第八章 悪役令息の学園生活

49. 言いにくい理由は甘酸っぱい理由だとは限らない

「おはようございます、クラウト様!」

「あ、ああ……おはよう」


 拝啓、田舎で暮らす父上母上(蟄居ちっきょ中)。悪役令息が、ゲームの主人公にめちゃくちゃ懐かれてしまいました。


          ◇


 入学式の翌日。今日からはクラスが分かれて、本格的に学園生活がスタートする。

 俺はすでに制服に着替え、プリメリアと朝食をとっていた。


「今日から授業が始まるのですか?」

「うーん、どうかな。初日だし、自己紹介とか校舎の案内とかになるんじゃないかな」

「あ、確かにそうですね」


 プリメリアは一歳下なのでまだ学園に通うわけではないのだが、なぜか楽しそうだ。来年からの学園生活を想像しているのかもしれない。


「お義兄さまはすでに新しいお友達ができておられましたね」

「いや、それはどうだろう……」

「?」


 彼女が言っているのはヴァイスのことだろう。良い奴ではあるのだが、できれば必要以上に関わりたくない。

 ゲームの主人公と悪役令息という、本来は相容れぬ存在だ。気付いた時には中ボス戦突入なんてこともあり得る。


 そもそもゲームではクラスが違ったのに、何で今回はクラスまで一緒なんだよ!

 ……はい、俺のせいですね。ゲームのクラウトは最低クラスだったからな。かねきんは買えないのだ。


 ところで、プリメリアからヴァイスの話題が出たので一応……そう、一応確認しておかねば。


「プリメリア」

「はい、何でしょう」

「その……ヴァイスのこと、どう思った?」

「はい?」


 ヴァイスとプリメリアは恋愛ゲームの主人公とヒロイン。一目会った瞬間からロマンスが始まってもおかしくはない。

 昨日だって初対面なのに話が弾んでいたしな。なぜか俺の話ばかりだったけど。


 もしプリメリアがヴァイスを選ぶのなら……選ぶのなら……想像しただけで生きる気力がなくなってきたな。


「あーその、別に深い意味はなくって。ただ純粋に思ったままのことを聞きたいというか」

「純粋に……」


 そう言ってプリメリアは俯いてしまった。まるで言いにくいことがあるかのように。

 こ、この反応はまさか……!


「良いんだプリメリア。ハッキリ言って欲しい。どんなことでも受け止めるから」

「お義兄さま……」


 それが最推しプリメリアの幸せのためだというのなら、俺は血の涙でも飲んでみせよう。さぁ、ひと思いに斬ってくれ!


「その…………犬っぽいなって」

「うん?」


 犬っぽい? 犬? え、プリメリアは犬に恋してしまったのか!? それは上級者すぎる!

 …………いや、落ち着け俺。


「お義兄さまのお話をされる時のヴァイスさんって、まるで尻尾を振っている犬みたいというか……失礼なことなので、申し上げにくかったのですが」

「あー……」


 それ、俺も昨日思ったわ。だってマジで犬っぽいんだもん。って、そうじゃなくって!


「えっと、もっとこう格好良いなとか、素敵だなとか、そういうのはなかったのかな?」


 恋愛ゲームの主人公の第一印象が、犬。別に悪い印象ではないと思うけど、もうちょっと異性としてどう思ったか聞きたいのよね。


「見目麗しい方だとは思いました。性格も好ましかったですし。ただ……」

「ただ?」

「私にとっては、どれだけ格好良い方も素敵な方もお義兄さまには敵いませんから」

「ガハッ!」

「お義兄さま!?」


 こうかは ばつぐんだ! いちげき ひっさつ!


 俺は幸せな吐血をしながら、テーブルに突っ伏した。もうヴァイスのこととかどうでもいいや。


          ◇


 それから馬車に乗ってプリメリアの言葉を思い出してニヤニヤしているうちに学園についたのだが、早々に門の前でヴァイスと遭遇したのだ。


 うん、やっぱ犬っぽいわ。毛並みが綺麗な細身の犬。豪邸で飼われてそう。

 そんな失礼な感想を浮かべていると、また別の方向から綺麗な声がかかった。


「あら、お二人ともごきげんよう。こんな所でどうされましたの?」


 リーリエだ。今日も朝からロイヤルオーラ全開である。前世の俺だったら、会話どころか視界に入ることすら許されんわ。


「おはようございます、殿下。ちょうどヴァイスと出会ったので挨拶をしていたところです」

「お、おはようございます! 挨拶してました!」


 ヴァイスくんガッチガチやな、落ち着け。いや、気持ちはすっごいわかるけど。俺もクラウトじゃなかったら同じようになってたと思うけど。


 ていうか、昨日は普通に話せてたじゃん。あぁ、でも最初は王女だと知らなかったんだっけ。

 一晩経って彼女が王女だという事実に脳が追い付いてきたんだろうか。時差ありすぎだろ。


 そういえばゲームでも最初はガチガチだったっけ。確か「とあるイベント」が発生して、そこから少しずつ仲良くなったはず。

 プリメリアには聞いたけど、リーリエは彼をどう思ってるんだろう。まさか、犬とは言うまいな。


「このままここにいては遅刻してしまいますね。教室へ参りましょうか」

「そうですね」

「は、はい」


 供を二人引き連れ颯爽さっそうと歩く王女様の図。まるでご老公だ。俺が助さん、ヴァイスが格さんだろうか。キャラ的には八兵衛と飛猿のような気がしなくもない。

 案内図に従って教室までたどり着く。扉を開くと、すでに十人以上の生徒がいた。


「ごきげんよう皆様。本日より、よろしくお願い申し上げますわ」


 カバンで片手がふさがっているので、片手で軽くスカートを摘まんで挨拶する第二王女。

 そのロイヤルオーラに呑まれて、生徒たちが固まった。わかるぞ、その気持ち。


 このままでは可哀そうなので、凡人代表たる俺の挨拶で再起動させてあげよう。


「おはよう皆。今日からともに学ぶ仲間として仲良くしてくれたら嬉しい」


 俺がそう言ってスマイルゼロ円をかましたら、後ずさりされた。何でや!

 内心唖然としていると、後ろにいたヴァイスがおずおずと口を開いた。


「あの……二人とも美形だしオーラがすごいので、皆ビビってますよ」

「そんなことはないだろう」

「そんなことはありませんわ」

「えぇ……」

 

 ヴァイスの言葉に、図らずもリーリエと声を揃えて否定してしまった。いやリーリエはともかく、俺にオーラなんてないだろ。あと美形はお前だ、主人公。


「クラウト様はともかく、私にオーラなどございませんわ」


 なーにを言っとるんだ、このロイヤルめ。君のオーラはハンパないぞ。「頭が高い」とか言われたらひれ伏しそう。


「私にオーラなどありません。どう考えても、オーラがすごいのは殿下の方です」

「そんな謙遜けんそんされなくとも」

「いや謙遜とかじゃなくて」

「いえいえ」

「いやいや」

「あの、二人とも……何してるんですか?」


 俺らにもわからん。

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