0-14 討伐を終えて
新星暦二九九七年一月十日
あの苦しかったドラゴン討伐を終えて三日が経った頃、オレは日課のフレイの稽古をしていた。
「どうしたのぉぅ!? 全然動けてないよ!」
「まだドラゴン討伐の疲労が残ってるんじゃ! 少しぐらい手加減して――――」
「聞こえなーい! そんなこと言ってるぐらいなら集中する!」
「この、鬼師匠が――――!!」
刺突でフレイが猛攻。オレはその連続で襲い来る刺突を躱し続ける。
オレが木刀で横に一閃に振るう。フレイは一歩引いて、難なく躱す。だがこれでフレイの流れを完全に止めた。
フレイが手首を上に二回曲げ、挑発してくる。
オレはそれが挑発だと知りながらも、イラッと来て咄嗟に木刀を振るった。
フレイはオレの木刀を難なく受け止める。
上手い。ただ受け止めるのではなく、オレの木刀を受け止めたまま自分が動きやすいように位置を変えた。
木刀を滑らせてオレの木刀の威力を殺したのだ。いくら師匠といえど力はオレの方があるからな。やっぱりフレイはオレの師匠だな。
感心してる場合じゃない。ここからどうフレイが攻めてくる?
長年フレイと稽古してきたからわかる。ここは……。
「……!!」
右足からの重心崩し。オレの両足を蹴ってコケされる算段だ。だが、オレはそれを読んで後ろにバク転して躱した。
「へぇー。やるじゃん」
「まぁな」
「でも……私にはまだ早いかな」
「は……?」
速い……! もうオレの間合いに入っている。
フレイが木刀を振るってくる。くそ構えないと……いや、これは多分蹴りが入る。
オレはすぐに身を引いた。
やっぱり。フレイが同時に右足で蹴ってきた。
ふん。お前の攻撃は全部知ってんだよ。
オレはフレイの首元を狙い木刀を振るう。今空中でほんの僅かな反応なんてできないだろ。
と、その瞬間フレイの右足が付きそのまま回転して左足がオレの右手に当たった。
木刀が手から離れる。
「は……?」
オレは右手に当たったと同時に尻餅をついた。フレイが首元に木刀を添える。
「まだまだ甘いね。思いつきで行動しちゃダメだよ。もっと注意深く相手を見ないと」
「そうだな……。フレイの言う通りだ……!!」
「……!!」
オレは右足でフレイの両足目掛けて蹴った。当たった感触はないがそれでもいい。オレは蹴った勢いで起き上がるのが目的だから。
だがオレは起き上がれなかった。立とうとした瞬間右腕を持たれつつ背中を押されて床に激突した。
「ダメだよ、不意打ちは。不意打ちするなら不意打ちするって言えばいいのに」
「それ、不意打ちじゃねえだろ」
「あ、そっか。でもいいや。今日も私の勝ちー!」
「……くそ」
こいつ。やっぱ手加減っても知らねえだろ。
思いっきり床に擦りつけやがって。確かに不意打ちしたオレも悪いとは思うけど。
でも、魔術師の戦場では何を使っても、誰を騙してもいいって言ったの自分だよ? だから、オレは実践だと思って不意打ちしたんじゃないか!
……ま、いっか。オレの負けだし。
オレはそうボヤきながらベンチに座った。
そうそう。あのドラゴン討伐後、オレは気づけば村の一室で寝ていたんだ。そして、目覚めたあとしっかり村長さんからお金を貰った。
額を見ると、依頼料より多く入っていた。それを村長に聞くと「あんな強いドラゴンを倒したんだ。もっと出したいくらいだよ」と言ってオレに多くのお金を押し付けた。
帰りもオレは徒歩で帰り、帰宅後はフレイに依頼料を渡した。するとフレイからは「ドラゴンを倒したんでしょ? だったら君が貰うべきだよ」と言われ、そのお金をそのまま渡された。
別に買うものなんてないんだけど。そう言いつつオレは剣を買った。
と、ベンチで休憩中、横からアズバングさんが声をかけてきてくれた。
「お疲れ。今日の調子はどうだい?」
「まだ疲労が残ってて……。思ったようには動かないですよ。アズバングさんは今日、仕事は無いんですか?」
「昼から会議なんだよ。だから、それまで君とフレイの稽古を見学してるんだよ」
こんなのを見て何が楽しいんだが。別に見てもらってもいいけど。
最近はフレイとの稽古が朝だけになっている。弟子入りの時は朝から晩まで登山だの水泳だの地獄のような日々を送っていたが、今はそこまで厳しくはない。まあ、そのおかげで今ではフレイよりも力あるしな。まだ組手でボコられてるけど。
「それにしても君は強くなったね」
「そうですか? あまり実感が湧かないんですけど」
「ま、そうだろうな。相手がフレイだから仕方ないか」
そうなの?
まあ、あいつはドラゴン討伐の依頼されるほどに実力を持った魔術師だからな。
と、ここでフレイに呼び出された。
「ノア、始めるよ!」
「おう! じゃあアズバングさん、オレはここで」
「……わかった。じゃあ俺も仕事に戻るよ」
再び、フレイとの稽古が始まった。
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