第16話 なんか分かってきたっぽい①


意気揚々と「仮決め」の検証に乗り出した俺だったが、初っ端から不可解な事象に対面し頭を抱えていた。


▼初級剣術の心得の検証を始めてすぐに、何もできないことに気付いた。武器を装備していないため〈スラッシュ〉が発動できないのはいいとして、喧嘩術の検証で体験した「一月分の修練のサルベージ」すらもできない始末。


まるで◆土石術師の資質の検証時のように、何も得ることができませんでしたという状態だ。ぐぬぬ、何か見落としているのだろうか。


試しに、付けっぱなしだった喧嘩術と土石術を取っ払ってみる。他のスキルが付いていない状態で再トライする、も・・・ダメ・・・。


またあれか?条件が整っていないというオチかもな。

何が足りない。この場合、剣術にとって一番大切な要素って、なんだ?




・・・やっぱ、剣が手元にある事。なんじゃねえのかな。


え、もしそれだとしたら「心得」系って喧嘩術以外は全滅じゃね・・・?

対応する武具を手に持って初めてアタマに電流が流れて、師匠に教わった修行の内容がサルベージできるようになる?まずいな、そりゃ。


俺はとにかく武術に明るくない。なので「仮決め」検証を利用して様々な武術の基礎に触れ、知見を広げようという思惑だった。


それが叶わないということに若干のショックを覚える。強くなれるチャンスだったのにな。キャラクリにおいては上昇志向のかなり強いこの俺だ。残念、の一言である。



ああ、逆に考えればアレかもな。スキル一覧の先頭、一番初めに目に留まる▼初級剣術の心得が「仮決め」検証に引っかからないということは・・・


つまりは一回、この「仮決め」のシステムに気付く機会を奪われるというわけだ。


恐らく、続く▼初級弓術の心得でも同じような理由で検証が失敗するのだろう。槍術、斧術、盾術もきっとそう。そして初めて喧嘩術で成功し、「資質」系でまたマナ不足という理由から検証失敗が続く。


「仮決め」のシステムに気付けるのって、実は結構難しいことなんじゃないか?


俺はたまたま喧嘩術を気に入り、さらにたまたま喧嘩術が付いた状態で暴れて・・・あれ、なんで暴れたんだっけ・・・笑

まあいい。そうやって偶然が重なった結果、気づいたんだ。


俺以外の転生者も「仮決め」にはすぐ気づくものかと考えていたが、意外と爆アドだったのかもしれないぞ・・・!ワクワクしてきたわ。


それでは仮説の確証を高めるため、他の「心得」系の検証を進めてみますか。




・・・



▼初級弓術の心得はやはり弓が手元に無いためか、脳みそが反応しなかった。そして〈待ち伏せ〉については恐らく発動ができた・・・のか?スキルの性質的に発動成功しているのかどうか分かりにくい。


隠蔽効果と体温の変化を抑える、だったか。これでは仮決めのシステムに気付くことはできないだろう。ぶっちゃけ俺にもよく分からないし。



・・・



▼初級槍術の心得、▼初級斧術の心得、▼初級盾術の心得に関しては本当に予想通り、な~~~んにも反応が無かった。やはり武具が無いと話にならないっぽい。


これはもう、「資質」系も吹っ飛ばして単品スキルの検証に進んでもいいんじゃね?

マナ問題は神様から聞いた確かな情報だしな。おし、時短しちゃお。





ではまず、〈夜目よめ〉だ。

こういった感覚系の強化スキルは、目に見えて効果の程が確認できるだろう。と、思っていた。が、しかしこの部屋の外を〈夜目よめ〉で眺めたところで何も見えはしないのだった。


そういえばウォリック様が現れた際も、別に窓の外は暗くなかったんだよな。あれだけの巨躯に影が少しも差していなかったのだから。


よって、このスキルに関しても検証は失敗寄り・・・だな。



次は〈遠視〉。

またもや検証に使うのは窓の外だ。


・・・マジで、虚空。何も見えないな。あ、そもそも〈遠視〉は使おうと思わなきゃスイッチが入らない類のスキルだったような。


集中、集中・・・遠くにある何かが見たい・・・集中だ・・・

ず~~~~っと向こうに神様の家とか、ねえかな・・・いかんいかん。覗きじゃねえんだから・・・ドフフ・・・


神様がこう、寄ってたかって焚火とか囲んでねえかな。超神聖な火の前で、転生者たちの動向をビジョン的なもので眺めてねえかな~~なんて。






・・・





「・・・おおぃ、なぁに見てんだよぉ。テメ~~~」




ビクッ



男の声。しかも声色から感じられるのは「陰湿さ」。

やっちまった。悪意の元凶の神に存在がバレないために、神とはあまり接点を持たないようにしようと決めたばかりだろ、俺。


なんでジロジロ外を眺めたりした!ウォリック様が窓の外に現れたということは、神は窓側の方角からやって来るんだって想像付くハズだろ。




「シカトするのかよ、人間が。それってアタマ、悪くねえ~か?」



「え、ハイ!申し訳ございません、神様!」



反射的に応対する。部屋の中にはいつの間にか黒い粒子のようなモノが充満し、その中心には人型の”ナニカ”がいた・・・



「喋れんじゃね~かよ、ドサンピンがよぉ。オレ、もうちょっとでぶっ殺しちゃおうかと思ったぞ。危なくねえ?」



「ハイ!アッス!!神様の慈悲のお陰様で今もこうして生きております!アッス!!!!」



秘技、三下さんしたの構え・・・。主に話が通じないタイプの厄介上司等に使用すると効果てきめん・・・弱者の知恵・・・!



「・・・そう!そうだよ人間~、お前らそういう態度取んなきゃダメ!最近バカばっかでよぉ~”対等”みてえな喋り方するイカレた奴いっからよ~、・・・なあ?」



「我が同族の教育が行き届いておりませんで・・・重ね重ね!申し訳!ございません~~!!!」



「・・・クホッ!!クホホ・・・!お前・・・良いなぁ!!」



「・・・あん?でも、アレだな・・・」



神にジトっとした目で見つめられる。

蛇に睨まれた蛙。まな板の上の鯉。俺は、どうすることもできない。



「な、何か・・・?」


「あ~~~、お前ってばよ。素質がねえわ。オレ様の力の。」


「”悪”の道の素質が、ねえわ。つまんね~」



最近聞いた言葉だ。悪の道。〈盗人の手〉の、アレだ。



「神様、もしやあなた様は・・・悪神様でいらっしゃいますか・・・?」



「・・・ハァ?」



ビクッ



「オイ!ハハッ!お前分かるのかよ!!な~~~んでだよお前この世界の住人でもね~クセしてよ~~~!分かっちゃうか!?ンハッ!!クホホ・・・」


「ッ・・・もちろんでございますとも!!こ、この石板を眺めておりましたところ!悪神様のお名前がありましたもので!きっとあなた様のような偉大なオーラに包まれた神様なのだろうな~なんて!えへへ・・・」




秘技、三下さんしたの構え・・・二の型、”褒め殺し”・・・!



「あ~・・・クク・・・成程なあ。あのバカ、オレ様のこともちゃ~んと書いてやがんだ」


「え!あ・・・えと、あのバカ・・・とは・・・?」




「あん?あぁ、プリマスだよ。あのバカ。人神の。」


「それ初めに書いたヤツでよお、今は・・・クホホ・・・罰ゲーム中で・・・」


「クホホッ!!幽閉中!!ダ~~ッハッハッハッハ!!!!」



二重の衝撃が走る。

前任者さん、あの人が人神・・・!!


そして、何だ?幽閉中??











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