第4話 沙也加は想いを秘めている

「私彩音嫌い」

 突然意味の分からないことを言い始める。何を言ってるんだ? ここで言うことでもないし、聞きたくもない。

 俺はこんな話を聞くために遊んでいるんじゃない。

「なに言ってるんだよ?」

「だって、裕也もそう思うでしょ? なんか自分がこの世で一番綺麗ですよーみたいなアピールきつすぎて嫌い」

 沙也加は悪口を言い始める。

 何を語ってるんだ? まだ知り合って二日目で何を知れるんだよ。まして仲良くもないし、ちゃんと話したこともないだろ。

 それなのにどうしてこうも、こんな酷いことが言えるんだよ。

「本当にそう思っているのか?」

「そうだよ、裕也もそう思うでしょ」

「沙也加、君は間違っているよ」

「何が?」

「全部だよ」

「だって、彩音ってあんまり愛嬌もないし話しててつまらいないじゃん」

「誘ったのも、彩音の悪口を聞いてもらうためか?」

「そうだよ、裕也は隣の席だから共感してもらえるかなって思って誘ったの」

 そうか、そうだったのかよ。くだらない。

「もう、帰るよ」

「え?」

「じゃあ、明日」

 俺はそれだけを言い、立ち上がり歩き始める。

 なんも楽しくない。

 太陽は沈み、俺の心も完全に沈んでいた。

 沙也加は間違ってるよ。そう思いながら家に向かって歩き始めた。



 ※沙也加視点

 裕也がいなくなってから、もう十分以上が経過していた。

 私何も間違ったこと言ってないよ。

 だって、愛嬌ない人とかつまらないじゃん。

 それに、私が一番綺麗ですよーアピールとか絶対にしてるし。

 さっき撮った写真を眺める。

 裕也ならわかってくれると思ったんだけどな。

 でも、裕也はきっと忘れているんだろうな。

 私も変わったのに、なんで気付いてくれないのかな。

 風が吹き、髪が私の視界を邪魔する。今日のために整えた前髪が崩れていく。

 もー私ってバカ。本当にバカ。バカ、バカ。

 自分に言い聞かせる。

 私のことを気付いてくれなくて八つ当たりしたんだ、それに、あんなに綺麗な人が隣に居たらきっと裕也は彩音を好きになってしまうから。

 なんであんなこと言ったんだろう。

 昔の頃を思い出す。小学生の時結婚しようって約束したのに。

 風の音がうるさく感じて、足音が聞こえてくる。走ってる足音が。

 その足音は、私の前で止まる。

 「観覧車乗るぞ」

 私の手を握り引っ張る。

「どうしているの?」

「なんとなく」

 あの時を思い出す。

 あの日私の手を握ってくれたあの日を。

 やっぱり私のヒーロだ。



 ※裕也視点

 沙也加は間違っている、だってまだ知り合って二日でその人の何がわかるんだよ。

 遊園地を出てから十分以上経っていた。

 だいたい、悪口を聞くために来たわけじゃない。

 けど、沙也加は悪口を言うために俺を誘ってきた。なんだよそれ、俺だけが浮かれていたやん。

 てか、悪口いうだけなら遊園地の意味ないじゃん。

 少し違和感を覚える。

 彩音より、俺の方が愛嬌なさそうじゃね。

 それに、俺じゃなくて友達に言えばいいだろ。

 お化け屋敷での沙也加を思い出す。楽しそうにしていて、ずっと笑っていた。

 それに、クレープを美味しそうに食べていて、幸せそうだった。

 そんな彼女が、突然悪口を言い始めた。

 なんかおかしいよな。

 それにデートも急だったし。俺の写真も撮っていたし。

 もしかしたら過去にいやな体験したのかもしれない。

 はあ。俺も感情的になっていたな。

 スマホで時刻を確認する。

 19時30分。外も完全に暗くなっている。

 危ないよな。

 俺は遊園地に向かって走り始める。

 沙也加はまだ座っていた。頭の中で考える。こういう時なんて言うのが正解なんだ。

 ふと、観覧車に目が行く。

 そして沙也加の前で、止まり俺は言う。

「観覧車乗るぞ」

 俺は沙也加の手を握り引っ張る。

「どうしているの」

 後悔している顔をする。

「なんとなく」

 沙也加は立ち上がり、一緒に歩き始める。

 そして、今まで一番の笑顔で言う。

「ありがと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る