第525話 あーっ!! お客様!! 困ります!! 困ります!! お客ます!!
そこで、アリスが前に進み出た。
「わたしも出来ることはありますか?」
アリスもスキルを使ってみせた。彼女も〖飛行〗を持っているし、重力操作もあるので、かなり重いものでも運べる。
すると、看護士が「もしもの時のためだけど、そこにある物を持ってきて欲しい」と、お産の為に準備していた物を指さした。
アリスは頷いて、涼姫に向き直る。
「涼姫、先に行っていてください。すぐに追いつきます」
涼姫はすでに飛び立てる状態だったので、アリスは先行してほしい旨を伝えた。
「うん、わかった。看護師さん病院の場所はわかりますか?」
「案内するわ」
「じゃあお二人共、飛びますね」
「はい、お願いします。鈴咲さん」
妊婦が涼姫の肩に抱きついた。
「いつでも準備OKよ」
看護士の真剣な表情。
「〖飛行〗!」
涼姫は3人の前面に、念動力の膜を張り、母体に負担を掛けないようにしながら一気に空を駆け抜けた。
こうして涼姫は、ものの1分も掛からないうちに、妊婦を産婦人科に届けた。
その後、アリスは看護士に指示された物品を〈時空倉庫の鍵〉に詰めて、腕には旦那さんを抱いて、病院に到着。
さらに数時間後、元気のいい二人の女の子の泣き声が、病院に響いたのだった。
しかし、これは運が良かったのだと、医者が告げた。
「危険な状態でした――双子でしたし、逆子でした。もし院外で出産となったら、母子ともに命を落としていた可能性があります」
そんな言葉を聴いた旦那さんが、顔面蒼白になる。
そして涙ながらに、涼姫の手をとって「ありがとう、本当にありがとう、鈴咲さん―――! 八街さん―――!」と頭を下げる。
涼姫は相変わらず感謝され慣れていないので、恐縮しながら「いえ、名乗るほどのものでは」などと、意味不明な受け答えを返していた。
その後、旦那さんは生まれた我が子を抱かせてもらい、益々涙に顔を崩した。
奥さんも、涼姫とアリスに何度もお礼を言っていた。
「ありがとうございました、鈴咲さん、八街さん。――にしてもやっぱり、この子の名前は鈴咲さんに付けて・・・・」
「そ、それは」
慌てる涼姫。
するとアリスが、涼姫の様子を見て、真剣な表情で言う。
「止めといたほうが良いですよ。涼姫は、絶望的にネーミングセンスがないですから。まんまな名前しかつけないんですよこの人。下手したら『赤ちゃん』とか名付けますよ。大人になったらどうするんですか」
「なんか無駄な心配されてるんだけど!? さすがにそんな名前は付けないよ?!」
涼姫とアリスのやり取りで、病院に楽しげな笑い声が溢れたのだった。
翌日、配信中のワンルームに乗り込んできたチビっ子に抱きつかれる、スウ。
「スウ、ありがとう!! 親戚の姉の命と、その娘二人の命を護ってくれて!!」
「なちゅらるふろーらる」
抱きついてきたリッカを「くんかくんか」する、特異点。
「なちゅらる?」
「女子高生なのに香料が無添加で、しかも良いものをお持ち――」
スウが言い終わる前にチビっ子が後ずさって、自分の胸を抱いた。
「なんか危険を感じる」
名残惜しそうにリッカを見つめていた特異点が、慌てだした。
「え、あっ、今の呟きは無しで」
コメントが笑いに包まれる。
❝相変わらずヤベェなw❞
❝スウって、色んなヤバさの塊じゃんwww❞
ジト目のリッカが体を抱いたまま、スウを威嚇する。
「無しには出来ないよ」
❝スウちゃん。残念ながら現実に、呟きを消す機能は実装されていないのよ❞
「なんてこった」
「でも、本当にありがとう。前はメープルを助けてくれたし、親戚のお姉ちゃんも、その子供も」
❝それ、なんの話なの?❞
疑問のコメントに、リッカが説明を始める。
❝・・・・スゲェわ、よく居合わせたモンだ❞
❝完全に、運命のディスティニー❞
暫くジト目だったリッカが、スウに向かって両手を広げた。
「まあ、お礼にわたしをモフる事を許すのもやぶさかではない」
「え、いいの?」
スウの顔がパッと輝く。
❝なんか既視感有るな、あんな様子に❞
❝あれだ、お猫さまだ。「モフるがよい」って感じ❞
❝昔のリッカはスウの事、あんまり好きそうじゃなかったのに❞
❝もう、デレデレやん❞
「デ、デレてないわ!」
スウに抱っこされ、モフられながら真っ赤になってコメントに噛みつくリッカ。
「あー、小さくて薄いのに柔らかい、くんかくんか。いい匂い」
「終わり、ラストオーダー終了しました。お客様!! 困ります!!」
その後、アリスがコメントに現れるまで、スウのモフリッカは続くのだった。
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