第9話 スキルゴミ、いけるやん!


 古くてカチカチになった黒パンが、ふんわりもちもちの焼きたてパンに大変身。


 わたしの目の前で起きた不思議な現象。

 昨日は一晩中頭をひねって、なぜそんなことが起きたのか考えていた。


 そしてわたしが出した結論。

 


「やっぱり……スキルの力……だよね……?」



 わたしの授かった正体不明のスキル《ゴミ》。

 そのスキルが作用したとしか考えられないのだ。


 とすればだよ。

 この現象は、わたしの授かったスキルの能力を解き明かす重大な足がかりになる。


「カチカチになったパンを一瞬でふわふわにする能力ってこと……? パン屋さんでは役に立ちそうだけど……でも、なんか違うような」


 もっと自分の能力を俯瞰フカンして考えるべきかもしれない。


 スキル名、ゴミ。

 名前からしてきっとゴミに関係する力なんだと思う。


 そして昨日の黒パンはゴミ箱から拾ってきたモノだった。

 まさにゴミに他ならないじゃないか。


 ということはわたしのスキルはゴミに作用した。

 ゴミとして捨てられたカチカチのパン。

 それがふわふわの焼きたてに戻った。

 

 ということはわたしのスキルはゴミを……

 

 


「リサイクル……?」

 


 導き出したひとつの可能性。

 わたしはそのフレーズを口にした。


 そのフレーズは前世ではよく耳にする言葉だった。


 ゴミの再利用リサイクル


 もしかしたら、それがわたしの授かったスキル《ゴミ》の正体かもしれない。


 わたしはいてもいられなくなって、すっくと立ち上がる。


「確かめなくちゃ!」


 わたしは街中へと走り出した。


 ***


 その後わたしはリーフダム中の方々を駆けずり回った。

 街角。

 路地裏。

 公園。

 目当ては各地に設置してあるゴミ箱だ。

 ゴミ箱の中身を片っ端から確認して、いろんな種類のゴミを集めていく。


 途中、みちゆく人から可哀想な人を見るような、あわれみの視線を向けられるけど、でもそんなの関係ない!


 そうしてわたしは両手いっぱいのゴミを抱えて、水道橋まで戻ってきた。


 回収したのは、

 リンゴの芯、

 空になったミルク缶、

 錆びた包丁、

 ボロボロになった毛布、

 壊れて動かなくなった懐中時計、

 大穴が開いて使い物になったカバン……などなど。

 

 生ごみから燃えるごみ、不燃ごみなど、幅広く取り揃えてみました。


 わたしは、それら戦利品を並べて腕くみする。

 

 わたしの予想が正しければ、これらのゴミはわたしのスキル《ゴミ》の効果で、新品としてリサイクルされるはずだ。


「……よし!」


 わたしはゆっくりと腕組していた手をほどいた。

 両手で目の前のゴミを拾い上げる。

 まずはリンゴの芯を対象にすることにした。


「いくぞ……!」


 意識をリンゴの芯に集中。

 元通りのおいしそうなリンゴに戻るイメージを強く持つ。


 イメージははっきり固まった!


「我が意に応じよ! 世界の契約に応じて、汝、その価値を示せッ!」


 せっかくなので、スキルの発動っぽく詠唱をしてみることにした。

 ちなみにこの詠唱は異世界転生した直後から、スキルを授かったその日に備えて、ずっと考えていたモノだ。


 どう? めっちゃかっこよくない?


 だけど……


 しーん。


 リンゴの芯にはなんの変化も起こらない。

 芯だけにしーんとかつまらないシャレを言うつもりもない。


「あれ、おかしいな……詠唱が違うのかな。それともポージングに問題が……?」


 そう、ここにきてハードルがまたひとつわたしの前に立ちはだかる。

 星辰の儀ステラ・ライツを中途半端に終わらせてしまったせいで、スキル発動条件がわからないのだ。


「大丈夫。時間はたっぷりあるんだ。色々な詠唱を試せばきっと……!」


 わたしの試行錯誤が始まった。


「ビューティー☆プリティー☆ソサエティー!」


「いえあ! いえあ! くとぅるふ・わたぐぁ!」


「S・D・Gs! S・D・Gs!」


「ケアルガ! ベホイミ!! メディアラハン!!」



 時に情熱的に。

 時に沈着冷静に。

 色々なポージングを取り入れながら、何回もスキルの行使を試みる。


 だけどわたしの目の前に置かれたリンゴの芯には何の変化も起きない。

 時間だけいたずらに過ぎていった。


「あーダメ! もーダメ! 全然だめー!! あーん、わたしのスキルの発動条件ってなんなのよ、ンもー!!」


 わたしはゴロンと大の字になる。

 水道橋の向こう側、イヤミなくらいの青空が視界に写った。


「あとちょっとなんだけどなぁ……」


 わたしの予想が正しくて、スキル《ゴミ》がゴミをリサイクルする能力だとしたら。

 そうとう便利な能力だ。


 だってそうでしょ?

 人が生きていくかぎり、必ずゴミは発生するもの。

 社会生活とゴミは切っても切り離せない。

 剣と魔法のファンタジー世界でもそれは同じはず。


 それをわたしは再利用リサイクルできる。

 この世界でわたしだけがゴミに価値を与えることができるんだ。


 生ごみを再利用すれば食べ物に困ることはないだろうし、不用品を直して売りつければ元手タダでお金を稼ぐことだってできるよね。


 これまで踏んだり蹴ったりだった自分の人生。

 それが明るく開けていくかもしれないんだ。


「絶対あきらめない……! スキルの使用条件を突き止めてやる!」


 気合を入れなおして、わたしは体を起こす。

 ふたたびリンゴの芯を拾い上げた。


 と、そのとき。


「ねーねー、ママー。あそこ見てー! 変な人がいるよー!」


 そばを通りがかかった親子の会話が耳に入ってきた。


「あの人変なんだよー! さっきからゴミを並べておかしなポーズをとってブツブツ独り言をいってるのー! 変なのー!」

「シッ! 見ちゃいけません!」

「なんでゴミで遊んでるのかな〜?」


 そんな親子の声に、わたしは反射的に突っ込んでしまう。



 その瞬間――


「え?」


 パアアアアッ――!


 リンゴの芯が光り輝く。


「わっ! わっ! わっ……!!」


 その輝きの後、わたしの目に映ったのは、まんまる真っ赤に熟したおいしそうなリンゴだった。


「き、きたああああ!」


 わたしは興奮のあまり大声で叫びながらガッツポーズ。

 視界の隅ではさっきの子どもが血相を変えた母親に連れされていく姿が見えた。


 だけどそんなの全然気にならない!


 これだ!

 これだよ!

 これがスキル発動の条件!

 絶対に間違いないよ!



「ゴミじゃない――!」

 


 そのキーフレーズを口にする。

 わたしはついにスキル《ゴミ》の発動条件にたどり着いたのだった。


 



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 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

 性別/女

 称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐、ホームレス

 好き/クー、食べもの全般

 嫌い/虫

 スキル/ゴミ《効果》ゴミをリサイクルする能力←new!

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