第76話 監禁ライフ


「入れ!!妙なマネはするなよ!!」


ガチャン


俺は石造りの牢屋にブチ込まれていた。檻は鉄格子。両手もロープで縛られて、荷物も没収されてしまった。どうしてこうなった。あの場で暴れるのは得策でないと感じた俺は、ホイホイと大人しく着いてきてしまったワケだが・・・。これから俺の処遇はどうなっちまうんだよ。



「なあ、約束してくれたじゃないか。危害は加えないって。俺、マジで悪いヤツじゃないぜ?」



「貴様の素性は知らん、あの木に傷を付けたのが問題なのだ。審問官が来るまで大人しくしているように」




木?ああ、そういうことか。日本でもご神木とか、大切に扱われている木というものはある。転移には失敗するし、よりにもよってコミュニティにとって大事なモノに傷を付けてしまうとは・・・マジやべえよカオスゲート。え~、星1評価です!




あ~あ、まあ別にそこまで乱暴なコトはされてないし。審問官とやらが来るまではガマンしてやるか。もしかしたら”見通す眼”を持っているエルフが来るかもしれない。そうなったら俺の色々な疑惑も晴れるだろうよ。



それまでは、どうしようかな。

もしもの時のために脱出経路の確認でもするか。ここまで連行されている間に、建物は一つも見えなかった。ただの森の真ん中にこの牢屋はある。見張りの着いた洞窟のような場所に入ってすぐ、土と石でできた階段を降りた地下一階。それが現在位置だ。



例えば、”落石”での脱出を謀った場合どうなるだろう。



パターンは3つ考えられる。まずはシンプルに目の前の廊下に転移するパターン。建物の外には出られないが、一番簡単に檻から出られるし確実。見張りをブン殴って荷物も回収できる。なお、見張りがクソ強かったらお終い。



次に、試したことも無いムリっぽい線。先ほど連行中に見た外の景色の「記憶」を元に、なんか知らんが外に転移できる可能性はないだろうか。目標座標の肉眼での視認が条件なのではなく、ようは転移先のイメージができているか?みたいな事が発動条件だったら。一応やってみる価値はある。外には出れるが、荷物は回収できない。戦闘は回避できるが、脱獄がバレるのは時間の問題。



最後に、ゴリ押し脱出パターン。これは天井の石を”落石”の素材にして、魔力で削り取るという作戦。石の部分が終わったら、次は土を”装土”の素材にすることで同様にに掘り進めることが出来る。これも外には出られるが、荷物が回収できない。ほとんどパターン2と一緒。



考えてみてなんだけど、荷物はできれば回収してえ。相棒のナイフ、デカカバン。食料など。どれも手放したくないモノだ。滅多なコトが無い限り、パターン1で見張りと戦う事になりそうだ。



両手に巻かれてるロープだって、木から脱出した時の要領で”装石”で手首周りを肥大化させれば千切れるだろうな。



なんだ、脱獄自体は全然可能そうじゃないか。ただ、この辺のエルフを完全に怒らせそうな気配はするけどな。だから、まだ脱獄はしない。



ここは平和的解決を目指そう。まだそこまで理不尽なコトは起こっていない。日本の生活で言う、警察の職務質問に付き合ってあげている時みたいなモンだ。



そう考えると心も落ち着く。俺はゴロリと寝転がり、鼻歌を歌い始めた。

ン~ラララ~ン~。しばらくすると気分もノってくる。ヒマなのも相まって、俺は本意気で歌い始めてしまう。俺が生まれる前の昭和のアニメ。デビ〇マンのテーマだ。なんか知らんが好きなんだよな、この歌。



絶唱。牢屋の反響もあって歌い心地が良かった。

フウ、俺が歌い終わるとなんと・・・パチパチと拍手が聞こえてくる!地上にいる見張りのものではない、まさか隣の房か?恥ずかし!!!



「それ、どこの国の歌だ?ほとんど何言ってるのか分からんかったが、男気のあるイイ歌だな。もっと歌ってくれよ」



やはり隣に誰かいるらしい。牢屋だもんな、そりゃ他に誰か捕まってても不思議じゃない。



「・・・いいぜ。ところで俺はゴレムスのネイサン。アンタは?」



「ゴレムス??なんでまたこんなトコに。まあいい。俺はダークエルフのサンザ。俺は音楽が好きなんだ、早く歌ってくれよ」



ダークエルフ、か。創作物の中ではエルフと対立していることが多いもんだが・・・この世界でも敵対関係にあるのだろうか。俺はご希望通り、アツいアニメソングを中心に歌を歌ってやった。サンザは毎度、拍手をしてその曲名はなんだ?などと質問をしてくる。本当に音楽が好きなんだろうな。




「ネイサン、素晴らしいぞ。インスピレーションがバカみたいに湧いてくる。ゴレムスの国にこんな歌があるとは知らなんだ。いつか絶対、お前の国に行くぞ!」



「ああ、あのなサンザ。俺って転生者なのよ。異世界の曲なんだわ。今の全部」



「なんだって!!?クソ、また負けだ・・・」



「負け?何が・・・」



「俺は、以前にも異世界の歌を人づてに聞いたことがある。素晴らしい音色、構成。完璧な歌だった。その頃から俺は、この世界より洗練された音楽を持つお前らの世界に、嫉妬してるのさ。さっきの歌が、この世界のモノだったらと思ってしまうよ」



サンザの声色は結構シリアスだった。そこまで思い詰めるほどなのか。彼は音楽を生業なりわいとしている人なのかもしれんな。



「勝ち負けなんて受け手次第だと思うけどなあ。俺は都市部で作られた最新の音楽でさえも、地方で老人に語り継がれている伝統の曲には”愛され方”って面で敵わないと思うし。音楽の良し悪しなんて、ようはどれだけ記憶の底に残るかって部分だと思うがね」



「記憶だ?・・・まあ、一理ある・・・か」



押し黙るサンザ。それでいい。

俺は地球の何がしを伝来して無双してやろうだとか、そんな気はさらさらない。その土地の独特の風土や、感性からしか生まれないモノだってあるハズだ。それらの発展と維持を邪魔してしまうようなモノなんか俺はいらないと思う。そんな技術や文化の発展なんて、自然破壊みたいなモンだとすら思うから。



「だからさ、さっきの俺の歌を広めようだとか考えたりしないでくれよ。気持ちよく歌っておいてなんだが、その世界にはその世界の良いモノがあるんだって。誇りを持ちなよ」



「ヘッ・・・顔も見えないヤツに説教されちまうとはね。まあでも、そうかもな。新しいモノを作り続けるのは生きる者の使命というか、サガみたいなもんだが・・・なんの馴染みもないモノを作ったトコロで、誰の心にも刺さらないかもしれねえ」



「そうさ。この世界に生きる者にしか書けない歌がある。それはきっと、俺らの世界の歌よりも多くの共感を得るハズさ」



「共感、記憶に残る・・・なるほどね。ハハ、こいつは歌ってもんの真理かもしれねえ。ありがとな、顔も分かんねえゴレムスさんよ。なんだかヤル気になってきた。こんなトコにいつまでもいられねえや」



「いいってことさ。ちなみに、サンザはなんで牢屋に?音楽家かなんかなんだろう?」



「ん?ああ・・・、俺は吟遊詩人バードさ。詩を読んだり、歌を歌っているモンだ。エルフの村でちょっとばかり毒のある曲を披露しちまったのさ。エルフとダークエルフの、真実についての歌だ。コイツがお気に召さなかったようで、俺は嘘つきの扇動者とみなされ・・・投獄ってワケさ」



「異端的な思想だと思われちまったってコトか。エルフとダークエルフの、真実ねえ。一体それは、どんな曲なんだ?どうせ時間もあるんだ、聞かせてくれよ」



「いいだろう!歌のお礼に歌を返す、なんとも詩的ポエミーじゃないか。俺の楽器は没収されちまったが、歌声までは奪えなかった・・・ってね」



彼はなんともキザな台詞と共に、短い歌を歌い始めた。




【萌える木々の中で

深く冷たい土中で

暮らす似た者通し

違うのはその色だけ


愛し合う事ができるのに

なぜ手を振りほどくのか

天と地ほどの差はない

根は土と共にあるだろう


我ら元はおんなじ

同じ神から生まれた

我らは双子の御子

同じ神から生まれた


寄り添い愛を捧げよう

この森

この大地に】




切ない曲調。美しい歌声。歌詞も分かり易い、友愛の歌だ。

なんか、分かってしまったぞ。この世界でのエルフとダークエルフの関係性が。



「サンザ。君たちダークエルフは、エルフから迫害を受けている・・・そういう事なのか?」



「まあな。人にもよるが、何故かエルフは俺たちのコトを一段下等な生き物として見ているようだ。それもこれも、ちょっとした体の違いなんだけどな」



「暮らし方や、肌の色か?」



「そう。俺らは全員、特殊な目を持っていて夜でもすべてが見える。完全な暗視を持っているんだ。その代わり、日の光は眩しすぎて日中は”アジリ”を付けないと活動できん。目を光から守る道具だ。だから主に地下に住んでるんだが、そんな俺らのコトをエルフは”モグラ”呼ばわりしてきやがる。違う神から生まれた、とも言うな」



「さっきの歌では、そこが強調されていたな。同じ神から生まれた。という」



「その通り。この世界には数多の種族がいるもんだが、それぞれが自分の種の”親”と思っている神がいる。お前のようなゴレムスなら石神様。人間なら人神様。ドワーフは父を力神様、母を酒神様だと思っている」



「その親たる神が違うと言われるのは、どんな気持ちなんだ?」



「ハッキリとした、拒絶のような。相容れない寂しさを感じるな。しかし、俺たちダークエルフの伝承では親たる神は同じで、しかも我らは双子の兄だとも言われている。土と木が切り離せないように、我らとエルフは支え合って生きるように、とも」




ここで俺は思い出す。キャラクリのタブレットには、エルフもダークエルフも【古き神を祖先に持つ】種族だと書いてあった。今になって思い返してみると、なぜ神様の名前が書かれていなかったのだろうか。名前が解れば、今自信を持って教えてあげられるというのに。




「お互いに、なんという神の子供だと伝えられているんだ?俺も少しは神に詳しい。教えてくれ」



「俺たちの伝承では恵みの神、サリーヌ様と言われている。しかしエルフの伝承では樹木の神、ストーク様が親たる神とされているんだ。だからこの話はタブーみたいに扱われているのさ・・・」



うっ、どちらも会ったことの無い神様だ。それじゃあ真偽は分からんか・・・?






ここで入り口から足音が聞こえてくる。審問官とやらが到着したのだろうか。もう少しサンザから話を聞きたかったところだが、致し方ない。俺は先に牢屋を出る事になるかもしれん。スマンな。



「ゴレムスよ、前に出よ」



身綺麗な格好のエルフが登場。何やら滅茶苦茶イヤな顏をしているぜ。あれ?最初っから印象が終わってないか・・・?



「貴様に問う。何故我らが神木、ストーク様の挿し木に損壊を与えたのか。そしてもう一つ、貴様は忌々しい”火だるま”や、”モグラ”共の間諜スパイか?慎重に答えよ。貴様の命が掛かっていると思え」




「まずは謝罪します、申し訳ない。混沌の神の御業により、誤ってご神木の中に転移されてしまいました。あれは神の巡礼中に起こった事故なのです。害意はありません。そして、”火だるま”とは何かも分かりません。また、ダークエルフとも繋がりはありません。真偽を確かめるようなスキルがありましたら、どうぞ使用してください」




「スキル、か・・・フン。自信マンマンといったツラだな。良いだろう。私の眼力でお前の言葉を確かめてやる」



良かった。こいつがスキル持ちじゃなかったら面倒な事になっていたぜ。流石は審問官といったところか。



「ムム・・・なるほど、なるほど。ハッハッハ!これは面白い!」



「ん・・・?そ、そうなのです、混沌の神様は自由な方でして・・・ランダムな地点に転移するカオスゲートというモノが」




「黙らんか!!この、嘘つきの不届き者めがあ!!!」



ええ!?


ちょ、なんですのん。俺の疑いは晴れたのでは・・・?



「兵士よ、この者の心を見たが・・・やはり彼奴らのスパイであったわ。明日、このゴレムスを移送し公開処刑とす」



「ハッ!!招致致しました!!」



「ちょ、ちょ~~~~っと待ったあ!!おいおいおい、スキルは?お前、使ってないだろう!!適当なコト言いやがって、処刑っつったか!?フザけんなよ!!!」



さえずるな!!”酸弾”!!」



やっべコイツ!!俺は咄嗟に術をかわしたものの、狭い独房の壁にはねた強酸が俺の背中にビチビチと降りかかる。いってえ!!畜生!!



「クハハ!!やはり貴様らのようなヤカラにはこの術が効くようだ。無様な石コロめ。今日はせいぜい、最後の夜を楽しむがいい」



「・・・ナっメんなあ!!ドサンピンがああ!!!」



俺は鉄格子にガン!!と手を付き、隙間からヤツの身体を掴もうとする。しかしヒラリとそれをかわされ、汚いモノでも見るかのようにツバを吐きかけられた。



「大人しく死ぬがいい。ハハ・・・クックック・・・」



去っていく審問官たち。

決めたぜ。アイツは殺す・・・。穏便に済ませてやろうと思ってたのに、クソみたいな理不尽カマしやがって。何がスパイだ。エルフってのはあんなヤツらばかりなのか?



ガチン!!鉄格子に拳を叩きつける。隣から、慰めるような声がした。



「ありゃあ・・・”眼力”系のスキルなんて持ってねえんじゃねかな。アイツこそ嘘つきさ。ネイサン、きっとお前は本当のコトを言ってたんだろ?」



「もちろんだ・・・本当に偶然迷い込んだだけの、一般ゴレムスさ。スパイとか、知らねえよ。つーか、”火だるま”ってなんだ?敵対組織かなんか?」



「ああ、そりゃトーチのことだ。あいつら、悪いやつじゃないんだが森を焼いちまうだろ?だからエルフには毛嫌いされてる。エルフの国家転覆を目論んでるなんて陰謀論まである始末さ。ダークエルフとしては、時々商売なんかもする関係なんだがな」



トーチ!キャラクリで俺が迷った種族の一つだ。精神汚染(小)があるせいで採用は見送ったが、めちゃくちゃカッコ良さそうな種族なんだよな。近くにいるってコトなのか・・・。



「はあ、なんにせよ・・・しなきゃなあ。脱獄。俺は穏便にやりたかったっつうのによ」



「お!もしやお前、可能なのか?何か算段があるってな口ぶりだ!」



「そりゃあそうさ。これも何かの縁だ、サンザも一緒に行くかい?」



「当たり前よ!!ハハ、お前は神が遣わしてくれた使徒なのかもしれねえな!」



「う~ん、間違っちゃないかもな。そしたら、夜まで待とうぜ。お前の目、頼りにさせてもらうよ」



俺らは脱獄の計画を練りつつ、夜を待った。

こんなことになるなんて、思ってもみなかったぜ。ヨーグちゃん・・・。



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