第221話 真意

「結局のところ、自分で統治するのは面倒だけど自分の思い通りに行かなかったら気分悪いからここに来てるんだよな。というわけで今後の方針でも聞かせて」

「自分で統治するのが面倒なら、異世界側はどうしてるんだ?」

「枠組みだけ渡してほぼリーシャに任せてる。たまにどうしようか考えているけどまだ特に何もしていないな」

「……そうか、究極的にはニートだなお前?」

「そこはもうどうでもいいから早く今後の方針聞かせてよ」


渋谷のやべー奴の本拠地に乗り込み、今後の方針を聞き出すけど将来的には民主制を廃止するとかまあまあ凄いこと言ってる。ダンジョンマスターは子に受け継がれるから、貴族みたいな存在にすれば良いだろうという判断かな。


政教分離ならぬ政民分離も行っていくとのこと。政治について教育を受けた人材でなければ投票権も与えられないとか民主制の完全な廃止とほぼ同義だな。


「大学の共通テストと似た難易度で7教科21科目を95%以上だった者に合格率5%想定の選挙権獲得試験の受験資格を与えるって数百人程度の選挙になりそうだな?」

「王を決める投票なんだからそれで良いだろ。むしろそうなってない方がおかしいんたよ。

……お前はダンジョンマスターになる前、何をしてた?」

「……工場の派遣だったよ。肉体労働ではあったけど、機械を動かすだけだったしそれなりに賃金は良かった。そっちは?」

「ダムの監視。ほぼ夜勤で毎日寝てるだけだった」

「うわ羨ましい奴だ!」


唐突にダンジョンマスターになる前のことを聞いて来た渋谷のやべー奴だったが、ダムの監視って聞いただけでもそんなに忙しい仕事じゃなさそうだな。それでも実際には大変なのかなと思ったが、毎日寝てたそうなのでやっぱり暇だったっぽい。


で、ここからが本題だけど渋谷のやべー奴はそれなりに良い高校を卒業し、大学も推薦で良い所に行っている。ただ、その後新卒で入った会社がブラックだったから逃げたと。……そして行き着いた先が、単純作業しかないダムの監視員。安定した給料と休日があり、仕事時間を睡眠時間にすることが出来たために日々の生活は爆上がりしたらしいが、この時期から日本の体制には不満があったようだ。


別にエリート意識があったわけではない。ただそれでも、現行の教育は過剰なのではないかと。……どこの会社も省人化を推し進めた結果、欲しいのは多機能でマルチタスクが出来て長く勤めてくれる新人。それに応えるべく大量の大学が出来たことが不幸の始まりではないかと。そんな感じの不満を持っていたってことだな。根っこの部分は似てるわ。


「……まあその辺は女性の社会進出の結果、会社の新卒枠の奪い合いが起きたのと被るな。だから女性の優遇措置を悉く辞めたのか」

「それもある。ただ日本の停滞の最大の理由は、投票権を持っているだけの、政治の関心のない一般国民があまりにも多すぎたからだ」

「お、衰退とは言わず停滞って言うのは好きだよ。……そんでもって、自分は政治が分かってると思ってる馬鹿が多いことにも同意する」

「一応言っておくが、お前も俺もその類の人間だという自覚はあるな?今の所こっちはそれなりに成功してるし、そっちも異世界側で上手いことやれているんだろうが」


政治に正解はない。そんなことをマルチTVで語っていた渋谷のやべー奴だから、今の言葉は自他含めて全員が政治をわかっていないということだろう。〇〇したら〇〇になる!というフレーズは全て詐欺師のセリフだ。別の国での前例を出されたとして、日本でそれが正解かどうかは実際にやってみないとわからない。気候経済規模人種税率宗教文化社会保障人口比率国家形態何から何まで同じ国なんて無いからだ。


消費税を下げたら経済が回って好景気になる?企業がこれ幸いと消費税分だけ値上げして、税収が減った分だけ社会保障や公共事業が減って失業者が増えるかもしれないのに?農家の支援金を増やすことで農業従事者を増やす?やってるフリだけの農家が大量発生したらどうするの?一次産業でちゃんとやってるか否かの審査出来んの?


……まあ現状、大鉈を振るいまくって日本という国を1回ミンチにした渋谷のやべー奴が未だにトップを勤めている時点でコイツは今後も正解を引き続けるだろう。


懸念点はダンジョンマスター達がずっと大人しくしている保証がないというか何なら1ヶ月後には造反する輩すら出てくるけど、この感じなら上手く対処できるんじゃないか?避難地区が燃えた直後は渋谷のやべー奴の求心力も落ちたなと思ったが、なんかその後普通に求心力回復させそうな気がする。

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