魔法学園の無能者〜魔術全盛の時代、魔力を持たない追放者が世界最高峰の魔術師へと駆け昇る!〜

六月

プロローグ 魔術学園の無能者

 新星暦二九九八年四月十二日




「新入生代表、ノア・ライトマン」


 この国の貴族よりも高得点を取って首席合格したノアは、堂々と壇上に上がり、挨拶する。


「もう雪が解け終わり、心地よい暖かい風が春を感じさせる日に、この私立タレミア魔術学園高等学校に入学できたことをとても嬉しく思います。……」


 ノアは新入生代表として立派に挨拶を続けた。

 というのも、彼に向ける視線は大概が賞賛する視線だが、高位貴族や名だたる魔術師の家系の者からは嫉妬する視線である。


 それもそうだ。


 なにせこの春に外部から入学、さらに言うなら内部生よりも高得点を取って入学したノアは正しく『天才』であるのだ。


 そうこうしているうちにノアは新入生代表の挨拶をこの言葉で締めくくった。


「私たちはそれぞれが最高の魔術師になれるよう頑張ります」


 その言葉はどこか秘めたるものを持っているような、そのように聞こえた。


※※※※※


 私立タレミア魔術学園高等学校。

 ここは初等学校より魔術師としての素質を持った子供が世界各国から集められ育成し、実力至上主義かつ実践主義によって最高峰の魔術師を生み出すために設立された随一の学校だ。


 その伝統ある学校に首席で入学したこのオレ、ノア・ライトマンもまた最高峰の魔術師になるためにこの学園に入ったという訳だ。


「入学試験以来だね、ノアくん……」

「ん……? あぁ。久しぶり、アリア」


 入学式の後、机に抱え込みながら寝ていたオレはアリアの呼び声で目を覚ました。

 寝起きで頭が冴えていない。ん、目が潤んでよく見えない。


「な、なに……? なんか付いてる?」


 アリアの顔が赤くなっているのがわかった。そして、ショートヘアの髪も弄っている。


 オレはぼんやりしながら思ったことを口にした。


「んいや、お前受かってたんだなって思って」

「もう……。それ、嫌味にしか聴こえないよ」

「そうか? ま、首席で合格したからな。そう聞こえても仕方ないか。とりあえずよろしくな、アリア……!」

「……うん……」


 アリアはこくりと頷いた。可愛い。

 と言うのも、元々銀色の髪をした誰もが一目置いてしまう美少女なのに唇の横に赤いジャムがついているせいで余計に可愛く見えてしまう。もしかして天然なのか?


 紳士なオレは自分の顔を使ってジャムがついているところを指す。

 アリアは最初首を傾げる。そして、オレが指さした方に指が触れる。

 すると顔が赤くなり、ついていたジャムを絡めとって舐めた。


「わかってたなら言ってよ」

「……可愛い」


 あ。つい本音が……。


 オレの言葉にアリアはさらに沸騰し、小さな声で呟いた。


「……いじわる……」


 アリアさん。「いじわる」の言葉使っちゃ駄目。

 萌えてしまうだろうがァァァッ!!


 ごほん。すこし取り乱してしまった。


 ここで、一人の学生がここの教室に足を運んでいた。

 アリアの無垢な笑顔に見惚れているオレ。


 その懐にオレの机が音を立てた。


「あんた、首席のノア・ライトマンね」


 その学生はアリアと同じく美少女。

 金髪の長く綺麗な髪を靡かせ、柔らかそうな唇と透き通る瞳がわかった。オレの目を奪った。

 そんな彼女がオレになんの用だろうか。

 というか、初対面の男に呼び捨てってどうなの?


「あの、誰ですか?」


 とりあえず名前を聞かないと。

 すると、その美少女は一度唇を噛み締めてから堂々とこう言った。


「覚えておきなさい! あたしはリーナ・ラカゼット……! この学園を二位で合格した優等生よ……!」

「うん、わかった。とにかくオレになんの用?」

「あんた、一位だからって調子に乗って……!」


 オレが首席になったから文句言いに来たのか? とりあえず聞いてみよう。

 リーナはため息をついて、こう叫んだ。


「あなたに言いたいことがあるの!! とにかく放課後、屋上に来て!」


 そう言ってリーナはクールに振り向き教室を出た。

 え、どゆこと?

 ただ周りが騒々しくなっただけなんだけど。


「あの娘知ってるの? ノアくんのこと、呼び捨てにしてたけど」

「いや、初対面だけど」

「うん、そうだよね……」

「おーいお前ら、席に座れ。ホームルーム始めるぞ」


 ま、とりあえずホームルーム終わったら行ってみますか。

 そう割り切りながらもどこか嫌な予感が脳裏に過ぎった。


 ――――放課後


 オレは言われたとおり屋上に来た。

 殺風景とした何も無いところにもう一人、リーナ・ラカゼットがもうそこにいた。

 このシチュエーションは……。


「待ってたよ」

「言いたいことってなんだよ」

「えっと、その……」


 まさか、入学式早々に……。


「本当に言いづらいんだけど……」


 オレの心臓の鼓動がだんだん早くなっていく。

 顔を赤くしながらこんな人のいない所ですること。


 待て待て。落ち着け。

 オレがこんなんじゃ話せないじゃないか……!


 オレは頬を叩く。


「え……」

「気にしないでくれ。今、準備できたから」

「……わかった」


 オレは真剣にリーナさんを見た。


「実は入学式からあなたのこと、気になってたの……」


 オレはもう準備できている。だから、さあ……。


「だから、言うね……!」


 さあ、来い!!


 その数秒、ここだけ時間が止まったような気がした。この時間が永遠に続くような、それだけ長いことその言葉を待っていた気がした。

 リーナさんの唇が動き始める。

 その瞬間、収まっていた心臓の鼓動が一気に急上昇していった。

 そして、彼女は言った。


「どうして、あなたみたいな魔力も持っていないような無能力者がこの学園を、しかも首席で、入学できたの?」


「は……?」


 ※※※※※


 私立タレミア魔術学園。


 この学校は代々、多くの世界最高峰の魔術師を輩出してきた名誉ある学園である。

 だが今年、とある生徒が魔力を持たず、何故か入学できた者がいた。



 ノア・ライトマン。彼は間違いなく「魔術学園の無能者」である。

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