14

 血を分けてしまった。同じ場所で育ってしまった。好意を持つことが義務だとは思わない。でも、どうしようもない義理はあると思う。

 「……あなたの弟も、多分、そうだよ。」

 なにも考えていないみたいな、ただ端正な顔で煙草を吸う男は、俺が半分無意識みたいに発した言葉を聞いて、ちょっとだけ首を傾げた。そして、首を傾げた自分をあざ笑うみたいに、薄い唇をわずかに歪めた。その表情は、うつくしい顔立ちも相まって、ひどく酷薄なものに感じられた。

 「まさか。うちのはもう少し賢かったよ。」

 「賢い?」

 訊き返しても、男は軽く肩をすくめただけで、そこから先を語ろうとはしなかった。俺は男のさっきの言葉を反芻して、男の弟について、少し考えてみる。

 俺の弟は、そうしてるよ。

 男は確かに、そう言って笑った。

 康一が望むようにしてやればいいのに、という台詞の後で。ならば、この男は、一体なにを弟に望んだのだろうか。

 「……俺が亜美花さんと上手くいって、それで幸せみたいな感じになったら、兄貴は喜ぶってこと?」

 一言一言を確かめながら口にした言葉。男ははっきりと頷いた。

 「康一の一番は、いつもコースケだったからね。」

 まただ、と思った。亜美花さんが言ったのと、同じ内容。兄貴の一番が、俺。そんな素振りを兄貴から感じたことはなかったのに。

 「……あんたの一番も、弟だったってこと?」

 混乱しながらその言葉を口にして、あれ、ちょっと意味ちがったかな、と首をひねったところで、男が平然と頷いた。

 「まあ、俺は弟と寝たけどね。」

 俺は言葉の意味が理解できずに、男の白い顔を見つめた。男も俺の目をはっきりと見つめ返してきた。意志があるようなないような、曖昧な視線だった。切れ長の両目の形もひどくうつくしくて、そのうつくしさが彼の全て覆い隠しているような気がした。こんなにきれいじゃなければこのひとは、こんなに鬱屈とした目をしないですんだのかもしれない。俺は、彼を見ながら兄貴のことを思い出していた。俺と似た、大してうつくしくもなければ醜くもない兄貴の顔。

 「……なんで?」

 辛うじてその三文字だけを吐き出した。それ以上は言葉が見つからなくて。すると男はソファの背もたれから背中を起こし、珈琲の缶の中に煙草の燃えさしを押し込むと、次の煙草に火をつけた。その一連の動作には、露ほども動揺の色はなかった。


 

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