第4話
「こんばんはスミロドン氏!」
「こんばんはすg……ツラスギー氏!」
「身バレは厳禁ぞ?」
夜、澄華はツラスギー氏、もとい杉田とオンラインゲーム『モンスターファンタジア』をDiscordで通話しながらプレイしていた。ゲーム好きの二人が今一番ハマっているゲームである。
「というかツラスギー氏!またアバターの服変わってる!」
「ふっふふ!今開催中のイベントで手に入れた、『恐怖のうさ耳ナース』だとも!」
「似合わない!」
杉田の使うアバターは、逆三角のムキムキボディを持つイケおじ。澄華の方は猫の耳としっぽを持つ獣人だ。
「あれ?半コック氏は?」
「今日は遅れると連絡があった。だから、スミロドン氏と先にクエスト周回をしようと思っておる。」
杉田はオンラインゲームに詳しく、そこで知り合った友達も多い。半コックというのもその一人だ。名前の由来は、料理が趣味だが、腕前が半人前だから半コック。
「スミロドン氏、お前もオフ会に行かないか?半コック氏は良い奴だぞう。」
「い、いやあ、まだ怖いよ……。ゲーム内ですらコミュ障なのに。」
杉田は半コックとオフ会で会った事があるらしい。澄華もどんな人か気になってはいるが、会う勇気は無い。かといって、自分だけ杉田から聞きだして一方的に相手の情報を得るのも失礼だと思い、聞かずにいる。
『こんばんは~!』
「おお!噂をすれば!」
チャット欄に半コックの言葉と、「ごめ~ん!」と言いながら走るキャラクターのスタンプが表示される。そして、画面内にコック姿の小さなリスのアバターが現れた。その手には、不釣り合いなほどデカイ血まみれの注射器。
『ちょwww半コック氏の武器www注射器真っ赤じゃんwww』
半コックが来たので、杉田が通話を切ってチャットに切り替えた。
『いいでしょーwww今日も可愛いヴァイオレンスリスに最適!』
今日も可愛いヴァイオレンスリス、というのが半コックの決め台詞。ちなみに杉田には「歌って踊れる胸筋ジジイ」、澄華には「つよかわぬこガール」という台詞をくれた。
『半コック氏。その注射もイベント限定?』
『そうだよー。近接武器だから、スミロドンさんのアバターとも相性いいよ。今日早速取りに行こうね。』
『ありがたい~。今日もキャリー、よろしくお願いするであります。』
澄華はまだまだこのゲームに慣れていないので、二人にキャリーしてもらう、つまりプレーは二人に任せ、自分は付いていくだけの事が多い。
『始めて二か月でイベントの初級行けるの凄いよー。アクションゲー苦手って言ってたけど、凄い上手だと思うー。』
『そ、そんな。恐縮であります。』
『半コック氏はそうやって褒めて育てるタイプだからな。気を付けろよスミロドン氏、クセになるぞ。私もそうだった。』
半コックは杉田よりもこのゲーム歴が長い。その半コックからすれば、澄華のプレーは拙いに違いないのだが、『あー今の攻撃上手―!』とか、『回復助かるよー。』とか、必ず褒めてくれる。敵をギッタンギッタンにしながらチャットを打つ様子は、凄いを通り越して怖いまである。
『ツラスギー氏、人聞き悪いよー。スミロドン氏が上手なのは本当だから。ゲーム沼に沈めたいのもホントだけどねー☆』
という半コックの返事が出ると同時に、半コックのアバターがくるりと回ってピースする。一挙一動が可愛い人だなと澄華は思う。
『ところで二人は、今夜日付変わるまで居る?』
澄華が尋ねる。
『モチのロンだぞスミロドン氏。手元には非常食のカロリーメイトを常備だ。』
『自分もー!今日は罪悪感ゼロのおからクッキー☆』
「さすが半コック氏。」
澄華は思わず声を出す。半コックはゲームのお供にいつも自作のお菓子を持ってくるのだ。
『スミロドン氏は?ちゃんとおやつ持ってる?』
『うん。今日はグラブジャムン?というものを用意しました。』
『えー、凄い!外国のお菓子だよね。スミロドン氏、それどこで手に入れたの―?』
半コックからの質問に、澄華は言葉に詰まった。実際に手元にあるのは充菓器。グラブジャムンも、勿論初体験だ。
『それはコーヒー必須だぞ。なんせ世界で一番甘い菓子だ。急ぎ用意するがいい、あと五分でイベントのボーナスタイムだ。』
「世界一甘い!?」
杉田の言葉に不安になった澄華は、忠告通り急いでコーヒーを用意。
『お待たせしましたであります!』
『大丈夫よー、じゃ、早速行ってみよー☆』
半コックの合図と共に、三人はクエストに出発した。
そして、初体験のグラブジャムンは―
「ヴぉっ。」
とてつもなく甘かった。
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