音源は何?
加藤さんは寝ている時、ノイズに悩まされていた。今時部屋にノイズ源はいくらでもある。電源が交流である以上、整流や昇圧などでノイズが生じるのは仕方ない。ただ、そのときのノイズは電気製品が出すものにしてはなんだか奇妙だった。
ある休みの日のこと、アパートの部屋の中にある電気製品を全て切ってからブレーカーを落とした。これでノイズがなくなれば家電が鳴らしているノイズだったことになる。しかし、その期待は見事にはずれることになる。
その晩もノイズは鳴り続けた。ジジジと何かが音を立てている様子はイライラすることこの上ない。むかっ腹が立ってイライラとはしたのだが、なにしろその原因が見当たらない。
これで幽霊だというならお札やお祓いなどでどうにか出来るのかもしれないが、頼み込んで見てもらった霊能者もここにはなにも無いと言っていた。せめて何かあって欲しいとまで思ったのだが、どうしようもないだろう。
結局、耳栓を使うことで解決しようとした。これが間違いの元だった。
遮音性の高い耳栓を使用したのだが、まったく同じ音量でノイズが鳴り響くのだ。つまり、これは外部から聞こえてくる音ではなく、自分の頭から聞こえてくるということだ。そう考えると少しゾッとした。
霊能者に自分のお祓いでも頼もうかと思い、部屋を見てもらった霊能者に連絡をした。しかし『それは私にできることではない』とにべもなく断られた。正直腹が立つ。あの霊能者はノイズの原因が部屋ではなく私だということに気が付いていたのだ。
イライラしながらも、自分が何をしたのか考えた。そしてノイズがなんの音なのか考えたのだが答えがさっぱり出てこない。今度ノイズが聞こえたらしっかり聞き取ろうと決め、普通に生活した。
数日後、寝ている最中に目が覚め、ノイズが頭の中に響いてくる。来たなと思い、その音がなんなのか懸命に聞き取ろうとした。すると『ジジジ……』という音だったものが『タス……スケ……助けて!』という声だったのに気が付きベッドから飛び起きた。しかし音源は当然だが見当たらない。
あの音は一体なんなのだろうと思いながら毎日聞こえるわけでもないので我慢をすることにした。しかし、自分が誰かを傷つけた記憶も無いし、助けを求められたこともない。ではあの声の主は一体誰なのか?
それが分からないまま日々が過ぎていった。ある正月に、実家に帰ると母が突然真面目な顔をして言う。
「アンタ今年成人式でしょ、話しておきたいことがあるから真面目に聞きなさい」
「何?」
椅子に腰を下ろし、母親と向かい合って座る。
「アンタは覚えてないだろうけどね、近所にIちゃんって子がいたのよ」
その名前に聞き覚えはなかった。近所には数軒あるがIさんという名前に心当たりはなかった。
「その子がどうかしたの?」
「覚えてないのね……まあ一歳頃までだったから無理もないけど、その子ね、アンタとよく遊んでたのよ。ある日原因不明で亡くなったんだけどね。そこのおばさんが成人式に出るならその子の遺影をポケットに入れでおいてくれないかって言ってるのよ。付き合いってものがあるしね、この写真をこっそりでいいから持っておいてくれる」
そう言って一枚の写真を差し出してきた。そこには可愛らしい赤ちゃんが映っていたのだが、どこか禍々しいものに思えてしまった。とはいえその家のおばさんの○○さんには家族ぐるみでお世話になっている。不承不承引き受けて、成人式の日にその子の写真をこそり持って出席した。
その晩、実家にいる時に金縛りに遭った。動けないななんて思っていると、耳元でささやき声がした。
『ありがと』
その声が聞こえ終わると共に金縛りは解けた。なんだか全て解決したような気がしてようやく寝ることが出来た。
翌日母親に○○さんのことを聞いた。
「あの人、娘が成人するまではって遺骨を家に置いていたのよね。成人したからってようやく納得したらしくお墓に入れたらしいわ。これで元気になってくれると良いんだけど」
それ以降、その○○さんが良くなったのかは不明だが、少なくとも自分は金縛りに遭うことが無くなり、平穏な日々を過ごしているという。加藤さんは私に『何かまだ憑いているなら教えて欲しいんです』と言ってきたが、彼女には何かが憑いている影は全く見えなかった。一応は解決したということで納得してもらえた。
それから、翌年に届いた年賀状には彼女があれ以来、息災にすごしているとご報告をいただいた。どうやら解決したらしく、私はホッと胸をなで下ろして久しぶりに平和的な解決をしたなと思った。
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