第81話 母は戰います
「ヘリクス、スウ機、発艦します」
『発艦を許可する』
「戦艦から離陸するんだから、ちゃんとフラップを下げないとね」
飛行機には離陸する時、上昇しやすくしてくれるフラップという動く翼が付いている。
それをちゃんと下げて離陸。
私の機体は滑走路を走って、海上に飛び上がった。
飛行を開始したらフラップをしまって、車輪を仕舞うこともわすれない。
『流石、完璧な離陸ですね!』
アリスが褒めてくれた。嬉しい。
「さて試合開始の合図は何時――」
ここで、けたたましい警告音。
「――えっ、ロックオンされた!? 開始の合図とかないの!?」
『あああ―――もう、こんなの決闘じゃありません!!』
アリスの怒りの声と同時に、飛んでくるミサイル。
「ちょ、おまっ――」
私は海面スレスレに降下、そうして人型に変形。
『今回はミサイルを防ぐための、チャフもフレアも無い。終わりね』
「リイムは渡さない!!」
足からでてるジェットの熱で海面を温めて、水蒸気爆発みたいな現象を起こす。
おまけで熱武器である〈励起剣〉も海面にぶっ刺して、後ろに跳んだ。
水蒸気が、ミサイルのレーダーを遮断する。
サニヤ少佐の撃ったミサイルが、目標を見失ってあらぬ方向へ飛んでいく。
私は蛇行し始めたミサイルを〈汎用ガトリング〉で撃ち落とす。
『―――す、水蒸気をチャフ代わりにしたっていうの!?』
「もう試合開始なんですね!?」
『戦闘に開始の合図があるかしら!? お上品な決闘だと思わないことね!』
「了解です!!」
私は〈汎用ガトリング〉を連射。
サニヤ少佐の機体を、撃ちすえる。
『な、なによこの命中力!! ――でも、人型形態のままなら、すぐにロックオンできるわ!』
それはそうだよね。シールドが割れかけるくらいのダメージは与えたので、私は機体を戦闘機に変えて飛ぶ。
『人型から飛行形態に変形しても、すぐには速度を得られない。そんな鈍足! 上空後方、貰ったわよ!!』
さすが連合のエース、あっさり私の上空後方を取った。
ドッグファイトは上や
私は背後から飛んでくる機銃を、回転して躱す。
『なに―――っ、300メートルもないこんな近い距離からの射撃を躱したの!?』
まあ300メートルなら
するとアリスが鼻を鳴らす。
『特別権限ストライダーの実力、分かりましたか?』
『ただ反射神経がいいだけでしょう!』
私は、サニア少佐のガトリングを躱しながら考える。
「相手はエース、下手な相手じゃないだろうし――どうやって後ろを取り返そう」
そこで私は、前方に鳥の群れを発見した。空が黒くなるくらいの数が飛んでいる。
「あ、んー」
私は戦闘機の速度をさらに捨てて、サニヤ少佐との距離を縮める。
相手との距離80メートルくらい。
『距離を縮めて、何のつもり――って、この距離でも躱すの!? 弾丸の到達まで0.08秒ないでしょう、どうなっているの!? 貴方、連合なら人権を得られないレベルの能力よ!? ――本当に人間!?』
なんか酷いこと言われてるけど。原始反射もあるし、飛行機ってそんなに簡単に機首振りできないから、相手の動きって結構予測ができるんだよね。
私は、正面の黒いものを見て呟く。
「VRだから良いよね」
言って、前方を群体で一つの生き物のように飛んでいる鳥の群れに突っ込んだ。
『えっ、うそ――鳥の群れに突っ込むとか、馬鹿なの!? コイツ何して―――』
私は鳥の群れを無傷で抜けられたけど、後ろを着いてきたサニヤ少佐はそうはいかなかったようだ。
私を追いかけてきて、すぐには止まれないサニヤ少佐は、鳥にぶつかった。
既にボロボロだったシールドが鳥で砕け、タービンに鳥が突っ込むタイプの
鳥が飛行機のエンジンに突っ込むのは、もう大事故だ。
背後を見れば、サニヤ少佐の機体の背後のエンジンが1機、まともに動かなくなっている。
弾幕に慣れきった私でもヒヤっとしたのに、あの数の鳥の中を飛んで、エンジン1機で済むのはさすがにエースと言ったところ。
『貴女、決闘でこの様な卑劣な行為を―――!!』
するとアリスが、呆れた顔で鼻で意地悪く笑う。
『「上品な決闘ではない」って言ったの、そっちですよね?』
『それは・・・・』
言葉に詰まったサニヤ少佐は機体を安定させるために、背後にあるもう1機のエンジンを切る。
こうなればサニヤ少佐は、出力の弱い補助エンジン2機で飛ばないといけない。
私は、一気に急上昇。宙返りして高度を維持したまま、背面飛行から元に戻す――いわゆるインメルマン・ターンという動きだ。
私はインメルマン・ターンの上昇による減速を利用して、できるだけ小さな弧を描いた。
ちなみに、宙返りして正常な飛行に戻すだけの技なのに大仰な名前がついているとか言ってはいけない。
フェイレジェの機体でも、上昇によってエネルギーを保存しながらできる旋回の小ささは大体0.75倍になる。かなり小さく旋回できるんだ。
インメルマン・ターン機動は基本中の基本ながら、相手の動きを予測して自分の機体をしっかりと動かせば、最短で相手の背後と上空を取る――非常に恐ろしい必殺技になり得る。
私は速度が出ないサニヤ少佐の機体の背後上空に、張り付く。
そうして上から〈汎用ガトリング〉で乱れ打ち。
さらに急降下しながら、打ち据えていく。
私の素早い急降下を、サニヤ少佐は機首で追えていない。
私の機体は、サニヤ少佐の機体の背後を抜けて腹の下へ。高さを重力で速さに変換して、サニヤ少佐の後方で再び急上昇。私の機体の速さは高度に変換され戻る。
先ほどと同じように、背後上空を取って、立て続けに急降下しながら〈汎用ガトリング〉を乱れ撃ち。
サニヤ少佐の機体を遥かに超える速度で、急降下急上昇を繰り返す。
エンジン2つを切って、高度も速さもないサニヤ少佐は、こちらの素早い動きについて来れない。
サニヤ少佐は私の背後に着きたい筈だけれど、速度も高度も簡単に上げられるものではない。
速度のないサニヤ少佐が無理に機首を上へ傾ければ、失速という空気が翼の上面からはがれ揚力を失った状態になり、むしろ機首が下がり始める。こうなると、降下して加速しなければ機首を上げることすら出来ない。
サニヤ少佐が私のヒット&ウェイを受けて、悲鳴を挙げた。
『――嘘よ、私はエースなのよ、嘘よぉぉぉぉおおおお!!』
やがて、サニヤ少佐のヘリクスが爆散した。
私の視界が、現実に戻った。
VRの接続が切れたみたいだ。
気づくと、辺りのざわつきが耳に入った。
「・・・・嘘だろう・・・あの〝衝撃の誉れ〟を、まるで赤子の手を捻るかのように―――」
「――試合時間、ものの3分だと・・・・ありえん」
リアトリス旗下の兵士さんたちが、私を観て震えている。
シンクレアさんの部下さんたちまでもが、私を観ながら震えていた。
「こ、これが特別権限の意味か。咄嗟に鳥を利用する機転」
「その機転をこなす力も異常だ。あの数の鳥の群れを無傷で抜けるなど、馬鹿げた回避力―――ど、どうなっている・・・・もはや軍神と言える」
これなら特別権限ストライダーとして認めてもらって、リイムを返して貰えそうかな。
何も反応は無いのは、トリストラム中将くらい。
アリスが駆け寄ってくる。
「分からせてやりましたね、スウさん! わたしには、スウさんがやってる事がてんで分かりませんでしたが! 向こうには分からせられたでしょう!」
アリスが私の手を引いて、VRチェアから起き上がらせる。
私が「ありがとう」と言っていると、私の背後からサニヤ少佐の怒声が挙がった。
「こんなの、認めないわ!!」
ええ・・・・。(・・・もう勝負付いてるから)
すると、アリスがサニヤ少佐を睨んで低い声をだした。
「どうして認められないんですか?」
「こんなもの、しょせんVRよ! 実戦なら!!」
なるほど、じゃあ。サニア少佐の言葉に、私はリイムを取り戻すため静かに告げる。
「そしたら――」
出来るだけ静かに―――底しれない風に。
「――死にますよ、貴女」
私の言葉に、サニヤ少佐が僅かにたじろぐ。
「リイムは返してもらいますね」
私は大事にリイムを抱えてくれていた女性にお礼を言って、リイムを受け取る。
リイムの瞳に、若干水分の膜がある――泣いていたんだ・・・。
籠の端で酷く震えていたリイムが、直ぐに私の方へ寄ってきて「ピィピィ」と鳴き出した。
「よかった・・・リイム、もう大丈夫だよ」
私は声を掛けながら、リイムを籠から出してあげる。するとリイムは私の腕をつたって肩に走ってきて、頬ずりしてきた。
「くすぐったい~♪」
アリスがリイムに微笑んで、
「良かったですね」
指を持っていくと。リイムが、アリスの指にも頬ずりしている。
「あっ、ちょっと懐いてくれました?」
「アリスは、決闘中ずっとリイムのために怒ってたし。きっとアリスの気持ちが伝わったんだね!」
そんな気がする。
リイムがアリスの指をクチバシではむはむしながら、舐めている。
「あはは―――くすぐったいですね~♪」
コメントも賑やかになる。
❝リイムちゃん、取り返せてよかったあ❞
❝決闘、すごかったな。まさかの水蒸気チャフ❞
試合の様子は視聴者にも視えてたんだ?
❝てか戦闘機を起動するの「AI補助なしで大丈夫か?」と思ってたら普通に手動で起動してるの笑ったwww 戦闘機の起動仕方とか全部忘れたわwww❞
❝スウたん、バードストライクさせた時、リイムがちょっと「ビクッ」ってなってたぞwww❞
「えっ、あれ、あっ、そっか! あれ、リイムも観てたんだ!? ――リ、リイム、あれは本物の鳥さんじゃないからね!? 偽物の鳥さんだからね!! リイムにあんな事しないからね!?」
❝スウたん、さっきまで強キャラ感でてたのに情けない感じに戻ったwww❞
❝もう、いつも通りになってるwww❞
私が慌てていると、リイムが私の耳たぶをはむはむしながらぺろぺろしだした。
❝スウたんの気持ち伝わってんな❞
❝よかよか❞
私は胸をなでおろす。
こうして私は、リイムを取り返せたのでした。
でも、なんでリアトリス旗下は、リイムにあんなに
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