第5話

――その知らせは、突然に――


「こ、国王様からの呼び出し!?」


ルメルのもとに、彼が最も恐れる人物からの通知書が届けられた。

その内容は非常にシンプルであり、今すぐに自分のもとまで来い、というものであった。


「な、なんだなんだ…。僕もシンシアも、国王様の事を怒らせるようなことは何もしていないはずだが…。一体どうしてこんなことになったんだ…!?」


国王から今すぐに来いと言われることほど、ルメルにとって恐怖するものはない。

そしてそのきっかけが何であるかわからないなら、なおの事…。


「な、悩んでも仕方がない…。行くしかない…」


意を決して国王のもとまで向かうこととしたルメル。

それが第一王子として、最後の仕事になるとも知らず…。


――――


「お、お父様…。一体どういうご用件でしょうか…?」


部屋の中は非常に厳かな雰囲気に包まれている、なにか冗談などを言って場を和ませられるような状況では到底ない。

ルメルは父である国王の元を訪れるや否や、早速本題に移ることしかできなかった。


「…国王としてここに座っていると、いろいろな話が耳に入ってくる…。ほかでもない、ルメル、お前の話だとも」

「は、はい…」

「すべてが良い話なら全くなんの問題もないのだが、話を聞くにどうやらそのすべてがお前に対する批判的な話ばかり…。ルメル、心当たりがあるか?」

「う……」


ルメルの嫌な予感は完全に的中し、これから国王によって詰められる時間が始まることをはっきりと理解する。


「ぼ、僕はこれでも真剣に第一王子としての仕事を全うしているつもりですので、なにか問題視されるようなことに心当たりは…」

「……」


…国王はルメルの言葉に対してリアクションを見せず、ただ黙ってその様子を見守っている。

その重厚な雰囲気がより、ルメルの心を強く押しつぶしていく…。


「はぁ…。では私から伝えてやろう。ルメル、お前は私が背中を押したサテラとの婚約をいともたやすく切り捨てたな?」

「あ、あれは向こうがすべて悪いのですよ。僕の最愛の妹であるシンシアの事を一方的にいじめて…」

「お前はその場面を見たのか?」

「う……」

「私とて、シンシアはかわいいかわいい娘である。しかし、その行いに問題があるのならそれを正すのも私の役目。それは第一王子であるお前にも同じことが言える。そのうえでもう一度聞こう。ルメル、お前はシンシアの言っていることに関してきちんと裏付けをとったのか?」

「…いえ…」

「私が言った、身内を正すという信念。それはサテラの方にはあったとは思わないか?だからこそ彼女は家族として、第一王子であるお前に対してもきちんと言うことを言ったのではないか?…しかしお前は、そんな彼女のまっすぐな思いを一方的に切り捨てたというわけか…」

「お、お待ちください!!!」


まっとうな言葉をかけられ、一気に立場を悪くするルメル。

しかしここでそれを認めてしまえば、ルメルは今以上に立場を悪くしてしまうと考え…。


「僕は本当に我が王宮事を考えての行動を」

「いい加減にしろ!!!!」

「ひっ!?!?」


…それまで厳かだった雰囲気の国王が、突然に激高したような口調を浮かべる。


「ここで自分の非を認めたなら、私もお前の事をかばえたというのに…。お前はどうしてそう事実を受け入れられないのだ!!!!」

「ひっ…!?」

「すでに貴族会から、お前に対する抗議書が送られている!!これでもう私の一存により、お前は第一王子としての立場から退いてもらうこととなる!それが本当に分かっていないのか!?」

「そ、そんな!?貴族会がもうすでに動いていたのですか!?」


…それまで貴族たちの事を下に見て、彼らの存在をただただシンシアの願いをかなえるための踏み台としか考えていなかったルメル。

それが大間違いであったことを、彼はここまできてようやく理解した。


「貴族会からそっぽを向かれた以上、もはやお前についてくるものは誰もいない!!我が息子ながら、一体なにをすればここまれ人から嫌われるのか分かったものではない!」

「も、申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません!!!!!今すぐに貴族たちに謝罪をして回り、サテラとの婚約関係を再開させるべく行動を」

「もう遅いに決まっているだろうが!!!!」

「そ、そんなっ!?!?」


…ここまできてようやく、自分の置かれている状況を理解したルメル。

しかし、第一王子としての立場を維持することを考えたなら、それはもう遅すぎた…。


「…お前にはもう第一王子としての立場を降りてもらう。文句はないな?」

「そ、そんなぁ……」

「やれやれ…。まさかここまで事態を悪化させていたとは…。かける言葉もないとはこの事…」


それが、ルメルが第一王子としての立場を失った瞬間であった…。

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