第06話 転生陰陽師は秘祭を行う
狩衣姿の老人を祖母は御当主と呼んだ。
つまり俺の血縁者と言う訳か……
神殿前の開けた場所には縄を張り巡らされており、中央には火が焚かれている。
そしてその奥には鏡や酒、昆布などのさまざまな供物が乗せられている。
「――始めるぞ!」
当主の言葉に合わせ太鼓が打たれ、狩衣をまとった複数の男性が聞き取れない経のようなものを唱え始める。
その中心にいるのは御当主と呼ばれた老人だ。
手には御幣が握られ、都状に書かれた祝詞が読まれる。
「
これが現代の呪術……もしや失伝した神事を他の呪術体系で補完しているのだろうか? 情報が少なすぎて判断できない。
だが何かを失念しているような……陰陽道、仏教系、修験道系、その全てに共通するナニカ……道教? 違う………
当主は
「祖神
ボウ。
篝火の炎が大きく揺らめいた。
今度は腹ではなく、頭と心臓が激しく痛んだ。
氏神や祖神に末裔の誕生を報告するにしては、まだ早すぎる。この時代のことはわからないが前世では一定の年齢になるまでは行事は行わなかった。
―― 妙だ。
「――が故に如何なる
ボソボソと祝詞が続き、シャンと鈴の音が鳴る。
痛みは荒波のように押し寄せる。
「次代の吉田に祝福あれ、これより試練を超えられし稚児にどうか
パンパンと柏手が打たれ、雅楽器の演奏が始まり、年若い女性が音楽に合わせ神楽を舞い神々に奉納する。
汗が止まらない。
動悸(どうき)が激しく、視点が定まらない。
死ぬ……死んでしまう……早く祈祷を……
「神仏の加護が直毘人とともに在らんことを……」
金色の紙に鈴が付いたものを揺り鳴らされる。
「これにて儀式は終わりだ。あとはその子が試練を乗り越えられるかだな……」
「乗り越えられねば死ぬだけです」
あ、これ邪法だわ……この意地の悪さと武家の術
……
「救急隊員がお待ちです」
「急ぎましょう……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
救急車に運ばれ診察の後、病室に運ばれた。
現在は点滴を打たれている。
「さき程のあれはいったい……」
「吉田家に伝わる秘祭よ。
精霊と呼ばれる下級の霊魂を取り込んだ時に行うの……ここ百年は行われていないものだったから、最後に受けたのは先代か先々代当主様以来よ」
「なんだかハリ○ポッターみたいな話ですね」
「和製だけどね……あなたの家は吉田家先代当主の婚外子の子どもなのだから分家でもないわ」
「そうだったんですね」
「だからこうやって一定の面倒を見ているのよ」
「母ともにありがとうございます」
「感謝されることはないわ。最初に言った通り親族にかける情だもの……」
「儀式とは言えどやりすぎだったのではないでしょうか?」
「多くの神話では冥府や黄泉の国、つまり異界から帰って来た神や英雄は不思議な力を持つの、イザナギとかオルペウスとか知らない?」
「まあ何となくは……」
「……少年誌の主人公が戦闘中に覚醒して強くなるのと似たようなものよ」
「それなら分かります」
「七歳までの神の子である内に死と霊脈の噴き出し口である源泉の霊気に晒すことが比較的安全に行うのがあの祭事よ。今回は意図しないものだったけどね」
「意図して行っていたら問題ですよ」
「それもそうね。今日はもう上がっていいわよ」
「でも……いいから帰りなさい」
「分りました……お疲れさまでした。早く直毘人くんが良くなるといいですね」
「ありがとう……」
ようやく目が覚めた。
横たわった寝台の上で俺は考える。
間違いない、じかに見たことは数えるほどしかないが、あれは陰陽道が台頭する前に存在した
しかし
呪殺を得意とする面が大きかったことは事実だが、呪禁は病気治療や安産のために陰陽寮とは別の典薬寮に所属し、重要視されていた。
しかし上記の
何度も帝が
前世陰陽師であった俺がまさか
俺は漠然とした不安感を胸に眠りについた。
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