13日目1 アーバン・ディフェンス

サバイバル生活13日目 08:15




 さあ、本日もあまりにも充実した朝食を終えた俺は、思わず白米を3杯もかき込んでしまった満腹感に打ちのめされてソファに身を沈めている。


 …だって、表面を炙った鰹のたたきを自家製ポン酢とショウガと焼き葱と共に口に放り込むとそれだけでまず白飯が1杯、ごぼうと人参と里芋で具だくさんの赤出汁のみそ汁に口を付けるとこれでも1杯、さらには乃愛のあ大得意の出汁巻き玉子に本日も1杯の白飯を強要されてしまう。


 ここにゴマ豆腐のわさび醤油添えやら、自家製ちりめん山椒じゃこやらの小鉢類が俺を包囲して来たうえに、さらには本来それだけで何杯でも飯が進むの漬物コレクションの数々…むしろ白米3杯だけで切り抜けた自分を褒めてやりたい心境なのである。

 

 これは太らないように午前中からエアロバイクを漕がなくてはなるまい…そしていい感じに腹がこなれたころには、乃愛のあの作る昼食の良い香りが台所から漂ってきて…(無限ループ)




 さあ(仕切り直し)


 俺が操縦するタレットドローンの『直接照準ダイレクトサイト』には熊野市の市街地が映り込んで来た。



 …ふ~む。


 なかなかどうして、見事な都市防衛アーバン・ディフェンスの様子ではないだろうか。

 こうして空から俯瞰してみると、彼らの防衛ライン構築はとても意図が分かりやすく効率的である。


 ということで、以下では熊野市に対する土地勘がない読者を置き去りにしながら防衛ラインの詳細を見ていくことにしよう(ゴリ押し地域ファシズム)



 まず市庁舎を中心とする生存者コミュニティの東側は、熊野灘に面した海岸線をそのまま境界線としていて、これはまあ今のところ海を泳ぐ怪物モンスターが出現していない以上は当然であろう。


 …いや、将来的にそういう怪物モンスターが現れるフラグを立てたわけじゃないぞ。


 ともかく、この方面は自然の防壁に任せた安全領域扱いのようで、民間人の居住もこちらの方面のマンションや民家に多く詰め込まれている他、大鍋による炊き出しやら日常の風景も見られる。



 次は反対の西側だが、これは市内を流れる高城川を防衛ラインに据え、橋梁を重点的に封鎖することで怪物モンスターの侵入を効果的に防いでいるようだ。


 対する北側はちょうど良い河川がないためか、商店街を囲む記念通りの車道をタレット車両の機動防御で維持しているらしいが…これは見たところまだ前進の意思を持った状態なので、いずれはほとんどの市街地を内に置く西郷川のラインまで進出を目指しているに違いない。


 つまり、彼らは河川を防御ラインとすることで、限られた橋梁封鎖による安全圏構築を基本方針としているのだろう。

 これは防衛戦力の限られる生存者コミュニティにとって、妥当極まる防衛ライン構築であると評価できる。



 …そうなると、南側はもちろん市内ど真ん中を流れる一級河川である井戸川を防御ラインとしたかったのだろうが…いや、つい実際に先日まではそうしていたのだが…

 しかし、彼らは先日の御浜町避難作戦の直後に井戸川以南に進出していて、現在は川を越えた県道34号線(七色峡線)沿いにバリケードを構築しているのが見える。


 効率的な防御ラインの構築にこだわっていた彼らが、あえて井戸川の防御力を捨ててまで行ったこの進出の意図は…ズバリ、市内南部に建つ協立総合医院の奪還にあると考えられる。


 ここは医師会災害対策計画の指定病院であり、すなわち待望の自家発電設備付きで各種医療機器や手術室を稼働可能という、まさしく現在の生存者コミュニティにとって第二の心臓部ともいうべき重要拠点となっているのである。

 事実すでに重傷者の手術や既往患者の処置も始まっていて、こりゃ医薬品の補充はますます急務となっているに違いあるまい。



 …と、言うわけで救援物資の到着である。



 俺が派遣した2機のタイプBタレットドローンが高度を下げると、協立総合医院の玄関から複数の医者やら看護師やらの医療従事者たちが血相を変えて飛び出してくるのが見える。


 これが怖いんだよね…(小声)



 なお、トランク二つで計10kgの支援医薬品の内訳は、定番の各種抗生薬剤や鎮痛薬フェンタニル対ショック薬剤アドレナリンなどに加えて…今回は協立医院の冷蔵設備が稼働していることに期待してインスリンや降圧剤アムロジピン、透析用濃縮液(いわゆるA液)と粉末B剤などの慢性疾患対応薬剤も同梱してみたぞ。


 これらの薬剤には一部の医師と看護師が狂喜しながら飛びついていて…これまた怖いんだよなぁ(小声)


 まあ、値の張る薬剤に関してはこうして支援しているので、透析に要する大量の逆浸透RO水などは自弁での水購入と病院設備での精製で何とかしてもらいたい。

 たぶん、本当に重度な透析患者は数が少ないだろうから何とかなるだろう。


 …なにしろ、それらの患者は災害発生からの十日あまりでおそらくは…



「嬉しそうだね! よかった〜!」



 タレットドローンの視界を共有している乃愛のあから明るい声が発せられて、俺は暗い想像から現実に引き戻される。


 …俺は俺に出来ることを、しても構わない範囲でやる。

 それだけのことだな。



 さて、次なる『しても構わないこと』といえば、この救援コンテナを切り離したあとのタレットドローン2機に注がれる期待の眼差しである。


 すぐに協立医院前には一台のパトカーともう一台の4ドアSUVが乗り付けられて…なんだ、パトカーはもう品切れらしい。

 タレット車両化するパトカーはこれでまだ三台目なんだが、どうも災害発生の初期にパトカーは多くが失われたのかもしれんな。



 …まあいいか。

 タレット車としてはむしろ車高の高いSUVの方が適正でもあるし、タレットドローン2機、すなわち『タレット』4レベル相当の火器支援はぶっちゃけ毎日の怪物モンスター処理によるレベルアップで追いつく範囲なので、これも『しても構わない』範囲なのである。


 再浮上したタレットドローンが2機ともそれらの車両のルーフに取り付くと、わっ!と歓声が上がって人々の歓喜の渦が生まれていた。



 さあ、他の『しても構わない』ことも巻きでいこう。

 どうせこの生存者コミュニティが防衛ラインを西郷川まで押し上げたあとは、西郷川と高城川の間の地帯…すなわち、市北東部の寺社地帯とその裏山が戦闘正面になるに違いないのだ。


 それが分かっている以上はもう時短である。

 防衛ラインの拡張を待たずに今からタレットウォーカーたちを進発させていこう。



 なにしろ、俺たちの拠点に向けて日々襲来する怪物モンスターどもの質も戦士鬼ホブゴブリン豚鬼オークの割合が高まってきたせいか、それを自動射撃オートモードで薙ぎ倒す『タレット』もレベルアップの速度が鈍るどころか、むしろ上昇している様相なのである。


 …今回説明しようと思ってた新派生スキルについても、話が行き着かなかったしな。



 おかしい…地下シェルターに籠もりながらプレッパーとギャルがイチャイチャしているだけの単調な小説だというのに、どうしてこんなにも描くべき要素が渋滞しているのだろうか…(謎)





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甍部誠一いらかべせいいち

討伐Lv81

討伐ポイント 38827pt

《コモンスキル》

棒術17

┗硬質化

射撃21

┗再装填

┗強装弾 《NEW》

操縦19

┗自動操縦

《レアスキル》

修理9

DIY11

《ユニークスキル》

タレット53

自動オートモード

┗タイプBタレット

┗タイプCタレット 《NEW》

直接照準ダイレクトサイト

┗タレットドローン

┗タレットウォーカー

┗タレットAPC 《NEW》

掲示板59

┗分析AI

┗ライブストリーム

┗スキル連動

─────────────────────



 …あと、昨晩は穂積夫妻が星来ちゃんを寝かしつけたあとに、久しぶりに夫婦の仲良し時間を始めた様子が切り忘れのマイクから聴こえてきて…この話もまた今度でいいか。




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