第16話 無力な人間

クライゼの城壁に登り、外を見る


辺り一面で緑色の何かが蠢いていた


それはゴブリンだったり、オークだったり、オークチャンピオンだったりする


それは劣人種の群れだった


「原初ゴブリンはいますか?」


アルフレッドさんが、現状把握をしようと、兵士に様々な質問をしていく


「原初ゴブリン?」


「そうですか、知らないのならばいないのでしょう、いれば一大事ですからな」


原初ゴブリン、?来る時にも、エストレア様が居ないか心配していたやつだ


「次に、現在の状況は?」


「我々が城壁の上から敵の数を減らしているのですが、一向に減る気配がしません」


現に大量の魔術が城壁からゴブリン達に撃ち込まれていた


「では私達はこのまま防衛に参加、アレクさん達は城門の方に行き突破された時用に備えていてください」


現状把握を終えたアルフレッドさんが俺たちに指示を出す


「了解した」


「了解です」


城壁の方へ移動する


城門前には俺たち以外にも剣士が集まっていた


「アレク、どう思った?」


敵を見てのことだろう


「ゴブリンはいけますが、オーク系は三m以上あると無理ですね」


と言っても大半のオーク系が三m以上あるのだが


「一緒か」


大師匠も一緒のようだ


ヘルセネ流の限界を感じる


相手がちょっとでかいと、何も出来なくなってしまう


俺は弱い


まず間違いなくオークが入ってきた瞬間、ここにいる、剣士達は死ぬだろう、ゴブリンだけでも大半が死ぬ


だけど俺は天に祈ることしかできない

オークが来ないことを、オークチャンピオンが来ないことを、祈るしかない


無力で惨めだ


今俺に出来ることは何も無い、祈るだけだ、俺の事が嫌いな神に対して



「それにしても、あれ程の群れだとはな」


完全に思考に没頭していたのでちょっとびっくりする


「多分あれは魔物氾濫の余波ですよね?」


「あぁ多分な、アルレス山脈てあんな弱い奴らは生きていけない」


ここにいる魔物は、アルレス山脈で起きた魔物氾濫で出てきた魔物達から、逃げてきた魔物なのだ


つまりもっと強い魔物がいるということだ


俺は——俺たち剣士はオークに出会うだけで死ぬのに、そんなオークより強いやつはアルレス山脈にはごろごろいるのだ


自分の弱さが浮き彫りにされていくようだ


「俺たち、ここで死ぬんですかね」


「そう卑屈になるな、魔術師達もオーク系が一番脅威なのはわかってる、最初はオーク系を集中的に狙うはずだ」


そしてそれは起こった


それは一瞬だった


轟音がして、鉄で出来た何かが師匠の真後ろを飛来していったのだ


鉄で出来た城門に二mの穴が空いている


人々が叫ぶ


「城門が!城門が壊されたぞ!」


大師匠が素早く敵の方へ移動する


幸い門に空いた穴は、オークが入れない大きさだったのでゴブリンしかいない


大師匠がゴブリンをなぎ倒していく


俺も大師匠に続く


ゴブリン程度なら俺達二人でなんとかなった


他の剣士達も、俺達がゴブリンをなぎ倒しているのを見て後に続く


ゴブリン達をなんとか城門付近にとどまらせることが出来た—と思っていたのも束の間、もう一度轟音が轟く


剣士達の前に大きな棍棒を持った巨人が表れる


緑色の巨体に、巨体を彩る鮮やかな装飾品、オークチャンピオンだ


「逃げろ!!」


誰かが叫んだ


次の瞬間前方にいた剣士が死んだ

大きな棍棒で叩き潰された


なぎ払いで剣士が五人死んだ


歩いたオークチャンピオンに踏み潰され一人死んだ


次の標的は、大師匠だった


オークチャンピオンが右手にを振り上げ、大師匠目掛けて振る


大師匠は棍棒を切った


鮮やかな剣筋だった


オークチャンピオンの棍棒が真っ二つになる

そして奴はそれを捨てた


明らかに拳で戦うつもりだ


オークチャンピオンの右ストレートが大師匠に向かう


大師匠はそれを斬ろうとして、失敗した


大師匠が横に吹き飛び、家屋に当たる


それでも威力にを減少させることに成功したのか、大師匠はまだ意識を失っていなかった


血を吐き叫ぶ


「逃げろ!アレク!」


逃げろと言われ俺の足は動かなった、

足に重りが付いているかののようだった


恐怖だ


強くなったと思っていた、俺はもう恐怖に負けないと思っていた、けれど結局俺は何も変わってはいなかった


俺は弱い


弱くて、無力で、惨めだ


俺は弱い頃のままだ、逃げることも抗うこともできず、ただ突っ立っているだけの弱虫だ


「アレク!!」


その瞬間、天が光り、炎の槍がオークチャンピオンの胸を貫いた


オークチャンピオンが倒れた


城壁の上からエストレア様が覗いている


エストレア様が打ったのだ


俺は何も変わっていなかった


今回もまた人に助けて貰った、自分では何も出来ず、ただ見ているだけだ、自分が哀れに思えてきた、俺は何ができるのだろう、力を手に入れ抗う術を身に付けたでも、結局は立っているだけだ


俺は無力だ



その時、音が聞こえた


ドシン、ドシンと何かが歩く音


「アレク!逃げろ!!」


オークが城門をくぐり抜けていた


棍棒を携えたオークの体長は四mを越えていた、


「アレク!!逃げろ!!動け!逃げろ!」


大師匠が叫ぶ、恐らく動けないのだろう


オークが、叫んでいる大師匠の方へ向かう


大師匠を先に殺すつもりだ


止めなければ、逃げてはいけない


エストレア様が魔術を放とうとして、後方に倒れる


魔力が切れたのだ


もう助けてくれる人はいない


オークが棍棒を振り上げる


あの日の光景がフラッシュバックする


俺はあの瞬間、踏み出すことができなかった


もう嫌だ


俺は足を前に出し、踏み出した


そしてオークの右足首を斬った


オークが倒れる


「!?アレクお前その速度!」


俺は人では到底出せない速度を出し、オークの体を切り刻んでいく


五秒後、オークは動かなくなった


そして俺も魔力が切れて倒れた

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