第18話 英雄の再誕⑱
「まあ、ちょっとだけちょっとだけだから」
貝介の妨害をすり抜けて、平賀アトミックギャル美は記録端末に手を伸ばす。すんでの所で、貝介はその手首をつかんだ。だが
「発明家の娘、平賀アトミックギャル美を舐めんなよ!」
平賀アトミックギャル美が叫ぶ。鮮やかな紫色の爪先から、接続探肢が飛び出した。探肢は滑らかに宙を蠢き、自らを記録端末に接続した。
貝介は驚きに目を見開いた。
「自立式の探肢だと!」
「いいでしょ作ったの」
平賀アトミックギャル美はにやりと唇を吊り上げた。
「いいなそれ、俺にもつけれるか?」
「まだ試作機だけど、使ってみて感想もらえるなら安くしとくよ」
「ちょっと待てよ」
商魂たくましくも売り込みを始める平賀アトミックギャル美に貝介は食って掛かった。
「なに? 貝介クンも使ってみたい? いいよ、うち論理回路手術もできるから、いいっていいて安くしとくからさ」
「誰が頼むか! 違う。捜査資料を勝手に……」
「おお、懐かしい第四世代じゃん」
「あ?」
平賀アトミックギャル美の口から飛び出した、全く聞きなれない言葉に貝介は怪訝な顔をした。
「何か知ってるのか?」
「え、あ、あー」
貝介の顔を見て、平賀アトミックギャル美は露骨に目を逸らした。助けを求めるように馬鈴の方に視線を送る。貝介は厳しい顔で二人の顔を見比べた。
「何を知っている? 第四世代と言ったか?」
「俺は何も知らないぜ」
馬鈴もまた目をそらす。
「では致し方ない」
貝介は馬鈴と平賀アトミックギャル美の接続探肢を自分の記録端末から抜き取ると、すくと立ち上がった。
「どうするつもりだい?」
電子の片眉を上げさせながら馬鈴が尋ねた。
「鳥沼殿に相談する。発明家の娘平賀アトミックギャル美と、馬鈴堂の店主がなにやら調査対象の物理草紙について何か知っているようだとな」
「だから、俺は何も知らないぜ」
「であろうな。そうであっても、この店に調査は入ることになるだろうな。何が出てくるのかはわからんが。何かは出てくるであろう」
じっと馬鈴の鏡面眼鏡を睨みつける。
正直なところ、半分以上ははったりであった。貝介の進言で鳥沼が動くとは限らない。それに、鳥沼が動きこの店を調べたところで、本当に何か不味いものが隠されているのかどうかはわからない。
「わーったよ」
「平賀アトミックギャル美さん。うちの店は」
「いいんだよ、馬鈴っち。うちが話すから」
平賀アトミックギャル美は肩をすくめ、椅子を引き寄せて腰を下ろしながら言った。
「なんの話だ?」
「馬鈴っち、うちと貝介クンに『やわらか矛盾あられ』ひとつずつ」
「え、ええ」
貝介の問いかけには答えず、平賀アトミックギャル美は品書きも見ずに馬鈴に注文をした。馬鈴は躊躇いながらも頷き、厨房の方へと姿を消した。
その背中を見送ってから、平賀アトミックギャル美は貝介に向き直った。
「貝介クン、これは本当に馬鈴っちとかこのお店には関係のないことだからね」
「まずは話してみろよ。あとは俺たちが判断するから」
平賀アトミックギャル美はため息を一つついてから、口を開いた。
「じゃあ、まずなんだけど、発狂頭巾って何か知ってる?」
【つづく】
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