第56話 続けて昔のボスと戦います
だいぶ前方まで来れた――と思ったら、なんかアンティキティラが、河上をゆっくりと移動し始めた。
え、ちょ――どこいくねーん! 縦スクロールシューティングみたいになってきてない? コレ!
広域通信から会話が漏れてくる。
『でたぞ、前回と同じく、また移動し始めた! 逃がすな!!』
『みんな、ブースター着けてきてるよな? 追え追え!』
『撃つ時は仲間とタイミングを合わせて、3つの光球を同時に撃てよ?』
あ、ブースターとか参加条件だったのかな。まあスワローさんには要らないけど。
私は一気に加速してアンティキティラを追いかける。
アンティキティラが、どんどん加速していく。
みんな戦闘機形態になって追いかけ始めた。
アリスも戦闘機モードにして、後ろから着いてきている。
そっか戦闘機モードにするから、合体してないんだね。神合機フラグメントって合体したら人型モードしかないもんね。
私も、さらに加速。
『ぶっ――スワローテイル、流石くっそ速ええ』
『つか、なんでスワローテイルで来てるんだよ。いくら速いからって、馬鹿か』
『しかもあれ、旧式じゃん。スワローテイルでもアレはない。今どきあんなんで戦ってるヤツいないぞ』
『バーサスフレームぶっ壊して、アレしか使うモンが無いんじゃね?』
『おいおい、そんな腕で前に出るな。後ろに下がって見てろヌーブ!』
『あ、先頭まで来やがった。お前、そんな事しても女にはモテねぇぞ』
私一応、女なんだけど。
私は〈励起バルカン〉と、〈汎用バルカン〉二丁を連射して、アンティキティラを撃ちまくる。生物のいる惑星なんで、黒体系武器はロックが掛かってる。
アンティキティラが滝の間で、8の字や∞の字を描くように飛びながら弾幕を放ち始めた。
弾幕の難易度的に〈錯乱〉くらいかな?
でも本体も動きながら、中の光球も動いてるから当てにくいな。こっちのほうが問題かなあ。
私が光球を目で追っていると・・・・「あ痛たッ」――なんか後ろから射たれた。
(まあ、私が前に出てるし狭いから当たっちゃうよね)
『下がれよヌーブ。邪魔だ』
なんか通信を入れてきたっぽいリザードガングって人が、バルカンをペチペチ当ててくる。
え、もしかしてわざと当ててるの?
ひ・・・・酷い・・・。
ちょっと泣きそう。
シールド割れるから止めて。
私は後ろから撃ってくる、リザードガングって人のバルカンも躱していく。
『ん? なんだコイツ――俺の弾ヨけてね?』
『・・・・なんだアイツ、一人でダメージ通してないか?』
『は? 一人で3つの光球を撃ってるのか?』
『つかまて――なんで飛行形態で、バルカンを腕で持って撃ってんだ、あれ』
とりあえず後ろから撃たれるけど無視して戦っていると、アンティキティラの周囲に沢山の波紋が浮かんだ。
「なんだろ」
波紋の中から、円形の時計みたいなのが3つ出てきた。
なるほど、このボスには護衛みたいなのもいるのか。
護衛も弾幕を放ってくる。
あ、弾幕が〈狂乱〉アトラスレベルになった。
『タンク、前に出てガードしろ!』
『無理だ、飛行形態じゃバリアが張れない! 躱すしかない!』
『飛行形態じゃヒールもあんまり出来ないから注意!! ――人型になって回復して、飛行形態になって追い掛けてってなるからね! あんまり被弾しないでよ!!』
『くそっ、やっぱこのボスの弾幕は無理だ――タンクもなしに、どうしろってんだよ!!』
『俺の戦闘機はバリア張れるけど、バリア張ったらバリアに風が当たって抵抗で速度が落ちるからあんまり長い時間は張れないぞ!』
『それでも有り難いから、頼む!!』
『俺の盾機は人型形態でも早い方だけど、きっちぃ』
『前回もこの第二段回でやられたんだ、気張れ!!』
私は弾幕を躱しながら、アンティキティラを攻撃し続ける。
『ん――なんだあの、旧式スワローテイル。なんで弾幕避けまくれるんだ?』
『ちょ、キメェ―――キメェよあの動き! 戦闘機の動きじゃねェよ!!』
『翼が逆さになって揚力を得るのが難しい、背面飛行で弾幕躱してるんだけど!?』
『あんなに機首上げてんのに、キワキワで失速しねぇ!!』
まあいっぱい飛んでるからね、このくらいは余裕余裕。
ふと、私に個人回線で通信が入ってくる。アリスからだ。
『あ、貴女! 一体何者なんですか!?』
「えっ、ス、スウって言います」
『スウさんですか! ・・・そのイカれた飛行技術は一体どこで――なぜ今まで無名だったのですか―――!?』
イカれたって――そういえばリアルのアリスも、最初は私の飛び方を狂った軌道とか言ったっけ。
「え、えっと、私、ずっとシミュレーターに引き籠もってて」
『そういう事ですか・・・! 早く出てきてくだされば良かったのに!』
「も、目標の〈発狂〉デスロをクリアしたから出てきたんです」
私が言うと、しばらくアリスが何も言わなかった。
私は、会話で間が空くと怖くなる
「あ、の」
『は・・・・〈発狂〉デスロードをクリア!? 冗談ではなく!?』
「一応、はい」
『―――す、すみません、「旧世代のスワローテイルで大丈夫ですか?」とか言っちゃって、釈迦に説法じゃないですか! ―――そんな凄い人だとはいざ知らず・・・。そっか謂われてみれば〈発狂〉デスロードをクリアするなら、スワローテイルが最適解ですね――そして〈発狂〉デスロードをクリアするほどのスワローテイルの使い手・・・ですか。―――本当にすみません!!』
「そ、そんな謝ったりしないで下さい! わたしリアルの貴女の知り合いなんです! 結構仲良くさせてもらってると思います。アリスに謝られると、辛いんです・・・」
『リアル? ――ああ、これはシミュレーターでしたね。そうですか・・・・私は貴女と知り合うのですか。楽しみです。宜しくしてくださいね』
「いえ、こちらが宜しくしてもらっているので」
『でもこれ、なんだか不思議な会話ですね―――そっか、未来のわたしは貴女と出会うのですか』
アリスの声が暖かくなる。
『貴女みたいなすごい人と、一緒に戦えたら嬉しいだろうなって思います。じゃあ、今日も頑張りましょうね! ボス、倒しましょう!』
「うんっ!!」
『ところで、フェイレジェが始まってからそちらの時間は3年くらいですか? 〈発狂〉デスロードクリアまで3年掛かったんですか?』
「そうなの・・・・24000時間も掛かっちゃった」
『に、にまんよんせん・・・・』
「そ――そんなに驚かないで!?」
『あはは、すみません』
アリスが可笑しそうに笑った。こうして戦いは続く。
にしても二人、とんでもないプレイヤーがいる。
アリスと話している間に前に出てきた二人だ。
この二人も弾幕をひらりひらりと躱してる。
マイルズ・ユーモアって人と、アカキバって人。
マイルズって人は、なんか青いF‐22ラプターみたいな機体に乗ってる。
アカキバって人は、黄金のスワローテイル。特機のスワローテイルだと思う。
マイルズ・ユーモアって人は、勲功ポイント1位の人だっけ。
アカキバって人は、私より先に〈発狂〉デスロードをクリアした人だ。
二人共凄い、こんな凄い人たち初めて見た。
見た感じアカキバって人はマイルズ・ユーモアって人より飛ぶのが巧い。その代わりちょっとAIMが悪いかな。
マイルズ・ユーモアって人はどっちも巧い。
でも後ろを見れば、弾幕を避けきれないプレイヤーたちがどんどん撃墜されて行ってる。
それか人型形態を挟んで、追いつけなくなってる。
と、アンティキティラの周囲にまた波紋が浮かんだ。
後ろのプレイヤーたちが騒ぎ出す。
『嘘だろ! 第三段階が有るのか!?』
『これ以上弾幕が厚くなったら、避けらんねえぞ!!』
波紋の中から、天球図みたいなのが出てきた。
弾幕が増える。
弾幕が〈発狂〉アトラス。レベルになった。
初見の〈発狂〉レベルは、流石にきつい。
それでも――何とか躱し続ける。
広域通信でプレイヤー達が、騒ぎ始める。
『だめだ、距離を取れ!! ――後ろなら弾幕は薄くなる!!』
『どこまで下がるんだよ。遠くからあんな小さな的、当てらんねえよ!!』
『それに崖が邪魔で! カーブを曲がられたら撃てなくなる!』
このボス、かなり厭らしいな、回避型の戦闘を強制してくるなんて。
――よし、なら。
私は、護衛を集中攻撃する。コイツ等はどこを当ててもいいみたいだから、楽。
そして3分ほどで一機、撃墜した。
『うおっ、弾幕が薄くなった』
『あの旧式スワローテイルが、落としてくれたのか?』
『つか、スゲェなあの旧式スワローテイル。本当に何者なんだよ・・・・横にいる特機と遜色ない戦闘力――いや、むしろ上だぞ』
『よし、俺たちも護衛を先に倒すぞ!!』
またアリスから通信が入ってくる。
『流石、〈発狂〉デスロードのクリア者ですね! わたしなんか距離を取って攻撃するのがやっとです。――しかもわたし射撃が苦手なんで、偶然でないと当たらないです』
「射撃苦手なのは知ってるよ」
思わず私が「クス」っと笑うと、アリスがちょっと戸惑った。
『そうなんですか・・・未来のわたしもやっぱり、射撃は苦手なままなんですね――にしても。スウさんって、もしかして24000時間も3倍の思考でいたから、3倍で思考することに慣れて思考速度が上がってるのかもしれませんね?』
「なるほど・・・・そんな副次効果も考えられるのかな」
『ですね。何にしても貴女の飛行を見れたのは、本当に幸運です!』
でも特機のスワローテイルを見て思った。
私のスワローテイルも強化したい。
勲功ポイントを貯めようかな?
そういえば――もうすぐPvP大会があるらしくて、その商品が機体改造――それも自分でカスタム内容を決められる、オリジナルカスタム権だって訊いた。
どんなオリジナルカスタムでも無料で行ってくれるって。しかも要望すれば設計までしてくれるらしい。
これに参加してみようかな。
でも、チーム戦らしいから仲間を集めないと駄目なんだけど。
(――無理だな)
私は、早々に諦める事にした。
『もっと貴女の飛び方を見ていたいです』
「―――わたしも、貴女と飛んでいたい」
シミュレーターが終わったら、このアリスとはもう会えないのか・・・寂しいな。
こうして護衛を減らし、アンティキティラをみんなで集中砲火。
20層のボスはガラスみたいになって砕けました。
――これアカキバって人は弾丸をあんまり当てられてなかったから、一年半前は多分ほぼマイルズって人だけでクリアしたんだろうな。
マイルズって人、どんな人なんだろう。
シミュレーターとはいえ、見ず知らずの人に通信を入れる勇気はないけども。
アリスが私の隣に飛んでくる。
みんなのバーサスフレームが、消えていく。
どうやらシミュレーターも終わりかな。
私はアリスの方を見た。彼女ともこれでお別れだ。
すると、アリスの機体もこっちを見ていた。
通信が入る。
ウィンドウに映った、アリスと目が合う。
『スウさん。私と、きっと100層に行ってくださいね―――楽しみにしてます』
「うん、必ず!」
『はい! 貴女と一緒ならきっと行ける気がしま――』
ここでシミュレーターが終了した。
現実に戻され、私はコックピットのシートに深く腰を掛けた。
「必ず、貴女と行くからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます