宿りし呪い、そして君

双葉想

プロローグ 夢現

 暗闇の中から現れるのは白い衣を見にまとった女の人。光がほとんどない中で、彼女の姿だけがぼんやりと浮かび上がる。ゆっくりと私の方へ歩いてきて、目の前で止まった。そして女の人は静かに口を開く。どこか儚く、消え入りそうな細い声。


「あなた…あなたなら私を助けてくれる…?」


 その言葉が頭の中を反響する。

 私は答えようと口を開くが、喉の奥でつまり、言葉が出ない。

 私は顔を見上げた。何故か不思議と女の人の顔はぼやけて見える。女の人は微動だにしないが、私を見つめ、微笑んでいるように思えた。


 私がゆっくりと足を踏み出すと、地面が消え、周囲が明るくなった。

(ここは…)

 目の前には大きな桜の木々。だが普通の桜とは違い花びらの一枚一枚が淡く光ながら舞い散っている。まるで天国にでもいるのかと思った。


 ふと、後ろを振り向くと小高い丘の上にさっきの女の人が見えた。女の人は近づいてこようとはせず、その場に立っている。

 私は近づこうとしたが、足が重く、その場から動けない。彼女は見守っているかのように私を見下ろしている。

 おもむろに女の人が口を開いた。何を言っているのかわからない。口の形でなんとか判別しようと私は口元を見つめる。

(−その角を持つ者…?)


 すると、たくさんの花びらが舞い、私の目を覆った。次に目を開けると女の人は消えていた。


 ◇


「…またこの夢」


 私はベッドに横たわりながら、深く息を吸い込んだ。思わず口にした言葉が夜明けの空に響く。まだ、目の前に桜の花びらが舞っているような気がする。


 額に手を当てると、いつもの感触。そう、私にはいつの日からか、額に。私はその角を触りながら不安を感じていた。


 は、この角が生える前から一週間に一回ほどの頻度で見ている。だか、いつもは歩き、地面が消えるところで目覚めていたはずだ。


 あの言葉、「その角を持つ者」

 −それが何を意味するのか、あの女の人は私に何を伝えたいのだろう。


 今は、何もわからない。

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