12日目1 当たり前

サバイバル生活12日目 06:25




 …ゆっくりと覚醒しつつある意識の中で、微かに鼻をくすぐる赤だしの香りが食欲を刺激してくる。


 白味噌を合わせて若干マイルドな味わいにしつつも、あくまでも赤味噌優勢でかぐわしき郷土の香りである。



 うっすらと目を開けると、台所では鼻歌交じりにホットパンツの尻が左右に揺れていて、何度でも感動する最高の目覚めの時の一つが今日も目の前にある。


 十分に休んだ身体には活力が満ちていながらも、昨晩のワインにつられてハッスルした大熱戦の疲労がわずかに残滓として感じられた。



 …昨日は御浜町救出作戦を無事成功まで見守ったことだし、今日は少しギアを緩めてのんびりとした一日にしようかな。



 だからもう一度、目を閉じてしまおう。


 …身体の一部は昨晩の大熱戦の疲労などどこ吹く風といった力強さで俺より先に目覚めているが、お前の主人は休息を求めているのだ。



 …


 ……


 ………ムギュ、ふごっ。



「こら〜、 二度寝するな〜! ご飯だよ ♪」



 急に鼻をつままれて呼吸を阻害された俺が目を開くと、眼前には身をかがめてイタズラっぽい笑顔で覗き込む最高のモーニングギャルと…その胸元ではピンクのエプロンで支えきれないギャルの大容量双丘がたわわに揺れている。


 乃愛のあがエプロンの下に着ているのは部屋着として常用している俺のTシャツで、その広い丸首からは丘陵と丘陵の間の深い谷筋が縦に長く伸びて…これまた実に風光明媚なインバウンド需要を創出しているのだ。



 …自分のシャツをオーバーサイズで着るギャルの胸元から覗くたわわを間近に見ながら目覚める朝、最高かこれは?


 こんなのオーバーツーリズム不可避ですよ…たわわ、たわわ、たわわ〜


 思わず平和を希求するメロディが脳裏を巡った俺はいよいよ意識が覚醒してきたので、眼前の観光スポットに手を差し入れて起きる意思があることを行動で伝達する。



「あっ、バカ、ご飯だってば…! エロ誠一せーいち…もう!」



 俺は右乃愛大丘陵と左乃愛大丘陵を交互に掌に載せ、それぞれ1kgにも及ぶ重量とスベスベした肌触りをじっくり確かめた後に…十分に堪能した渓谷観光を切り上げて身を起こすのだった。



 …身を起こそうとするのだったが、とっくに起きている我が半身が先にノーブラポリスに発見され検挙を受けてしまうのだった。


「あ〜、こらぁ〜! なんだなんだこれはぁ〜! すごくしちゃダメって言ってるのに昨日きのーもあんなにすごくしてぇ〜! このこのっ…わっ、すごっ!」


 あっ、いけません乃愛のあさん。

 そのように乱暴に拘束されては…これは不当な警察権の行使ですよ…!

 

 我が半身にも自然のままに振る舞う権利が…あっ! もうじかの拘束じゃないですか!? 弁護士を呼んでください! 不当な拘束には断固反対…はしませんが!


 でもこんな違法な取り調べで吐かせてもそんなの証拠採用されませんからね…! んああ! こんな強引なチン述調書には絶対にサインしな…


 …


 ……


 ………さあ、朝食が冷める前に食べようか(サイン完了)











 さて、今日も大変に美味な朝食とそれ以外の満足要素サティスファクションにも満足サティスファイドした俺は、ソファーに身を沈めて一息ついている。


 …乃愛のあは俺のせいで早起きできずに朝食が手抜きになってしまったなどと非難してきたが…いやぁ、なにが手抜きなのやら。


 山盛りの白米に、赤白合わせ味噌で東海ソウルに満ち溢れた味噌汁に焼き茄子と茗荷みょうがが浮かぶだけでも十分に豪勢なところ、鮭の焼き物に加えて乃愛のあ大得意の出汁巻き玉子、そして控えめな存在感で配された小松菜と油揚げの煮浸しも…本来これがメインでも全くおかしくない充実の旨味。


 さらには日々ラインナップが増える漬物バラエティ盛りには、辣韮らっきょうの甘酢漬けがシャキシャキと爽やかに新登場である。


 当然、山盛り白米をおかわりせざるを得なかった俺は…当面こうして満腹のあまり身動きできないのであった。



 なお、こうしている間にも地上では御浜町避難作戦の援護に投入していたタレットウォーカーがすでに帰還し、また24時間態勢で山林伐採と整地、そして地上防衛陣地の構築を進めているところだ。


 作業にあたる自動操縦のタレットウォーカーも16機まで増え、もうすでに地上車庫ガレージの周囲は三重の鉄条網で固められているが、俺はこれに満足しない。


 目下の俺の目標は、この地上防衛陣地をより洗練された機関銃陣地MGネスト…それもより効率的に機関銃火力を運用する交差火点陣地クロスファイアポイントに昇華させることにあるのだ。



 …えーと、少し補足説明が必要かな?


 もしかすると読者の中には機関銃陣地MGネストについてあまり詳しくない人いるかもしれないからな…ガショーンガショーンウィンウィンウィン (タレットウォーカーたちが一斉に『当たり前』の意を示す体操を踊る音)



 まず、現状の地上陣地は厚さ40cmのコンクリート製車庫ガレージの周囲を三重の鉄条網が取り巻き、車庫ガレージ屋上に設置された二種類のタレットが接近する怪物モンスターを撃ち下ろす形となっている。


 これだけでも最低限の機関銃陣地MGネストと評価できないこともないのだが、なにしろ初めから銃座として設計されたわけではない車庫ガレージなので射線の死角も多く、なによりも鉄条網に張り付いた怪物をそのまま撃てば自身の弾丸で鉄条網を破損してしまう欠陥設計なのだ。



 …果たして、怪物モンスターひしめくこのポスト・アポカリプス世界において、こんな欠陥建築で安心して生活を送ることができるだろうか、いやできない(反語)


 そこでこの欠陥住宅をリファインし、地下シェルターに暮らす俺たちが日々安心して生活できるように匠の技が発揮されたのだ。



 キラキラキラキラ…(地上カメラにエフェクトがつく音)



 …なんということだろうか、俺が長年備蓄してきたコンクリート備蓄材がついに日の目を浴び地下貯蔵庫から運び出されて、鉄条網ラインの要所要所に高さ2メートルほどのタレット銃座が建設されているではないか。


 まあ、乾燥コンクリートと各種混合材に加えて撹拌用のミキサーも複数基備蓄してあったのだが、『DIY』スキルによりほとんど即座に材料から銃座を錬成できてしまって無駄になったことは不満に感じなくもないが…それはこの際よしとしよう。


 それよりも、これにより鉄条網に隣接してその上部からタレットが撃ち下ろす射角になったため、自身の銃弾で鉄条網を破壊する恐れがなくなったばかりか、7.62mmタイプBタレットの主火点プライマリポイントを中心にその死角を埋める5.56mmタイプAタレットの補助火点セカンダリポイントが配置されている。


 ああ…なんということか、脅威正面に対しては必ずこれらの火線が複数浴びせられる交差火点クロスファイアが出現するという、実に有機連携的で洗練された機関銃陣地MGネストが完成しつつあるのだ…(例のBGM)



 …うんまあ、俺の『DIY』スキルだと数時間に1個のペースでしかコンクリート銃座を錬成できないので、まだまだ完成には時間がかかるんだけどね。



 なんにせよこれで、現状でも怪物モンスターどもの接近を完封している地上防衛がより完璧に近づくだろう。


 今後、怪物モンスターどもの脅威度が増すかもしれないので、やってやり過ぎということはあるまい。


 …あと、出入口とかを考えずに完全に鉄条網で覆ってしまったので、俺のピックアップトラックや乃愛のあのバイクは発車できなくなってしまったが、それについては今後の課題としておこう。



 御浜町避難作戦という当面の課題も無事クリアしたことだし、なにも焦ることはないので防衛を最優先にしつつだな…







 ピンポーン






 そのとき、地下居室空間のPCデスクに備え付けられたインターホンが鳴り響いた。




 …そう。


 地上車庫ガレージの入口に設置されたスイッチと連動したインターホンが、鳴り響いたのである。





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