episode 12-2 対決の勝者
「――えっ、ちょっと、こら……」
それから僕が立ち上がれたのは一人に戻って三十秒は経ったあと、突然現れて優美に遠ざかるシアノ蝶に目が行ったときだった。
「ああ、こっちにも逃げられちゃうよ」
パーぷルに蝶、次から次へと逃げられる。僕は深呼吸で心と身体を何とかなだめ、顔や手の汗と汚れをシャツでぬぐって来た道を振り返った。道が消えていたらどうしようと怖くなったことはあのパーぷルにも知られたくない。
もちろん僕の前に道はあり、シアノ蝶はあきらめて帰ることにした。
「まったく、何なんだよパーぷルって。本当は自分が話したくて会いにきたくせに、僕が運命に従える人だから」
僕は誰もいないのをいいことに文句ばかり言いながら、邪魔な草をなぎ払ってどかどか歩く。確かに僕は親子関係について訊ねたけれど、それが奴の用意した〝お題〟と一致しただけだと思っていた。
大きな石を乗り越えて足を止める。弘美の興味の薄い小さくて茶色いブラウ蝶が足元を舞い踊っているからではない。
僕は運命に従える人で、それとは関係なくいつかは最終区域に行くこともわかった。では「運命に従える」の意味は――?
はっと顔を上げる僕。
パーぷルが話した、重大な未来を運命の外から押しつけられる人はそう、運命に従えないではないか。でも僕は「運命に従える人」だから、未来を運命の外から押しつけられないかもしれない。
僕は自分で未来をつかみ取れる? そうだ、そうだよ。たとえパーぷルが「全員」と言った子供が親から引き離される話には手が出せないにしても、いやそれは十分残念とはいえ、「例外」がある恋は「コンピューター」なんていう謎の機械に渡すものか。
決意、確信、みなぎる熱で落ち着かない僕は、にぎやかな箱庭に戻って最初に会った直幸から逃げ、三階の佳月の部屋に向かう途中でその佳月を見つけた。
「修輔、どこ行ってたの?」
けがの残る顔で彼女が僕に訊ねる。僕は「少し経ってから部屋に来て」とささやいてそのまますれ違った。彼女の後ろにまだ決着していない亮がおり、昨日のように彼女を独占するのは悪いと思ったからである。
「修輔さーん、私は面白いことになってきましたよ!」
彼はまだ遠い僕に向かって声を投げ、小走りに寄ってくる。
「え? どうしたの?」
「いやあ、修輔さんと争えなくなりました」
僕のすぐそばに立ち、小声になった。顔が赤い気がするのは今走ったせいではないよね。
「ほら、どんどん減ってるじゃないっすか、この箱庭の仲間が。そのせいで危機感をつのらせた女の子がいるんすよ。しかもかなりの物好きで、実はこの私なんかが愛の告白をされちゃいまして」
「告白……って、返事は?」
僕が衝撃を受けていると、亮は「人に好かれる喜びについに目覚めたってとこですよ」と佳月と同じ〝元気サイン〟をつくり、
「元々佳月さんは大美人だし、勧められたときに負ける気がしなかったから参加したけど、修輔さんや藤也さんほどは好きじゃなかったんですよ。それに気づいたのも自分が告白されたからっすけどね。すいません、対決はやめます。これで終わりです」
楽しそうに笑って頭を下げる。女の子の愛を得たことだけでなく、この瞬間を含むこれまでの経緯が楽しいようだ。
さあ、とうとう対決上は告白できるようになってしまった。すでに藤也がおらず、脱退者続出で話し合いで解決しようともくろんだ僕も、想定外すぎる終わり方にはあっけにとられるしかない。
でもこれでいいんだ。勝者の僕は佳月の問題のせいで一度断られているが、彼女はあちらでのことを打ち明け、自分に降りかかった問題を使って親子関係の謎を解きに最終区域にあえて出かけていったから、もうだいぶ克服できてきているはずである。
――ねえ、私たちって誰から生まれてきたの? 誰が産ませたの?
驚かされた彼女の台詞がよみがえる。ただ答えが僕から知らされるのは残念というか、少々申し訳なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます