磯野 死亡

目が醒めたのは、喉の渇きからだった。


リュックサックの中から、ペットボトルを取り出す。が、空になっていた。


寝袋を外し、テントから出る。浄水器を持って、川の水を濾して飲むことにした。


腕時計を見つめる。時刻は夜中の三時を回っていた。


かなり肌寒く、足を速める。早く帰って寝よう。


月の光を頼りにして川までたどり着いた。


浄水器に水を入れる。


このまま水を濾して、テントで飲もう。


浄水器のポンプに手をかける。


その時だった。


「いぎゃあぁあああああ」


僕の耳を、何者かの悲鳴が裂いた。


冬子……いや、米川さんだ。


「な、なんだ?」


慌てて声を張り上げてしまった。東の山小屋の方からだ。


何があったんだ?


熊か?


気づけば、東の山小屋の方へ足を速めていた。


「よ、米川さーん?」


しかし、返事は帰ってこない。


代わりに、何か鈍い音が聞こえてしまった。


息を荒くして走る。


「米川さーん!無事なら返事をしてくださーい!」


喉が潰れるような勢いで叫んだ。


「米川……」


その刹那だった。


「パァン」


僕の目を、白銀の光が直撃した。その瞬間、


「ぐぇっ」


腹に、ナイフで剔られるような痛みが襲う。


「うぅっ……」


膝を折り、その場に倒れ込んだ。


「あふっ」


喉を、生温かい液体が逆流する。


口の中から、鮮血あかに染まる液体が溢れ出た。


なんだ…………?これは?


血だ、血だ……血だ!


「うわぁああぁあぁあぁ」


踵を返し、僕は死ぬ気で走り出した。


殺される……殺される……死ぬ!


まだ、死にたくない!


だが、その時だった。


「パァン」


再び、弾いたような銃声が響く。


今度はどこを撃たれた?


僕は恐る恐る右肩を見る。


剔れているのだ。


右肩の肉が深々と避けられており、何やら白い塊のような物が顔を見せている。


そして、裂けた肉の内部から赤黒い、生温かい液体が、じゅわっと溢れ出ている。


「ぁあああぁぁあぁあああああああああ」


肩を撃たれた、僕はいま、何者かに狙撃されているんだ!


「ひぃいぃ」


その時だ。・


何やら、足音が迫る。


「え?」


月光に照らされる、その人間を見た。


巨体だった。僕の一回りも、二回りも大きい。


冗談じゃ無い!


こんな殺人鬼に、僕は殺されなきゃいけない!


なんで!?


僕が何をしたって云うんだよ!


「たすけてくれぇええっ」


その時、


「バキッ」


骨が砕けた音がする。


「う゛ぁあああ」


何が起きた?僕は、激痛の根源である右足を恐る恐る見た。


切断された脚の断面から、分裂した右足の骨の


足が無い。膝から先の足が、すっかり消えている。足を切られた!


「ひぃいぃい、あぁっぁああぁあぁ」


僕は這いつくばって男から逃げようとする。


「いやだっ、やだぁぁあぁあああ」


僕は、最期を予感した。


何で?何で僕は殺されなくちゃ……。


いや、まさか。


まさか、春香?


いや、そんなわけ無い。そんなわけ……。


「はは……はははは…………」


そして、僕は死の深淵へと落ちていった。

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