第5話



 『見えざる戦争』は、一年前に終結している。



 転生者レンジロウは世界連盟に討ち取られ、世界に再び平和は訪れた。

 

 そういう事実になっている。


 実際は俺の勝ちだったわけだ。


 内容は酷いものだったが。

 

 圧倒的な魔力量で際限なく活動し続ける俺と、世界連盟の保有する特記戦力との削り合い。どちらが先に音を上げるかの泥臭いリソース勝負だ。


 戦いの決め手は被害の許容量の差とでもいうのだろうか。

 身一つで暴れる転生者と、戦いながら被害がかさみ続ける世界連盟。


 失うものがない俺と、失うものが多すぎる世界。



 先に根負けしたのは世界だった。



 不毛すぎるが故に拾った判定勝ち、限りなく白に近いグレーとでもいうべき内容だったが、まあ勝ちは勝ちである。


 世界連盟が敵対しないとの言質は取ったあとは、煩わしい干渉を嫌って行方をくらましたワケだ。


 

 戦時は転生で得た超権能により、見た目を認識阻害で誤魔化していたし、電子上の俺に関するデータは超機能スマホでハッキングして削除している。


 そもそも転生者なんて存在は、一般には遮蔽されて噂ぐらいしか残ってない。


 そんな感じで俺を特定するのはほぼ不可能な筈だ。

 ガチ近接で殺し合った英雄級の人間なら出会えばバレるかもしれないが、普通に生活する分にはまず出会わない。


 故に俺は詠坂レンジという偽名で生き延びているし、なんの干渉もなく平和に過ごしていたわけだ。



 ――――今日までは。 



「貴方は転生者レンジロウですか?」

「違います」

「嘘をつかないでください」


 バレてるわ。


 普通にバレてるわ。


 えーなんでだろ。


 そこまで雑に突破できる転生能力ではないし、見た目はほぼ完全に誤魔化しきっていたと思ったのだが。

 

 ……とりあえず惚けるか。


「そういわれてもな、転生者レンジロウってなに?」

「1年前に起こった『見えない戦争』の中心人物です。秩序機関である世界連盟と単騎で戦闘を繰り広げ、世界中に甚大な被害を齎すと共に、最終的には連盟を機能不全一歩手前まで追い込みました」

「まあまあまあまあ、落ち着こうじゃないか」


 転生者関連ソレは一般公開されてない情報だろ。


 学校の中でベラベラ喋んじゃねぇ。


 あと甚大な被害の原因は半分くらいそっちの責任だろ。


 ただ、どうやら人違いではなさそうだ。


「……転生者って根拠は?」

「魔力、でしょうか。 容姿・能力に関する情報はほとんど残っていませんでしたが、戦場の魔力的な痕跡が先輩の魔力と一致します」

「魔力か……」


 DNA鑑定とかみたいなものだろうか。

 潜伏するうえで転生者関連は念入りに消したつもりだが、そこまでは頭が回らなかったな。


 そりゃ戦場を調べたら魔力の痕跡は山ほどあるだろうし。


 もしかして終わったか?

 今は認識阻害も使ってないし見た目も完全にバレちゃったよなコレ。


 短い平和だったな。 


 また一人VS世界で戦争をするのか。


 嫌すぎる。


「上手い事隠れてたつもりだったんだけどな~!!」

「確かに、入学先に潜んでいたのは想定外でした。よほど派手に権能を使わない限りは連盟にも見つかることはないでしょう。引き続き上手く隠れてください」

「...............ん?」


 なんか隣に座って弁当を広げ始めた御影ユイの言葉に食いつく。

 

「なに? 殺しに来たんじゃないの?」

世界崩しワールドブレイカーに単騎で挑むのはちょっと.........」


 たこさんウインナーを頬張る御影に首を傾げる。

 たしかに周囲を見ても、他に人間のいる気配はない。


「じゃあマジで本人かどうかの確認だけ?」

「そもそも戦争は完結してます。世界連盟からは特別干渉はすることはないとのことです」


 やったァ~~~~~~!!!!


 首の皮一枚繋がった。


 マジで戦争は御免である。

 殺意マシマシの英雄ラッシュは二度と御免である。


「ただ私自身、一年前に戦ったこともありますし、挨拶くらいは必要かと」

「エッ、そうだっけ」

 

 やっべ、全然覚えてない。


 当時はいっぱいいっぱいの状態で戦ってたので、雑に倒してた人間は記憶が怪しいのだ。ぶっちゃけ雑にインパクトの強い英雄共ぐらいしか思い出せない。


 剣使う奴らも結構いたしなぁ。


 超速の居合使い、病弱ロリエルフ剣聖、宇宙から墜落したサイバー光剣士、自傷出血火事場の馬鹿力使い等々.........ダメだ、癖が強い奴らしか出てこない。


「覚えていませんか.........?」

「んー、あれだ。たしか空を両断してたよな?」

「それは『星斬り』の剣騎士団長エルベルですね、たしかに有名な剣士ですけど」

「.........じゃあ伝説の魔剣の魂を保有してたりする?」

「魔剣少女達の事ですか? 私はただの人間なので違います」


 違うか。


 お手上げだ。


「ごめん、わからん」

「大丈夫ですよ。あの時は覚えてもらえるほど強くもありませんでしたから」

「なんかごめんな、パン喰う?」

「いただきます」

 

 弁当を食べ終え、御影ユイが立ち上がる。


 あげたパンは放課後に食べるらしい。


 見れば、昼休みももう終わる時間だった。


「それでは」

「本当に挨拶に来ただけだったんだな.........」

「はい、出会う機会はこれからもありますから」

「そうかな、そうかも.........」


 正直、普通に逃げようとか思ってた。


 なんなら国外へ高飛びも考えていた。


 だが、御影ユイの話を信じるなら、俺はこのまま過ごしていても問題はないらしい。


「______じゃあ、また明日だな」

「はい、先輩」


 ペコリと頭を下げて走り去る彼女は、どこか嬉しそうに見えた。


「まあ、様子見でいいか」


 日常が続くなら、それが一番いいのだ。

 場所の選定、戸籍情報の改竄も含めて逃げるのは手間が掛かるしな。


 まあ騙されても大丈夫だろう。


 俺、結構強いし。


 そんなことを考えながら午後の授業へと繰り出すのだった。


 

□□□


 

 平和に過ごせればそれでいいのだ。

 世界連盟からの干渉も、多少であれば気にしない。


 そう思っていたのだ。


 だから翌日の朝に俺は驚愕することになる。



「先輩、おはようございます! 一緒に登校しましょう!」



「なんでぇ?」



 朝起きたら御影ユイが家の前で待っていた。

 

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