第74話 ヴィクターさんに、なんとかボス戦に参加して欲しいと言われます

◆◇Sight:三人称◇◆




最先端アースノイド:25層でアイホートっていう、蜘蛛みたいなモンスターに出会ったんだよ


最先端アースノイド:え、その名前はやばくね?


最先端アースノイド:なんか目が合うと、体が麻痺してな。腹に針みたいなの打ち込まれたんだよ


最先端アースノイド:だ、大丈夫か?


最先端アースノイド:気づいたら女になってた。


最先端アースノイド:まさかのTS!


最先端アースノイド:で、糸でぐるぐる巻きにされてアイホートに襲われてな。さらに気づいたら妊娠してた。


最先端アースノイド:子蜘蛛がギャアアア


最先端アースノイド:お前、今すぐ連合の病院行け!!


最先端アースノイド:行ってきた。なんか普通に人間の赤ちゃん妊娠してるらしい。危険はないんだとか


最先端アースノイド:危険ないの? ・・・俺ちょっとアイホートに会ってこようかな


最先端アースノイド:TSさせてくれる新モンスか。ゴクリ。


最先端アースノイド:おいおい・・・本当に大丈夫か?


最先端アースノイド:なんか大変な目に会ってるヤツいるけど、投下。

 アメリカのUSSFが遂に動いた。

 以下翻訳。


【30層ボス ヘルメスへのリベンジ レイド募集】

 条件:累計勲功ポイント 100万以上。

   30万ポイント以上の機体に乗っていること(一部例外あり、詳しくはUSSFに問い合わせ)。


 クランによる申請の仕方。https://www.■■■■■...

 パーティーによる申請の仕方。https://www.■■■■■...

 個人による申請の仕方。https://www.■■■■■...


 戦艦、空母を提供してくれるグループ・個人には別途手当あり。

 資金、物資提供歓迎。


 以下協賛クラン。

  ・

  ・

  ・

最先端アースノイド:有能、誇らしくないの?


最先端アースノイド:翻訳おつ 旦旦旦 とりあえず茶でも飲んでってくれ


最先端アースノイド:前回もフルボッコにされたからなあ。


最先端アースノイド:ヘルメスか、あれ強すぎるんだよ。


最先端アースノイド:速いのなんのって。


最先端アースノイド:俺等足止めて戦うから、話になら無いんだよなあ。


最先端アースノイド:しかもアイツ、戦うたびに攻撃パターン変えてくるって言うじゃん。前もって、対策できないんだよなあ。


最先端アースノイド:でもなんで急に、USSFが動いたんだ?


最先端アースノイド:勝機でも見つけたんじゃね?




 惑星オルセデウスの衛星軌道上にある合衆国宇宙軍(USSF)の建造した宇宙ステーション、その格納庫に青いF-22ラプターのような機体が帰還した。


 タラップを降りてくる、眠そうな瞳の人物。

 彼に声を掛ける、人物が居た。


「マイルズ・ユーモア少尉。最近、クエストに実がってるじゃないか」


 眠そうな瞳の人物が、声の方を振り向くと。

 褐色の肌に、大柄だが優しそうな年輪を刻んだ人物の顔があった。


「これは、ヴィクター・ハリソン大佐」


 マイルズ・ユーモアが敬礼をする。


 ヴィクター大佐も、軽く答礼を返して微笑む。


「彼女に、刺激を受けたかい?」

「―――お見通しでありますね」

「ふふっ、私はものぐさな君のケツを叩く役目を降りられそうだ。彼女は私のチームへ、いい傾向をもたらしてくれた。――今は君のやる気になった顔を見に来ただけだ。せっかくだし邪魔するのも悪い、私はこれで失礼――」

「大佐、質問を良いですか」


 引き返そうとしていたヴィクターが、足を止める。


「どうしたんだい?」

「いつもはフェイレジェの攻略には参加しない大佐が、なぜ急にボスのレイドを企画したのでありますか?」

「ふむ」


 ヴィクター大佐はしばし考えるような仕草をして、マイルズに向きなおり返す。


「絶好のチャンスだと思ったからさ」

「絶好のチャンスでありますか?」

「彼女の登場により、我々は一気に攻略を加速させられる可能性がある」

「彼女・・・・? もしや大佐は、たった一人の人間がゲームチェンジャーになるとお考えなのですか?」

「答えはイエスだ、少尉。――このフェイテルリンク・レジェンディアとは、恐らくそういう場所だ。それを謎の運営が、すでに示唆しているのだから」

「謎運営が示唆している――でありますか?」

「そう。レジェンディア――レジェンド、そしてディア――レジェンドとは伝説的人物の事だろう。ディアには様々な意味がある。壮大、物語、親愛、個性など。このフェイテルリンク・レジェンディアとはきっと誰か、伝説的な人物を探しているのではないか。そんな風に感じるんだよ」

「それが彼女だと?」

「私は、そんな気がし始めている」

「そうでありますか」

「君の思いは、君の物だ。大切にしなさい」

「はっ!」


 ユーモア少尉はこの尊敬する大佐に、再び敬礼を返す。


 ハリソン大佐は手を挙げて挨拶でも返す時のように、答礼を返して背中を向けた。

 そこに、軍曹の女性が駆け込んできた。


「た、大変ですハリソン大佐!」

「ん、どうしたんだい軍曹」

「ヘルメス討伐の登録が始まったのですが――彼女が一向に登録しないのです! 学校の行事とかで!!」

「え、マジで!?」


 ハリソン大佐が大慌てしだした。


 マイルズは何かタライでも落ちてきて、それに殴られたような表情になり顔面を手で覆って、格納庫の天井を仰いだ。




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




『た、体育祭!?』

「はいヴィック。今日も放課後は練習です・・・雨が降っているからお流れなのかな? ――でも体育祭はフェイレジェの能力使っちゃ駄目なんで、私・・・・力も体力もないから、結構しんどいです」

『いや、後半のグチはともかく。――じゃ、じゃあそれが終わった後、すぐに来れないかい!? 討伐の時間をずらすよ!』

「――え、私のためにですか? ―――それは悪いですよ」

『違う! 君のためではない、我々に君が必要だからだ!!』

「あ、それに、募集要項見ましたけど、私は勲功ポイント10万のスワローテイルに乗っていますし」

『一部例外あり! 一部例外ありって書いてあっただろう! あれは正に君の為に付け加えた文言だよ!』

「ええっ!? そうだ――先生が配る能力を無くすアビリティ・キャンセラーアビキャンを飲まないと駄目ですから、体育祭が終わった後も能力は消えたままです。・・・・スキルとかステータスアップ無しで戦う感じになりますが」

『それは結構痛いが・・・・前日に飲んでおけないかい?!』

「なるほど、先生に言ってみます。――ただ、どうなるかわかりません」

『いやもういっそ、体育祭の日程をずらすように言うか。――外交筋から圧力を掛けてでも』

「えっ、ちょ、それは・・・・!? 何するつもりですか!? ――みんな困っちゃうから止めて下さい! 体育祭の日のために、休みを取ってる親御さんもいるんです!」


 私が言うと、数瞬の間があった。


『君が言うと重いな――』

「あの・・・・私のこと、どこまで調べてるんですか」

『いや済まない、君が言うなら止めておこう。そうだな――学校の方にスズは事前に飲んでおいても良いように頼むか・・・』

「それでいい感じなら、お願いします」

『こっちの方面なら、最悪圧力を掛けても構わ――』

「すぐ圧力掛けようとするの止めませんか!?」


 私は、スマホの通話を終える。

 そうして胸に溜まっていた二酸化炭素を大きく吐き出して、地球温暖化を加速させた。


 周囲では、食堂で思い思いに昼食を食べている高校生たちがいる。

 今は昼食時間。


 先程雨が降り出したので、私たちも今日は屋上ではなく食堂で食べている。


 私の周りには虹坂 千種――チグ、沖小路 風凛――フーリ、由浜 可憐――カレンの姿があった。


 私は昼食時だけ、ボッチから開放される。――いや最近は、チグが結構相手してくれるんだけど。でもチグは、クラスにも友達多いからなあ。私は、チグ以外と馴染めてないし。

 それにチグのクラスの友達って、以前私に詰め寄ってきた人達なんだもん。あの人達苦手。


 チグは、お弁当だけはフーリとカレンと食べると決めているみたいで、昼食はだいたい何時もこのメンバーになる。

 さらに、アリスのクラスメイトで友達だという――関西から来た金屋 美甘みかん――ミカンもいる。


 最近のアリスはクラスではフーリとミカンと一緒にいると、聞いてる。

 ミカンはトップモデルとご令嬢のグループに入ってしまい、「華やかさが辛いわー」と言っていたけど。


 アリスが、和風なお弁当をつつきながら尋ねてくる。


「ヴィックからなんの連絡だったんですか? あ、そのアスパラ・ベーコン下さい」

「今度のエルメスのレイドの話だよ。――え、アスパラ・ベーコン!?」

「涼姫の手作り料理は、とっても美味しいんですよね」


 アリスが、なんか獲物を狙うような目でお箸を伸ばしてくる。

 するとカレンまで。


「あーしは、ほうれん草のおしたしもらお。スズの作る出汁の美味しさはなんなんだ、ホント」


 さらにはフーリまで、


「私はスコッチ・エッグが欲しいわスズっちさん」

「え、あ――あの・・・」


 流石に、私の食べる分が。

 というか、私が作ったり、箸をつけたものなのに。


 チグがちょっと怒る。

 ミカンは「これは酷い光景やわ」って、苦笑いしている。


「アンタ達ねえ、なに群がってんのよ。スズっちの食べる分が無くなるでしょ」


 私のお弁当に、箸を伸ばしていた3人が止まる。


「も、もちろん。わたし達からもお返ししますよ。はい、ハンバーグです」

「も・・・・もちろんだぜチグ。あーしは、焼きそばパンをあげよう」

「そ、そうよ。強奪するだけじゃないわ。金平ごぼうをあげるわ」


 フーリが、強奪って言ったんだけど。


 アリスがハンバーグをくれて、カレンが焼きそばパンを袋ごとくれようとする。

 置いていた私のお弁当の上蓋に置かれていく、食料。

 ――カレンが、袋ごと置こうとしてる。


「カ、カレン。おしたしと焼きそばパンで袋ごとは流石に悪いから、3分の1で!」


 すぐ売り切れる、希少なパンらしいし。

 3分の1でも多いんじゃないだろうか、ただコレ以上細かく切るのは、焼きそばパンだとバラバラになるだろうから難しそうだし。


「そっか? じゃあ半分コするか」

「あ、半分?」

「買えたのはいいんだけど、炭水化物ばっかだから太らないか心配だったんだ」

「流石、美に対する面構えが違う人だ」

「なんだよそれ」


 カレンが「くくく」って笑う。


 あ――フーリも金平ごぼう、手を付けてないのに全部くれるんだ?

 するとチグがジト目になった。


「フーリ・・・金平ごぼうって、あんた自分の嫌いなものを・・・・しかも、スコッチエッグと金平ごぼうって・・・・」


 なるほど、抜け目ないなあ。

 さすがフーリ、そういう所が頼りになる。


「プ、プリンも付けるわ!」


 私は金平ごぼうを、一口食べてから返す。


「大丈夫フーリ。私金平ごぼう好きだから、これでいいよ」

「え――? さ、さすがスズっちさんね。懐が大きいわ」


 何いってんの、私の懐の狭さはフーリが一番知ってるでしょう。

 本当に金平ごぼうが好きなだけだよ。ピリ辛で歯ごたえがあって。


「(もぐもぐ)で、涼姫――ヴィクター大佐はなんの用だったんですか?」


 アリスが、至福とでも言い出しそうな顔でアスパラ・ベーコンを食べながら尋ねてきた。

 アスパラ・ベーコンってそんなに美味しかったっけ?


「えっと。私を、今度のヘルメスのレイドにどうしても参加させたいみたいで」

「あー、体育祭でしたっけ、その日」

「うん。だからムリって言ったら、『体育祭の日程を変更させよう』『外交筋から圧力掛けてでも』とか言い出して」


 カレンが上まぶたで、下まぶたを連打した。


「マジかよ。・・・・軍人さん、どんだけスズを参加させたいんだよ」


 するとフーリだ。感情のない声を出す。


「ヴィクター大佐も、良い根性しているわね。その日はお父様も来るのよ」


 私が見れば、フーリがプチ般若になっていた。


「フ、フーリ大丈夫だから! ちゃんと『止めて下さい』って止めといたから! レイドの方の時間をずらしてくれるって言ってたから。怖い顔しないで、フーリ」


 フーリは財閥のお嬢様だから、外交問題になったら大変。

 高校生の体育祭で外交問題とか、笑い話にもならない。


 オルグスに襲われた時もフーリのお父さんがブチ切れて、ちょっと大変な事になってるらしいし。


 アリスが、パックの『ヘーイお茶』を一口吸って。


「じゃあ、わたしもヘルメス戦に参加できるかもですね。参加したいと思ってたんですよ」

「あ、丁度良かった?」

「はい。助かりました」


 私は、アリスに喜んでもらえたなら満足。


「アリス、それなら前日にアビキャン飲んどくといいよ。先生に言っておいて」

「確かに・・・・失念してました。先生に言っておきます」


 するとチグがスマホを取り出して、なにか操作を始める。


「じゃあ、あたし達はみんなで配信を見ながら応援してるね」

「あーしも」

「私もみるわね」

「私もみるでー」


 あ、チグたちも見ててくれるんだ?


「じゃあ、頑張るね!」


 こうして、私とアリスは体育祭の後、ヘルメス戦に急行することになった。

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