第19話 奉行所準備分所

 オキクルミタケダこと武田九郎信行は、ピロロに設置した蝦夷地係分所は実は奉行所設置の調査準備室でもあった。

松前家の商場知行制あきないばちぎょうせいが正式に場所請負制ばしょうけおいせいに移行するのは十八世紀初頭だが、各所でそれに近い形をとっているところが出始めていたのである。

 武田九郎信行は蝦夷地での動向分析を良くし、百俵取りから家禄百俵、役料百俵の合わせて二百俵取りとなったのである。

彼の主だった役目は適正な交易の維持と諸外國からの介入阻止であった。

その為には商人による相場の操作を監視する必要があったが、彼方此方あちこちで商人主体の交易が始まると、余程目に余る者以外は見守るしかなかった。

 そうした中で近江屋善兵衛の交易のやり方は比較的良心的であった。

勿論この場合も蠣崎蔵人への運上金は支払われていたのである。

オキクルミタケダは四十六俵をコタンに届けさせ、後は貨幣に変えて貰うのだが、その時家具や道具を購入する形をとって近江屋に商いをさせて儲けが出る様にはからい、残りは貨幣で受け取ったのである。

 オキクルミは酋長のムカルに四十俵を献上し、コタンの倉に保管させた。

残りの六俵の内二俵をカイに与えたのである。

 分所の部下三名には別に届けて貰い、報酬として与えたのである。

 米と一緒に届いた箪笥二棹の内、一棹をカイとクナウ夫婦に与え、大きい桐箪笥はアベナンカの為に頼んだ物であった。

「ノブユキこれ凄いわよ」

 抽斗ひきだしを引いて押し込むと別の抽斗が飛び出して来たのである。

それを面白がって繰り返していた。

「菜乃香、その位にしておけよ」

 菜乃香は衣類を丁寧にたたみ直して抽斗に収納した。

「上手く出来ているわね。クナウもきっと喜んで居るわよね」

 オキクルミのお陰で家具や調理器具などがいつの間にか揃った。

「ねぇノブユキ、今度カイにラヨチの墓所に連れて行って貰わない?」

 オキクルミも行きたいとは思って居たが、中々機会が無かったのだ。

それを菜乃香の口から出るとは思っても居なかったので内心驚いたものだ。

「あぁ、皆で行こう」

 勿論カイ夫婦を含めて五人での墓参である。

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