツしか見たことねえよ。刺し身になる前のマグロなんか分かるか!


A:じゃあ刺し身の状態の画像だったら、答えられたってこと?


B:それも無理!


A:(三秒間、無言でBを見つめる)


B:無言であつをかけるな。……さすがに難易度が高すぎるって。俺の分かる範囲の問題を出してよ。


A:わかった。お前って、そういえば野球漫画めちゃくちゃ好きじゃん?


B:ああ、タッチもメジャーもドカベンもダイヤのAでも、なんでも任せてよ。野球漫画クイズなら、いけるよ。バッチこい。


(小道具:画像パネルをもう一枚出す。無くても良い)

A:じゃあこの画像を見てください。


B:これは、あだち充先生のキャラだよね?


A:そう、あだち充先生の男性キャラ画像集。十人分。


B:お、おう。


A:この中から、「タッチ」の「上杉達也」をすべて選んで。


B:無理なんだよ。このクイズ。……小学館のサイトでこの企画があって、先生本人ですら全問正解できなかったんだから。俺には無理なんだよ。


A:お前さあ、本当に、なんだったらできるんだよ! お前が人間だってことを俺に証明してくれよ! 俺、ロボットなんかと漫才なんて、やりたくねえんだよ!


B:AIなんかにそそのかされてよく言えたな! ……計算問題とかないの? ほらあるじゃん、「誰にでも解ける簡単な計算問題なんだけど、ロボットには認識できない問題だから解けない」みたいなやつ。


A:ああ、ぐにゃぐにゃの文字で、かんたんな足し算とかが書いてあるやつね?


B:そうそう!


A:そういうのはないけど、ちょっと頭をひねるタイプの文章問題ならあるよ。


B:俺、高校すら出てないけど、大丈夫なやつ?


A:大丈夫。問題文そのものは、シンプルだし中学生くらい、早ければ中学受験する小学生でも理解できる内容だから。


B:……わかった、やってみるよ。


A:まず、2より大きな偶数って、たくさんあるじゃん?


B:あるね。それこそ無限に続くくらいあるね。


A:それらの偶数がすべて、ふたつの素数を足した数で表せることを証明せよ。


B:は?


A:だから、6なら3 + 3じゃん? 3って素数でしょ? 8なら3 + 5じゃん? ほら、どっちも素数の足し算で表せるでしょ? これが全て成立するかどうかって話。


B:いや、言ってる意味はわかるんだよ。分かるんだけど。


A:分かるんだけど? じゃあやってよ! 証明してくれよ!


B:無理なんだよ。


A:なんで?


B:これ、ゴールドバッハ予想っていって、三〇〇年くらい、世界中のひとが頑張って解こうとして、……まだ解けてない問題なんだよ。とにかく、まだ人類が解けてないんだから、解けたらそれこそ偉人かロボットだよ。


A:解けたら偉人かロボット……。 はっ! じゃあお前、解けてないから人間ってこと!?


B:……そう! 俺は、まごうことなき人間!


A:信じて良いんだよな!? 質問にも答えられないし、違いもわからないし、計算もろくにできない凡人以下だけど、お前はたしかに人間なんだって!


B:なんかムカつくけど……そう! 俺は凡人以下だけど、人間だ!


A:わかった。でも本当に信じていいかどうか、一回、ChatGPTに聞いてみる。


B:いいかげん自分で考えろ! もういいよ。


AB:どうも、ありがとうございました!

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