第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?

大舟

第1話

きらびやかな装飾がほどこされている、ルメル第一王子の自室である第一王室。

今その中で二人の人物が、ルメルの婚約者に関する話を行っていた。


「ルメルお兄様…。私、もうサテラお姉様と一緒にここで暮らしていける気がしません…」

「…シンシア、まさかまたサテラになにか言われたのか?」


両目を涙目にしてルメル第一王子にすがりつくのは、彼の実の妹であるシンシアだ。

彼女は以前からなにかことあるごとに、こうして兄であるルメルに泣きついているのであるが、それが今回もまた繰り返されている様子…。


「私なにも悪いことをしていませんのに、お姉様ったら私のことを一方的に悪く行ってきますの…。なんだかお姉様機嫌が悪かったみたいで、少し話しかけた私の事をひどくいびりはじめて…」

「サテラの奴、僕の婚約者に選ばれたからと言って調子に乗って…」


彼女の話をそのまま聞くなら、サテラの方に非があるように思われる。

しかし現実には、彼女の話は現実とは正反対のものを作り出していた。


――数時間前の事――


「…ねぇシンシア、私の気に入っていた服がボロボロにされてしまっていたのだけれど、なにか知らないかしら…?」

「さぁ?私にはさっぱり」

「…本当に?」

「まさかお姉様、この私の事を疑っておられるのですか!?これから二人で温かい家族関係を築いていこうというところなのに、どうしてそんな冷たいことができるのですか!?ありえないとは思わないのですか!?」

「そ、そこまで言っているつもりはないけれど…」

「(まぁ私がやったのは本当なのだけれど、一発でこうして疑いをかけられるのはむかつくわね)」

「…分かったわ。じゃあなにか気づいたことがあったら後からでも教えて」

「分かりましたわお姉様」


――――


「なるほど、サテラの奴シンシアにそんな言葉をかけたのか…」

「お兄様、私本当に悲しかったです…(お兄様は私の言う事をすべて信じてくださいますもの…。だから、私がどれだけあの女を悪役にできるかにすべてがかかっていますわ…。あんな女一刻も早くここから出ていくべきなのですから、私は何も悪いことはしていませんわ)」


シンシアが心の中にそう思いを抱く通り、彼女はただただ現実に起こったこととは反対の事をルメルに訴えていた。

ルメルは幼き時から妹であるシンシアの事を溺愛していたため、ルメルがシンシアの事を疑う事などこれまで一度もなく、彼女のいう事であるならば彼はどんな時でも完全に信用していた。

そしてシンシア自身もまた、ルメルが自信に抱くその思いが強いという事を知っているからこそその思いに乗っかる形でうまく利用し続けていた。


「シンシア、サテラの方には僕の方から強く言っておくよ。…まったく、どうして何度も何度も同じことを繰り返すのか…」


同じことを繰り返す、というのはこれまでにもサテラがシンシアの事をいびり続けていたという事を意味するが、それも現実とは正反対のものだった。

これまでもシンシアは事あるごとにサテラに嫌がらせを行っては、自らを一方的に被害者だと言い張ってルメルに泣きつき、その度にサテラはルメルから叱責を受けていた。

そして今回もまた、それと同じことが繰り返されようとしているのだ。


「サテラ…。貴族令嬢の中ではそれなりに整った容姿と生まれを持っているから、僕の隣に並び立つものとしてふさわしいのではないかと考えたのだが…。過去の僕は少し、見る目を誤っていたようだな…。僕の婚約者として理想的な動きを見せてくれるどころか、僕がなによりも大切にしているシンシアの心を傷つけるなど、到底許されるものではない…」

「…お兄様、私はもうお姉様とお顔を合わせたくないのです…。どうにか、どうにかお姉様との婚約を…白紙にすることはできませんか…?」


これまでサテラの事を攻撃し続けていたシンシア。

その最大の狙いは、二人の婚約関係を破棄させることにあった。

というのも、シンシアにとって兄のルメルは自分の言う事を何でも聞いてくれる非常に都合のいい存在であるため、それをサテラに奪われることにシンシアは非常に危機感を感じていたのだった。


「どうでしょうお兄様…?こんなお願いは非常に難しいものであるとは分かっているのですが、私はそれでもあきらめることが出来ないのです…。私はどうしてもお姉様と家族になれる気がいたしません…。私がどれだけお姉様に寄り添おうとしても、いつも一方的に気持ちを踏みにじられるのです…。こんな関係を続けていたら、いくらお兄様が一緒にいてくださるとは言っても心がどうにかなってしまいそうで…」

「シンシア…」

「私はずっとお兄様の事を好きでいたいのです。でも、こんな苦しい時間がいつまでも繰り返されるというのなら、私はもうお兄様の事を……好きでは……」

「わ、分かったシンシア!!!」


…シンシアが最後に放った言葉が、決定的だった。


「もう十分だ。婚約破棄しよう。サテラは僕たちの思いに答えなかったどころか、僕たちの思いを裏切ったんだ。もうここに居る価値は全くない。明日にでも、ここから出ていってもらう事にしよう」

「(♪♪♪)」


…心の中でスキップを踏むシンシアの姿に、ルメルは気づかないのだった…。

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