第558話 ツンデレます

 私は話を変えるために、発見したものを指さした。


「あ、誰かが桟橋作ってくれてるじゃん――ちょっと嵐で崩壊してるけど、修理中かな?」


 海岸に木や竹で組まれた桟橋があった。修理してる人たち4人が、こっちに手を振ってくる。


「おっ、挑戦者だな!? 今日はまだちょっと風が強くて時化しけってるけど、大丈夫か?」


 声にリッカが返す。


「挑戦者だー。桟橋使わせて貰っても大丈夫かー?」

「もちろん。今ちょっと足場悪いけど、使えないことは無いぞ」

「ありがとう、たすかるー」

「まあ君みたいな美人さんにお礼言われるために、作ってあるからな!(笑)」

「―――そりゃどうも」


 日焼けして白い歯を見せた男性に、リッカは興味なさそうに返した。

 男性はちょっと項垂れ、仲間に笑われながら背中を叩かれている。


 私、男性に美人とか言われたこと無いから、一回は言われてみたいなあ・・・。どんな気持ちになるんだろう。


 配信では可愛い言ってくる人いるけど、彼奴等きゃつらは信用ならん。


 クレイジーギークスのみんなでイカダを運び終わり、海に浮かせる。

 おおっ。ちゃんと浮いてるし、安定してる。


 左右に大きく伸ばしたの部分に付いた竹の浮き(オックスさんが名前を〝アウトリガー〟って言ってた)が安定性に大きく効いてる。さすがオックスさん作。


(ところで、なんでイカダで引き金トリガーなんだろう? アウ・トリガー――揺れたら「アウ~」ってなるからかな)


 私が「アウ~?」なんて呟きながら首を傾げていると、リッカがアルティMateさんの持ってる袋をごそごそした。


「差し入れだ、喜べ」


 リッカはモモマンゴーを、さっきの日焼けした男性に渡している。リッカの顔が「ちょっと悪かったかな」って感じだ。

 日焼けの男性、大喜び。


「ちょうど水分が欲しかったんだ! ありがとな!」

「そうだ。感謝すると良い」


 リッカは腕を組んで胸を張って、言葉も相変わらずだけど。

 アリスにモモマンゴーを手渡された人も、デレデレしてる。

 あと、さくらくんに手渡された男性の目が〝♥〟マークになってる。

 罪な男だぜ、さくらくん。

 いや、こんな名言があったな――付いてるなんてお得じゃないか「わぁい」。あてし、そういうの嫌いじゃないから。


 さて、リッカとリイムがパイナップルの鎧を身にまとい始めた。

 すると、日焼けした男性がリッカに尋ねた。


「え? なにそれ、パイナップルの皮?」

「んだ」


 リッカは頷く。


「え、なんで?」

「耐火性能が凄いんですよ」


 私が答えると、男性が眼を真ん丸にした。


「まさか、その鎧でシードラゴンと事を構える気か?」

「だぞ。倒すぞ」


 リッカが今日も勇ましい。


「パイナップルの鎧なんかでどうやって!? そもそもアイツ黒曜石の武器なんかで突いたら、黒曜石の方が砕けるぞ!?」


 そんな言葉にリッカがニヤリとして――あ、自慢する気だ、この子。

 腰の一振りを、スラリと抜く。

 陽光に反射したそれを見た褐色の男性が、「ブーーー」と吹き出した。


「なんだそれ!? 刀じゃないか!? それも、ちゃんと鋼か!?」

「鋼だぞー、すごいだろー」

「凄すぎるよ! どうやって作ったんだよ!?」

「もちろん1から作ったんだ。まあ、砂鉄はスウがチートで出したけども。磁石もあるから砂浜か川をさぐれば、砂鉄は集まるしなぁ」

「1500度とかに耐える炉は・・・?」

「耐熱粘土をスウが作った」

「スウ、スウって、まさかあのスウ? ――あの子、知識チートもできるのかよ!」

「そのスウ」


 すると、ハチマキを巻いた男性が大きな反応を示した。


「スウたんはどこ!?」


 私は端っこで目立たないように気配を消していたのに、ハチマキの男性が辺りを見回すと目が合った。

「ども」と会釈すると、なんかワープするみたいに移動してくる、ハチマキの男性。


「はじめましてスウたん! 俺、君のファンなんだ!」

「ど、ども」

「うわー可愛い、本物マジで可愛い!」


 あ、なんかこの人本気で言ってくれてるっぽい・・・。なるほど、こんな気持ちになるのか。

 嬉しいけど、落ち着かない気分。


「ども」


 しかしアイアム・コミュ障。

 気の利いた返事なんか出来ません。

 緊張して、脳みそがストライキ起こしてる。


 リッカもあの時、混乱してたのかもなあ。

 あんなに美人で普段は動じないのに、美人と言われただけで混乱しちゃうのか。


「握手してくれない!?」

「いえす」


 というか私の体、なんでこんなに会話下手くそなの?

 まあ上手い会話して、気を引くつもりとかはないけれども。


 嬉しいのに素っ気なく返してしまう。

 自分がツンデレだとは、夢にも思ってなかった。


 男性は私の手を握ると、超嬉しそうにして輪に戻っていった。

 うーむ・・・何が嬉しいのか・・・。

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