第二十三話【済】
決闘祭三日目。ついにアンリーナの番が訪れた。
「次、163番!」
「よし……」
(作戦通りに。まず――)
司会の声を聞きアンリーナは観客席から会場へと向かった。透明化しているシロコ気配を背後から感じ、アンリーナはシロコに向かって心の中で言葉を出す。以前話し合って決めた決闘に勝つための作戦を。
三日間アンリーナは様々な生徒&召喚獣同士の決闘を見た。そしてアンリーナが番が来るまでの三日間、下位の生徒は誰も上位の生徒に勝つことはなかった。相手との力、知恵の差があって勝てない。瞬殺される。ぎりぎりまで追いつめたものの負けてしまう――そんな光景ばかりであった。アンリーナはそんな光景を見て「勿体ないなァ」と思った。折角召喚獣という戦力がいるのだから上手く扱えばいいものを。そうアンリーナは負けた下位の生徒達を見て残念に思った。使えるモノはなんであろうと使えばいいのに、使える状況なのに使わない――勝ち上がる気がないんじゃね? と思わざるを得ない光景でもあった。
(俺の開いては、あいつかァ)
待機室から会場に入ったアンリーナの視線の先に、同じく会場に入ってきている男子生徒の姿が映った。男子生徒はアンリーナの姿を品定めをするかのようにじろじろと見て、挑発的な顔を浮かべる。
「お前が俺の対戦相手か、精々俺の勝利に貢献しろよ?」
「……それは出来ません。私はこの決闘に勝たなければいけませんから」
「ハッ、言ってろ」
(傲慢な態度だな。さては雑魚、だなァ?)
男子生徒の自慢げな表情にアンリーナは心の中で見下した。傲慢な態度を取るということはアンリーナを瞬殺できる自信があるということ。アンリーナは思う。自信満々なこの男の心を敗北という絶望で壊してしまえばどんな表情を、感情を見せるのだろうか――それを自らの手で壊すことが出来るのはなんと快感なものか。
男子生徒のこれから起きるであろうことに愉悦しながらアンリーナと男子生は初期位置に着く。瞬間、司会の声が決闘エリア全体に響き渡る。
「これよりC組――――と、E組アンリーナ・イルヴィアの決闘を開始する!! 3——2——」
(戦闘経験の差、見せてやるよ。さぁ――絶望しろ!)
「——1————始め!!!!」
観客席からの歓声と開始の合図が会場まで響き渡った。その合と共に男性生徒は自身の召喚獣の透明化を解除させる。
召喚獣の姿を隠す為の透明化、透明化中は本人(召喚主)以外は召喚獣の気配を探れず、正体を知ることも出来ない。――つまり、決闘祭では誰も彼も初見時は相手がどんな召喚獣を持っているのか知ることは出来ない。常日頃から召喚獣を出している者以外は。
「いけ!!! 『サイクロプス!!』 あの女を叩き潰せ!!!」
「う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
透明化が解除され男子生徒のそばに一つ目の巨人『サイクロプス』が姿を現した。男子生徒の命令にサイクロプスは高らかな雄たけびを上げ、召喚主の命令通りアンリーナを叩き潰そうと一直線に向かってくる。
(叩き潰せねェ? そんなことしたら死んじゃうなァ。ま、ギリギリの所でとめるんだろうな。恐怖させ降参させるのが目的と見た――まァそんなモンで俺を止められると思うなよ?)
「シロコ、行きなさい」
「はぁい! ご主人様の仰せのままに!!!」
「『accélération(加速)!』」
迫ってくるサイクロプスに怖気づくことも動揺することもなく、アンリーナは冷静にいつも通りの日常を歩むような精神状態でシロコの透明化を解除させ、自身とシロコに加速魔法を付与し共に男子生徒の元へ走る。
「やっちまえ!! サイクロプス!!!」
「遅い」
「駄目な召喚主ですね~! 魔法をかけて援護してあげないと——ほーら」
「っな、もう——!!?」
男子生徒は余裕に満ちた顔でサイクロプスに迫ってくる二人を潰すように応援した。サイクロプスも召喚主の願いを叶えてやろうとするが、二人はサイクロプスの合間を抜けて行ってしまう。図体が大きいせいで素早い動きが出来ず、かつ召喚主からの援護もないサイクロプスは自身の合間を抜けていった二人に対しなんの行動も起こせず、見逃してしまった。――図体が大きいものには自分達に加速魔法をかけ、一気に主を叩く。アンリーナの案である一つ目の作戦が見事初回で刺さることになった。そして二人は男子生徒の目の前まで接近し、余裕に満ちた顔から呆然とする顔に変化した男子生徒を見て満面の笑みをアンリーナは浮かべる。
「手加減してくれて、ありがとうございます♡」
(ざぁこ)
「おやすみなさ~い!!」
「ぐぁっ――!! …………ぐふ……」
満面の笑みで、アンリーナとシロコは男子生徒の腹に飛び蹴りをした――加速魔法をかけた状態で。男子生徒はそこそこな距離まで吹っ飛び地面に体を激突させた。その光景を目撃したサイクロプスはおろおろと動揺した様子を見せ、自身の巨大な両手を視界に入れ、自分ではな主人に対し何もできない、むしろ握り潰してしまうとでも判断したのか黙って自らを透明化した。
(あーあ、ミィンナ黙っちゃった)
アンリーナとシロコが男子生徒と飛び蹴りした後、騒がしかった観客の声がピタリと停止した。決闘の勝敗を宣言する司会の声も、まだ聞こえない。静寂に包まれている決闘エリアで、アンリーナは司会がいる教員専用観客席に顔を向ける。
「ねぇ、彼動けないみたいだけど」
「………ハッ!? しょ、勝者、あ、アンリーナ・イルヴィア!!!」
下位の生徒であるアンリーナが並みに位置する生徒を倒したことがよっぽど衝撃だったのか、アンリーナが声をかけるまで司会はなんの行動をも起こすことはなく、アンリーナの声を聞いてから動揺した声で決闘終了の宣言をした。それと共に静寂に包まれていた決闘エリア全体に大絶叫が響き渡る。
「は、ハァ!!!? どうなってんだアレ!!」
「う、そ、もう終わり!!? 嘘でしょ!?」
「なんだよ、アレ、召喚獣と協力して、あんな……一瞬で……」
(ははっ、あぁ、気分がいいな!!)
アンリーナの行動に観客にいる生徒達は大混乱に陥っていた。会場にいるアンリーナまで聞こえるその混乱具合に、アンリーナは歓喜に体を震わせた。そのまま大混乱に陥っている生徒達をBGMにしながらアンリーナは会場から待機室へと向かった。背後では気絶した男子生徒が担架で運ばれ、アンリーナ同様会場から去って行った。
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