リリスとセルシア〜勇者に復讐を誓う少女と魔王に復讐を誓う少女〜
@Ta-1
第1話「運命の夜」
夜の闇が地を覆い、冷たい風が吹き抜ける中、血の臭いと焦げた木々の香りが辺りに漂っていた。そこは魔族の領地「ネザルノク」の深淵、魔王アガレスが統治する城の前。巨大な影が佇み、威圧的な雰囲気でその場を支配していた。
「……父上……」
魔王アガレスの肩にしがみつく幼い少女、リリス。彼女の目には恐怖と尊敬の混ざった感情が揺れている。彼女にとって、父であるアガレスは絶対的な存在であり、何も恐れることなどないと思っていた。
しかし今、城門の前には聖なる光を帯びた人間たちが集結し、彼らのリーダーである勇者が立ちはだかっていた。勇者カインは、聖剣を手に魔王の城に攻め込んで来たのだ。
「魔王アガレス! この世に災いをもたらす存在よ。ここで終わりにする!」
勇者カインの声が響き、彼に率いられた人間の軍勢が、次々と魔族の兵士たちと交戦を始めた。聖剣の光が夜を切り裂き、闇の城を照らし出している。
アガレスは重々しい声でリリスに告げた。「リリスよ、見ていろ。これが我が力だ。これが魔族の王たる我が使命だ」
リリスは頷き、父の強さに誇りを抱きながらその後ろ姿を見守った。アガレスはその巨大な体と強力な魔力で人間たちを次々に圧倒し、勇者カインに向かって進み出た。
激しい戦闘が始まった。カインは聖剣を振るい、アガレスの魔力の盾を打ち破ろうとする。アガレスもまた剣を抜き、闇の波動と聖なる光が激突する。夜空を裂くかのような閃光と轟音が響き渡り、城の回廊まで振動が伝わった。
リリスは息を飲み、その光景に目を見開いた。父は強い。必ず勝つ。そう信じていた。しかし、戦況は次第に変わり始める。
戦いが続くにつれ、アガレスの体には次第に傷が増え、疲労がにじんでいた。勇者カインは聖剣を振るい、その一撃一撃が魔王を削っていく。ついに、アガレスは膝をつき、地面に手をついた。
「父上……!」
リリスの声は、震えていた。魔王が倒れることなど、彼女の世界には存在しないはずだった。だが、現実は容赦なく、彼女の目の前で起こっていた。
カインはアガレスの前に立ち、聖剣を振り上げた。その目は冷徹で、そして使命感に燃えていた。その視線がリリスに向けられると、彼の顔に一瞬、ためらいが浮かんだ。
「……お前も生かしてはおけない」
そう呟きながら、彼は剣をリリスに向ける。リリスは動けなかった。恐怖で体がすくみ、何もできなかった。
その時――
「リリスよ、逃げろ……」
父の声が耳元で響く。アガレスは最後の力を振り絞り、リリスを守るための結界を張った。その瞬間、リリスの体は柔らかな光に包まれ、動くことができなくなった。
「父上……やめて……!」
リリスの叫び声もむなしく、結界の外で勇者の剣が振り下ろされ、アガレスの命が絶たれる瞬間が訪れた。リリスの心の中に、深く暗い感情が渦巻き始める。恐怖が消え、代わりに湧き上がってきたのは、冷たい怒りと憎悪。
「忘れない……絶対に、忘れない……!」
彼女の心に刻まれたその言葉は、闇の中で燻る復讐の火種となり、結界の中でただ見つめるしかなかったリリスの心を蝕み続けた。
◇
一方、遠く離れた村
同じ夜、人間界の静かな村もまた運命に揺れていた。セルシアという少女が眠る家に、魔族の一団が侵入してきたのだ。
「セルシア、逃げるんだ!」
父親が叫び、母親のセリアが彼女の手を握りしめる。両親は必死にセルシアを守り、魔族と戦おうとするが、圧倒的な力の差に為す術もなく倒れていく。
「お母さん、嫌だ……行かないで……!」
泣き叫ぶセルシアを見つめながら、母親のセリアは微笑んだ。その姿は、どこか神々しいものだった。セリアは精霊と契約していた聖職者であり、彼女の最後の力でセルシアに守りの結界を施した。
「セルシア……私は精霊となって、あなたを守り続けるわ。だから強く生きて」
その言葉と共に、セリアは命を落とし、その魂は精霊へと姿を変えた。セルシアは両親を失い、涙に濡れたまま、その場に崩れ落ちた。
この夜が、彼女の人生を変える運命の瞬間となった。
エピローグ
夜が明け、リリスとセルシア、二人の少女がそれぞれの道を歩み始める。リリスは父の仇である勇者に復讐することを誓い、暗黒の森「死者の森」へと足を運び、その力を得るための修行を開始する。一方、セルシアもまた、母の精霊に守られながら勇者としての道を歩む決意を固めた。
二人の少女がそれぞれの憎しみと悲しみを胸に抱き、異なる場所で歩み始めた。運命が彼女たちを引き寄せ、再び交わるその時まで、それぞれの道を進み続けるのだった。
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