一 再会4
「う〜ん、なるほどなぁ。確かに難しい問題だ」
時折、上流市民と下流市民の恋の話は人生の中で耳にしてきた。よくある話と言えばよくある話だが、そのいずれも成功した話を聞いたことがない。駆け落ちの話も聞いたことあるが、トーラの話だとそれも出来そうにない。トーラが身投げしたくなる気持ちが、ほんのちょっとわかった。
「やはり死ぬしかないのです。 希望など無いのですから」
トーラがまた泣き始めた。ラルフが少し慌てて言う。
「あー、そう悲観的になんなって。上流市民と下流市民が結婚出来ないのは仕方ねえ。でもならトーラさんが上流市民になれば問題無いわけだ」
難かしいことはわからない。だが、簡単に考えればそういうことだろう。トーラは少し呆気に取られる。
「何を言ってるのですか。そんなこと出来るわけないじゃないですか」
そして怒り出した。ラルフを強く非難する。
「そうなのか。でも上流市民も最初から上流市民なわけじゃないだろう。何かなる方法は無いのかい」
ラルフは頭を掻きながら聞く。トーラは呆れたようにして答えた。
「いいですか。確かにラルフさんの言うように上流市民になる方法はあります。でもそのためにはまず男でなければなりません」
「男であればいいのかい。なら、俺は男だ。俺を使ってくれ。協力するから」
ラルフはさもなんだ簡単じゃないかと言うようにそう言った。トーラは少し頭を抱えてつけ加える。
「わかりました。ではラルフさんが協力してくれるとします。しかし他にも条件があります。上流市民になるにはたくさんの土地とお金も必要なのです。そんなものがどこにありますか」
「金か。金はたしかねぇな。でも土地はある。これでもこの山の半分は俺のもんだ」
トーラはそれを聞いてびっくりする。この半分と言うと相当な広さの土地だ。
「山の半分も・・・・・・」
「本当だ、証明書もあるぞ。国からお達しが来てる」
そう言ってラルフは紙を持ってくると、確かにそこには国の名前で山の半分がラルフのものであることが書かれているのだった。
「あとは金、金の稼ぎ方がわかればな」
ラルフがそう言って考える。実はトーラの家は金貸しをやっていたため、当てがないわけではなかったし、 トーラもお金の流れについては詳しいのだった。
「待って下さい。ちょっと待って下さい」
「ん。何だ」
トーラは少し出来そうな気がしてしまう。しかし一度立ち止まる。
「あなたが上流市民になったとしても、私がならなくては意味がありません」
「なら、結婚するか」
ラルフが簡単に言う。
「な、何を馬鹿な事を。私はプルト様と結婚したいのです」
ラルフもなかなか良い意見を出したと思うが、こればっかりは自分が正しいとトーラは思った。
「それなんだけどよ。それでもプルトってのは結婚しちまったんだろ。ならトーラさんが結婚して上流市民になっても、何か方法があると思うんだ」
トーラはわけがわからないと思った。
「どういう事ですか」
「確認だけどよ、プルトさんもトーラさんのこと大好きなんだよな」
「ええ、もちろんです」
トーラは自信を持って答えた。
「ならプルトさんも不本意な結婚なわけだ。なら交換にも応じてくれるよ」
「交換」
「トーラさんとその相手を交換するのさ」
ラルフは何やら自信あり気な様子だ。しかしトーラは一向に理解出来ていなかった。
「ごめんなさい。 よくわからないわ」
「え~と、だからつまり、まず俺とトーラさんが結婚するだろ。で、頑張って上流市民になる。で、プルトさんのところ行くだろ。で、プルトさんの嫁さんとトーラさんを交換するってことだ。そうすれば一緒に住めるだろ」
ラルフはかなりめちゃくちゃなことを言っているが、少し面白そうだな、とトーラは思った。
「トーラさんはプルトさんと一緒にいたいんだろ。結婚じゃなくてもいいはずだ。結婚したのと同じならそれでいいだろ。プルトさんもきっとそうだ。どうせ結婚しちまったんだし、それしか方法ないんじゃないか」
こうしてラルフの理屈を聞くと、それなりに筋は通っているなとトーラは思った。
「でも、それが仮に出来たとして上流市民になるには子どもも必要よ」
トーラとしては引っかかるところだ。この身の全てはプルトに捧げたい。
「そんなのも必要なのか」
ラルフは少し考えた。
「ただまあ、必要なら仕方ねえな。子どもはもう一回産んじまってるんだ。腹括るしかないだろ」
ラルフは言い切った。それでトーラも少し決心がつく、結局こうなったら何を取るかなのだ。プルトとの暮らしを手に入れる。それ以外は望まない。そういうことだ。
「もう一つあります」
トーラは静かに言った。
「何だ、まだあるのかい」
ラルフもそろそろ困ってきたのか、眉間に皺が寄ってしまう。
「ええ、あなたの口調。それも直す必要があると思います」
トーラはきっぱりと言った。もう歯車は動き出している。
「はは、それが一番困ったな。時間が掛りそうだ」
ラルフは笑って応えた。
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